瞳を閉じて


 限界まで開かされた足の付け根がぎちぎちと痛む。
その中心では裸の男が両膝の裏側に太い腕を差し込んで、褐色の肌全体に大粒の汗を浮き上がらせながらそれはもう必死の形相で腰を動かしていた。

(せめて、バックからとか、そーいう気遣いは、出来ねー、もんかね)

正面から抱かれるとどうしても相手の顔を見てしまって、タダでさえ長いセックスの間じゅういつまでも気恥ずかしい。
 どこか呑気にそう思うサンジの息は、そのくせ自らを穿つ男同様に100メートルダッシュを何回もこなした後みたいに上がっていて、まるでサカリのついた犬そのままにハァハァとせわしない呼吸を繰り返している。
 両足と同じくらい、いやそれ以上に開かされた部分は、やはりとんでもない痛みをその細い肢体に味あわせ…それでも柔軟に大きな男のそれを咥えこんで、泣きたくなるほどの快感をサンジに与えながら、もっと奥へと誘い込むように細かな蠕動を繰り返した。
 ゾロに抱かれることに慣れた体は、おかげさまで順調に開発されているようである。

「ア、 ッふ、ん…んんーっ」
「もうキツイか?すげェ締め付けてくる…」

耳を塞ぎたくなるくらい恥ずかしい言葉を囁きながら、自分の下で身を捩じらせる青年を、ゾロはそれはもう嬉しそうに遠慮なく眺めまくった。
 セックスするとき彼の目の端はいつもこう、なんというか笑いを堪えるように文字通りやに下がっていて、折角の男前が台無しだ、とサンジは密に思っていたりする。
 多分、サンジを抱くゾロと同じくらい、嬉しく。

(…ックソ、嬉しそーにしやがって…)

そう、嬉しいのだ。ゾロはいつになっても、サンジを抱けることが嬉しくてしょうがないらしいし、サンジだってそれが嬉しくてしょうがない。
 黙っていれば怒っているようにしか見えないきつい顔立ちが、こうして自分に触れているときばかりはまるで子供のように幼く見えるのだから不思議だとサンジは思う。
 同い年ではあるけれど、サンジとゾロが背負っているものの大きさはそれこそ天と地とのひらきがあった。
 コック志望の貧乏学生でしかなかったサンジと、まがりなりにも小国の王であるゾロとのそれは、当然のことながら比べるべくもなくて。
 キレイで優しい女官たちに囲まれて…それは今のサンジにとって目の保養でしかないわけだが、昼間はのんびりと好きな料理に没頭したり、気ままに城内を散策したりと、ある程度自由に過ごしているサンジには想像もつかないほどの重責が彼には掛かっていて、一日の務めを終えてサンジの待つ宮殿へと帰ってきたゾロは、そこではじめて年相応のプライベートな時間を持つ。
 まぁつまり、サンジといちゃいちゃしてるときだけが本来の彼の姿な訳で、恐らく四六時中仏頂面で『コワイ王様然』としているゾロが、自分の前でだけガキみたいに甘えた姿を見せちゃってんだろーなー、とか思えば、サンジだってほぼ連夜に等しいゴムタイを許してしまえるほどには気分がいいわけだ。

(必死なツラ…ンな俺がスキかよ)

ガツガツ乱暴なほど腰を揺さぶられながら、スキなんだろうなー、なんて呆れ混じりに自答する。
 幾ら王様だって他国民を掻っ攫って軟禁してゴーカンってのは立派な犯罪だ。
下手をしたら国際問題にだって発展しかねないことを衝動的にやっちゃうくらい、ゾロはサンジにベタ惚れだった。
 うっかりそのままゾロの国に居着いてしまったサンジだけれど、本来ならどんな手を使っても逃げ出していただろう。
 そうしなかったのはこれまたうっかりサンジがゾロの熱意にほだされて、というか寝技にかかったというか、

(この、瞳が)

