恋人たちのクリスマス (SIDE:mami)




 ■十二月二十三日■

『クリスマスって、なんで特別なんだろ』

 慌しく帰り支度をするクラスメイト達が騒々しい放課後の教室。サンジはひとりぼんやりと寒々しい窓の外を眺めながら、そんなことを考えた。

『別になあ、いい思い出なんてそうある訳でもないのに』

 世間一般から言えば、クリスマスは特別なんだと思う。恋人達にとってはスペシャルイベントだし、一般家庭のほとんどが、ケーキを食べたりツリーを飾ったりしているはずだ。子供達はプレゼントをもらえるというだけで、完全に『特別』な日だろう。
 けれど、サンジは違う。唯一の家族である祖父は洋食屋のシェフだ。クリスマスはかきいれどきで忙しい。当然サンジは構ってもらえるはずがなく、家でのクリスマスパーティなんて経験したことがない。

『………あいつんちもそうだしな』

 隣家の幼馴染、ゾロも同様だ。酒屋であるゾロの家もクリスマスとくれば当然忙しい。あまり商売に欲がありそうに見えないゾロの父だが、どういう訳かクリスマスだけは業者と提携してケーキまで店頭で売り出す。

『ここ何年かはずっとおれとあいつが店頭販売だ』

 高校を卒業するまで洋食屋の手伝いを許されていないサンジは、暇をもてあまし、結局幼馴染の手伝いをするはめになる。

『接客は、どーみてもおれの方が向いてるし』

 0時ギリギリまで酔客相手にケーキと酒を売り、売れ残りのケーキから一個頂戴して二人で食べる。クリスマスの過ごし方といったらそれが定番だ。

『さみぃし、疲れるし』

 二人で寒さに足踏みしながら、身体をぶつけあって暖をとり、酒とケーキが売れるたびに「ありがとうございます」と声を合わせる。

『――――でも』

 ゾロと共に酒とケーキを売るクリスマス。サンジはそれが嫌いではなかった。

『どっちかってぇと』

 癪に障るが、好き、だったんだろう。
 来年高校を卒業したら、サンジは祖父の洋食屋で見習いを始める。そうなれば当然クリスマスは仕事だ。隣家の手伝いをできるのは今年が最後だ。だから、張り切って手伝うつもりでいた。

『ってのに――』

 サンジはがたん、と荒い音を立てて椅子から立ち上がった。二つ前の席で帰り支度をしていたクラスメイトが驚いて振り向く。どうした、と問うような表情にサンジは「なんでもない」と軽く手を振った。
 クラスメイトは安堵の表情を見せ――サンジが外見に似合わず切れると恐ろしい男だということはクラスメイト(男に限るが)なら誰もが知っているところだ――再び帰り支度をはじめたが、「あ」と声を上げてサンジを振り返った。

「そういえば」
「ん?」
「おまえ、明日のイブ、予定ないんだろ?聖リラの子達と合同でクリスパやんだけど、来ない?風邪っぴき多発で人が足りなくなっちまってさあ」
「……おれが予定ないって、なんで決めてんだ?」

 クラスメイトの当然と言った口ぶりにサンジは首を傾げる。クリスマスの予定など、クラスメイトの誰とも話した覚えはない。

「クリスパ、人数が足りなくなったって話を昨日してっとき、ゾロがいたんで声掛けたんだわ。おまえも一緒にどうかって。おまえら、こういうのに来たことないから駄目元―って思って聞いたんだけどさ。あいつ、自分は家の手伝いがあるからダメだけど、おまえは予定ないはずだって。だから、空いてんだろ?」

 来てくれたら盛り上がんだけどなー、おまえ、結構聖リラの子に人気あんだぜ、と続けていたクラスメイトが途中で口を噤んだ。

「……サンジ?」
「―――わかった」
「おまっ、なに、おっかねぇ顔してんだよ」
「おれ、行くから、明日。面子に入れといて」
「おい、ケンカに行く訳じゃないんだぞ」
「クリスマスパーティだろ?あたりまえじゃねぇか」
「じゃあ、なんでそんな殺る気満々みてぇなツラ…」
「じゃ、明日、よろしくなっ」

