無敵少年 |
ゴムの腕がぐうん、と伸びる。 それは相手の急所とかそういうのを狙うんじゃなく、闇雲にただ拳を打ちまくるだけの単調な攻撃。 それなのに気がつけば相手はふらふらで、息も絶え絶えで、そのどでかい図体をぐらりと倒す。 (ったく、敵わねェなあ) バチィッと景気のいい音を立てて腕を元の長さに戻したルフィが、高々と血塗れの右手を振りかざした。 ふん!と鼻息も荒く倒したばかりの相手を見下ろした、その顔。 怒りに燃えたルフィの瞳は、いつものガキくせえ面はどこへやらって位、強さを増して輝いている。無邪気な少年から、闘う男に変わった強い強い、俺らを引き寄せて止まぬその瞳。 (ああ敵わねェ) ルフィが今倒したのは相手の首領格だ。俺とクソ剣士が十把ヒトカラゲの雑魚を相手してる隙に、あいつは真っ直ぐその中心に踊りこむ、いつもの戦闘パターン。 俺がうっかりルフィに気をとられてる間にも、ゾロは三刀を振り回して雑魚どもを薙ぎ倒す。ちらりと視線で立ちんぼの俺を責めたので、負けじと俺も敗残兵を文字通り蹴散らし片っ端から海に落としまくった。 同じ男、それも年下。 何が敵わねェのかと思いつつ、でもやっぱり敵わねェな、と思う。 この俺がだぜ? 悔しいと、思わないこともねェ。俺だって男だもんよ。 俺らが後ろを固めてるのがさも当たり前だって顔して、真っ先に敵陣に突っ込んでく図々しい男。 その勝手さを、信頼を、許容して且つ嬉しがる俺。 俺は、こいつに惚れてるんだと思う。 だって物凄い引力で引き寄せられる。 でもまァ、 男が男に惚れるってなァ、そう悪いことじゃねェよな? 気付けば乗り込んだ敵船には、累々たる海賊の山。 あーあー、喧嘩売るときゃ相手を見るもんだぜ?つって、ウチの船長じゃそれもしょうがねぇか。あいつの凄さは、目の当たりにしなきゃ解らねェだろうよ。 ボロ船だからつって有無を言わさず襲ってきたテメェらのアホさ加減をせいぜい海の底で後悔しやがれ。 「あー腹減った。サンジ、メシーッ!」 そうしてナニゴトもなかったかのように、ニカッと景気良く笑う船長。 呆れてつられて、こっちまで笑っちまう。 ふと隣を見ると、同じようにマリモまで笑ってやがった。ちっ。 こいつも多分俺と同じだ。 どこまでいっても底なしの船長に、骨の髄まで惚れきってやがんだろうなァ。 冗談じゃねェ、テメェだって同じ穴の狢じゃねェか未来の大剣豪さんよ? でもなァ。 「おいクソマリモ」 「んだ、クソコック」 「テメェにだけは、負けねェぞ俺ァ」 「アァ?何寝惚けてんだお前」 「寝惚けてんのはテメェの専売特許だろーが寝腐れマリモ。―――さぁて、欠食児童に美味いメシでも喰わせてやるかねェ」 カタナ振り上げて文句を言い出しかけたアホ面を無視し、俺はさっさと腕まくりして一足お先に懐かしのG・M号へと飛び移る。 もうひとつの俺の戦場はそこにあるのだ。 今日はクソゴムの誕生日らしい。予定より早ェがケーキカットと行くか。 ガキども、テメェらだって俺には絶対敵わねェんだって、一口喰って思い知るがいい。 |
(2003/05/05) |
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