金色に光る、サヴァンナに棲む野生の獣のように強いゾロの両眼。
 恐らく初めてそれに見据えられてしまったとき既に、サンジはゾロに捕らえられてしまっていたのだからしょうがない。
 故にサンジはこの体勢でゾロに抱かれるのが苦手なのだ。
全てを見透かすような不思議な色合いのこの瞳に見つめられてしまったら、まるで金縛りにでもあったようにサンジは動けなくなって、すべての抵抗を放棄したくなってしまう。男の自分が男に組み敷かれているという屈辱を忘れてしまう。
 プライドのすべてを投げ出して、今までの生活だとか、ほったらかしにしたままの家族だとか、小さいころの夢だとか、大事なものをすべて捨てて、
―――いっそ彼だけのものになってしまいたいと思ってしまう。

(ヤベーよなァ、こんなの普通じゃねェ)

より強く想われているのは自分だと、そうでも考えなきゃ男とセックスするなんてトンデモナイこと、認めてられないサンジなのに。

(こんなんじゃ、まるで)

俺のほうが。







「…ンジ…ッ」
「ふぁッ」

ぐっと突きこまれて、大傷を刻んだゾロの上体が互いの胸がぶつかるほどに傾いだ。
 擦れ気味の低い声が耳元で小さく名前を呼んで、反響にびりっと頭が痺れる。
イヤらしー睦言なら勘弁したくなるほど散々聴かされまくったサンジだが、不思議とゾロは二人っきりの時間を過ごすときでさえ、滅多にサンジの名を口にすることはない。
 元より饒舌なほうではないのだろうが、もしかしたら変なところで恥かしがっているのかも知れないと思う。
 しかし実はその『滅多にない』ことは、サンジのツボをとんでもなくヒットする性技のひとつでもあって、

(あ、ダメだやめろ俺)

そう思うのに、サンジの両腕は勝手に持ち上がって、

「…ゾロ…っ」

自分より一回り太い首にしがみついて、重いだけのはずの男の体をぐいっと引き寄せてしまうのだ。
 ゾロはちょっと目を瞠って、それから満足そうにニカッと笑ったけれど、きつい快感に追い詰められたサンジは固く目を閉じてしまっていたのでそれを見ることはかなわなかった。
 要求にこたえるようにきつく抱きしめかえされて、今度は頭だけじゃなくて全身に電気が走りぬけたように感じる。
 潤滑油でべとべとになった後ろをいっぱいに犯されて、その刺激だけで勃起した性器が、ゾロの動きに合わせて逞しい腹筋にぺちぺちと当たりまくってこれまた気持ちがいい。
 今夜だって挿入の前に一度スッキリ抜かれたというのに、しつこく弄られしつこく突かれて、ほったらかしのサンジのそれは先走りでしっとり湿り気を帯びてしまった。
もうすぐにでも爆発しそうなくらい張り詰めている。
 けれどゾロのペニスはサンジの腸内で蠢きながら、それ以上に膨れ上がっていて、限界ギリギリまで彼を堪能しようとせっせと抽挿を繰り返してサンジをたまらなくさせるのだ。

(やべ、中出し、され)

る、と思った瞬間、背中のほうに回ったゾロの腕にいっそうの力が篭って、腹の奥で熱いものをびしゃっと吐き出された。

「…あっ…」

頭の中が真っ白になるほどの快感。
 あーこれでまたエッチな後始末されちまう、とか思いながら、サンジも自らの白い腹の上に、快楽の証を解き放った。







「…バカのひとつ覚えみてェに、正常位に拘りやがって」
「あ?」
「毎晩がっつくエロキングな割りに、テクのほうはお粗末じゃねェの」
「…そりゃ俺の上に乗りてぇってことか」

とんでもない返答に「違ェよボケ!」とサンジは脱力した体を無理やり引き起こして、隣でひっくり返ってるマリモ頭に頭突きを食らわせた。

「ンなッ、何で俺がテメェにそんな過剰なサーヴィスしてやんなきゃいけねーんだ!ウゼえからエッチの最中まじまじまじまじ俺の顔を見るな、っつってんだよ!」

解ったら今度からはバックでやれ、と偉そうにふんぞりかえったサンジを、広い額を赤くしたゾロはやれやれと腕の中に引き込んで、

「お前の背中を眺めてるのも、それはそれで楽しいが」
「んんん?」
「どうせならずっとこっちを見ときてぇ」

両目を閉じた男に右目の上からちゅっと軽く音を立てて口付けられて、サンジはそれはもう憐れなほどに赤面し、ニヤっと笑った王様は不敬な虜囚にベッドから思い切りよく蹴り落とされた。





END

  

 (2004/08/16)

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