 サンジはカバンを引っ掴み、少し怯えた顔をしたクラスメイトの肩を叩いた。そのまま大股で教室を出ようとして壁に肩をぶつけ、イラっときて軽く壁に蹴りを入れる。

「〜〜〜おまえ、マジ、ケンカと勘違いしてねぇかあ……」

 感触からすると、穴があいたかもしれない。クラスメイトの情けない声が背中に聞こえたが、サンジは振り返らず教室を後にした。







『今年は手伝いはいらねえ』

 三日前にゾロにそう言われた。最初は冗談かと思っていたら、どうやら本気のようで。

『なんでだよっ』

 何度聞いても口をへの字に結んだまま、答えやしない。ゾロがこの顔をしたら、どんなことが起ころうと言っていることを翻さないのは長いつきあいで重々承知している。だが、承知はしていても納得ができないものはできない。会話で解決できなければ実力行使しかないが、本格的な殴り合いになる前に、ゾロの姉であるロビンから「古い家だから、あまり負担をかけないで」と至極冷静に制止された。それから、口を利いてない。

『ご丁寧にクラスのヤツにまで言ってるってのぁ、どういうこったよっ』

 ただでさえ不機嫌の素になっていたクリスマスが、先刻のクラスメイトの話で一気にサンジの中で膨れ上がった。

『そんなに手伝わせたくねぇのか?だったら、理由を言ってみろってんだ』

 殴ってでも口を割らせてやる。家の外でやればロビンに叱られることもないだろう。怒りで勢いづいて、ほとんど走るように歩く。だが、自宅――と、その隣にあるゾロの家――に近づくにつれ、サンジの歩みは鈍くなってきた。

『………………ありえねーとは、思うけど』

 毎年手伝ってきた、クリスマスの店頭販売。それに今年は来なくていいと言ったゾロの理由。

『…………他の手伝い人がいるから、とか?』

 ゾロとサンジはただの幼馴染ではない。一歩進んで、というか踏み込んで、恋人同士でもある。

『恋人断って、他のヤツに手伝わせるのって……』

 別に好きなヤツができたってことなんだろうか。

「いや、ありえねぇからっ」

 思わず声に出してしまうと同時にサンジは立ち止まった。飛び出た自分の声が気恥ずかしい。

「や、でも、マジありえねぇし」

 熱くなった頬を手の甲で擦る。

『………あいつの腹立つとこなんて、山ほどあるけど』

 それでも幼馴染兼恋人である男が、自分をどれだけ好きなのか、サンジはわかる。知っている。どこからわかるのかと聞かれても上手く説明はできないだろうが。

『態度とか、声、とか……って、おれ、なんか惚気てるみたいじゃね?』

 別に他人に対して口に出して言っている訳ではないのに、やたらと恥ずかしくなってくる。

『―――だからこそ、あの態度が訳わかんねーっつーんだっ。って、なんか恥ずかしいのもあいつが悪ぃんだっ』

 路上で一人照れまくったことの責任の矛先もすべてゾロへと向かう。

「ちくしょー」

 やっぱり締め上げて、手伝いを断った理由を吐かせてやる。再度サンジは決意を固めて、ゾロの家へと足を速めた。

 とりあえず自分の家へカバンを放り込み、すぐにサンジは隣家へと足を向けた。店側から勢いつけて飛び込もうとして、

『ぅおっ』

あやういところで踏み止まった。

『ロビンちゃんがいる』

 ゾロはビールケースを運んでいる横で、ロビンがレジに座っていた。

『……ロビンちゃんが家に入ってからがいいな』

 流石に自分からケンカをふっかけるところは見られたくない。怪しい体勢で壁に張り付き、様子を窺うことにした。

「あなた、本当に一人で大丈夫なの?」
「――なにが」
「クリスマスの店番よ」

 ロビンの口から漏れた『クリスマス』の言葉にサンジの耳が反応した。

「別に問題ねえよ」

 ゾロはケースを積み上げながら、ロビンを振り返りもせずに低い声で言い放った。

「だって、お父さんも私もいないのよ?そのうえ隣のコックさんも今年は手伝えないんでしょ?」

 隣のコックさんとはサンジのことだ。幼い頃からゾロの家で食事を作ることが多かったサンジを、ロビンは親しみを込めてそう呼んでくれる。

『ちょ、手伝えないって…』

 まるで、サンジから断ったみたいではないか。思わず店内に入ろうとしたサンジの足をゾロの声が止めた。

「こっちから断った」

 ぼそりとゾロが告げ、ロビンは幾度かまばたきを繰り返した。

「………なぜ?」
「―――別に」

 理由なんかねぇ、とゾロは続ける。

「ないわけないでしょう」
「……あっても言う必要はねぇだろ」

 ビールケースを片付け終わったゾロは、次に棚の焼酎瓶をきれいに並べ始めた。

「じゃあ、私が正式にコックさんを雇おうかしら、明日」
「やめろ」
「どうして?お隣のよしみで私からお願いしてもおかしくはないでしょ?毎年手伝ってもらってたんだし。きっとコックさんは快く引き受けてくれるはずよね」
「………」

