蕁麻疹


 どうも朝から、背中が痒い。
手が届かない場所、しかも広範囲。痒くて痒くて身体がむずむずして仕方がねェ。蚊がいるわけでもないしハンモックだからダニってこともねェだろーし、一体どーしちまったんだか全くもって頭が痛ェ。
 イヤ頭より背中だ。今の俺に必要なのは孫の手だ。

 しかし当然G・M号にそんなものはない。
しょうがないので、孫の代わりにクソ剣士を使うことにした。

「…で?」
「で、じゃねェよ気が利かねェなクソッタレ。いーから黙って背中掻きやがれ」

流石にサルっぽくカッチョわりートコロをレディには見せたくないし、ガキ共に騒がれるのも面倒だ。
 そういうわけで皆が寝静まったころ、俺はこっそりゾロをラウンジに呼び出してコトの仔細を告げた。



 上半身裸になって、ヤツに背中を向けてやる。ゾロははじめ「なんで俺が」とかブツブツ文句を云ってたが、どうも俺の背中は発疹で真っ赤になっちまってたらしく、見せた途端に黙り込んだ。ほれゾロ、可哀想だろ俺?テメェもタマには役に立ちやがれ。
 ハァ、と溜息をついた後、ゾロはその無骨な指先でかりかり俺の背中に爪を立て始めた。

「………」
「あーそこそこ…もうちょい右」
「………」
「ストップ行き過ぎだクソ野郎。…うー、きもちいー…」
「………」
「ん、もっと強く…あ、」

あーこりゃいいわ、戦闘時以外は寝てるダケの石潰しだと思ってたが、コレでなかなか使い勝手があるじゃねェの。

「―――お前こりゃ、蕁麻疹だぜ。チョッパーに薬でも貰った方が早ェぞ」
「アァ?いーよもう。テメェがいるもん」
「………」
「なぁ、もっとシてくれよ。スゲエ気持ちイイ」
「………」

それから一時間ばかりご奉仕させて、よーやく俺の痒みは納まった。多分、治りかけのピークだったんだなー。

「うっしご苦労さん!もういーわ」
「…ア?」
「なんか治ったくせえ。…さーて寝るかな!おうクソマリモ、テメェもさっさと寝ろ」
「お前…マジでイイ度胸してんな。ヒトを散々コキ使っといて礼も無したァどういう料簡だ」
「んだケチくせェこと云ってんじゃねェよ。テメェが蕁麻疹になったら俺が掻いてやっか」

云い終わらないうちに床に引き摺り倒されて、何故かなし崩しにカキっこに突入した。
 蚊に刺されるよりぶっといモンで遠慮なしに挿されまくって、めちゃくちゃに掻き回されてそらもう大騒ぎだ。

 夜が明けて俺を見たナミさんが開口一番、

「サンジ君大丈夫?なんか、すごい大きな蚊に刺されてるみたいだけど」

と同情してくれた。
 視線が襟元でちょっと泣きそうになった。

  

 (2003/07/08)

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