 ゾロの眉間に深い皺が刻まれている。

「―――あなたの『理由』が納得いくものだったら、私も考えるけど」

 二人の死角に身をひそめたまま、サンジは思わず心の中で『ロビンちゃん、すげぇ』と叫んだ。さすが、ゾロの扱いを心得ている。こう言われたらゾロは黙ったままではいられないだろう。
 しばらくの間の後、ゾロはゆっくりと口を開いた。

「クリスマスってのは、特別なもんなんだろ?」
「え?」
「特別だって――どいつもこいつも言うじゃねえか。あいつも言ってたし」
「コックさん?」

 片手を優雅に動かして、ロビンがでサンジの家の方向を指し示す。それにゾロは頷いて、大きく息を吐いた。

「………クリスマスがうちの手伝いばっかりじゃ、特別にしようもねえだろ」
「でも、コックさんは嫌々手伝ってくれているようには見えないけど」
「―――あいつが嫌じゃなくても、おれが嫌だ。今年くらい、ちっとは特別なクリスマスってもんにしてやりてぇ」
「……コックさんはそれで喜んでるのかしら」
「少なくとも、寒ぃとこでケーキと酒を売ってるよかマシなクリスマスになるだろ」
「あなたも休めるようにお父さんに頼めばよかったのに。二人でクリスマスした方がコックさんも楽しいじゃない」
「〜〜〜〜気づいたのが遅かったんだよっ!ケーキも発注しちまってたし。キャンセルきかねえし。――――でも、あいつは来年からはクリスマスは絶対仕事だから、今年しかねぇし」

 最後の方はゾロらしくなくぼそぼそと声が小さくなる。ロビンはそれ以上何も言わず、店の奥へと引っ込んでしまった。

『…………ぅわ』

 サンジは手の平で顔を覆った。寒い中、店の外に突っ立っているにも関わらず、頬が熱くてたまらない。

『なんだよ、いまの』

 また、思い知らされてしまった。

『こいつ、おれのこと、大好きだろ』

 ゾロがこんな風だから、自分は自惚れてしまうんだとサンジは思う。細かい気遣いなんて無縁に見える無骨な男。けれど、サンジに対してのゾロの態度は、何気なさを装いながらもいつだって細やかで真摯な思いやりに満ちている。

『……どっか、ずれてんだけど』

 笑おうとして、笑えなかった。
 ゾロの気持ちをまともに受けると、サンジはいつも不思議な状態になる。嬉しくて笑いたいはずが、そこを通り越して泣きたい気持ちになってしまうのだ。

『てか、んとに人の言うこと聞いてねぇよな』

 ゾロはサンジが「クリスマスは特別だ」と言ったというが、そんな覚えはない。

『クリスマスはなぜ特別って思われてるんだろうって』

 疑問を投げかけただけだ。
 サンジは酒屋の店先を離れ、くるりと向きを変えた。自宅まではほんの数歩だ。

「あ、電話しとかねぇと」

 数歩の間にポケットから携帯を取り出し、目当ての番号を探す。発信ボタンを押すと、2コール目で相手が出た。

「あ、おれ、サンジ。やっぱ、明日、やめとくわ。外しといて」

 簡単に伝えると、相手は妙にほっとした声で「わかった」と返してきて、会話はすぐに終わった。

『聖リラのかわいい子たちとのクリスマスってのは、確かに特別かもしんないけど』

 自分にとっての『特別』はきっと違う。

「うしっ明日も早ぇぞっ」

 サンジは勢いをつけて、玄関のドアを開いた。







■十二月二十四日■

「おいっっ早く開けろっっ」

 世間様では楽しい楽しいと騒がれているクリスマスイブの朝。ゾロはたぶん愉快とはいちばん程遠いところで眼を覚ました。

「……うっせぇ……」
「はーやーくっっ」

 ガタガタと窓が鳴る。眠い目を無理矢理あけると、カーテンのない窓の向こうでサンジが両手を振り上げている。

「………」

 近所の犬が見たら尻尾を股の下にしまいこんでしまいそうな人相で、ゾロはむくりと起き上がった。建て付けの悪い窓を開ける。

「てめェ、朝っぱらから――ぐぁっ」

 ゾロが立っているのもお構いなしにサンジが窓から飛び込んでくる。寝ぼけたゾロはサンジの体当たりをまともに受けて、後ろのタンスに頭をぶつけた。

「おら、もたもたすんなっ」

 うなるゾロにサンジの容赦ない言葉が飛ぶ。

「何時と思ってんだっ?んなことじゃ、お客さんとられっちまうぞ。二四時間スーパーに」
「……てめェには関係ねえだろ」

 ゾロが低く呟くと、サンジはにやりと口の端を上げた。

「おおありだ」
「あ?」
「今日、おれぁ正式にマルタカ酒店の店長さんに雇われてんだ」
「……親父に?」
「おう、そうともいうな。まあ、正式なバイトだし、単なる手伝いのおまえより地位は高い感じ?」
「アホか、てめぇ。てか、誰が頼んだよっ今日、おまえは用無しだって――」
「だから、おじさんに頼まれたんだってっ。ぐちゃぐちゃ言ってねぇで、早く準備に入っぞ」

 そういうとサンジはさっさと階下へと降り始めた。

「ばっ…おいっ待てっ」

 ゾロは適当にいつものジャージに着替えると慌てて後を追った。








『………どーゆーこった』

 今年のクリスマスは一人で過ごすつもりだった。

『クリスマスって、なんでこう特別〜って感じするんだろな』

 商店街のクリスマス仕様の飾り付けを見て、そう言って嬉しそうに笑ったサンジがあまりに可愛かったから。 

『来年から、こいつクリスマスは絶対忙しいだろうし。今年くらいはクリスマスらしいことをすればいい』

 ゾロなりに考えて、いつもの店頭販売の手伝いを断った。そのうえ、お祭り好きなサンジが好きそうな企画を立てていたクラスメイトに「クリスマスはサンジの予定は入っていない」とアピールまでしてやった。

『っつーのに』

 なぜかサンジは例年のごとく寒さに足踏みをしながらゾロの横で酒とケーキを売っている。辞めさせようとしたが、揉める暇がとれないほど次から次へと客が来る。客足がいったん落ち着く頃には、ゾロも既に諦めていた。

「なー、ゾロ」
「……あ?」
「さみぃ」

 ゾロに横顔を向けたまま、サンジがとん、とゾロに肩をぶつけてくる。

「筋肉つけねぇからだ」

 ゾロの方からもサンジに肩を押し付けながら、そう返す。サンジはむぅと口を尖らせ「おれは普通っ。てめぇが筋肉過多なんだよっ」と文句を言いながらまた押してくる。
 ぎゅうぎゅうと毎年やっているように身体をぶつけながら暖を取っていると新たな客がやってきた。

「いらっしゃいませっ」

 元気よく声を上げたサンジが、客の方へと一歩踏み出す。触れていた肩が離れて、ふいにゾロは実感した。

『あー……これも今年が最後なんだ』

 サンジがコック見習いとして洋食屋で働き出せば、もうこうやって一緒にクリスマスの店頭販売をすることもない。

「おい、ゾロ、ワインご覧になりたいってよ」
「おう」

 サンジの声に我に返り、接客をはじめる。頭を過ぎった柄にもない「寂しい」という言葉が紛れて、ゾロはほっと息を吐いた。







「今年は好調だったなー」
「……だな」

 あっという間にイブの夜は暮れた。例年、少しは残るはずのケーキも早々に売り切れてしまい、少し早く店じまいをする。

「今年は、ケーキなしだな」

 部屋に引き上げてゾロが言うと、サンジがにぃっと笑った。

「へへー、ぬかりはねぇぜっ」

 ちょっと待ってろ、と言い残し、窓から隣の自分の部屋へと戻る。五分と経たずに同じく窓から舞い戻ったサンジの手には綺麗にデコレーションされたケーキが携えられていた。

「いっぺんくらい、きちんとクリスマスケーキってのを作ってみたかったんだ」

 ゾロの部屋にはテーブルがないので、サンジはゾロに新聞を広げさせ、その上にケーキを置く。持参した包丁で切り分けると、大きめのひとつをゾロへと差し出した。

「………おまえ、よかったのかよ」
「なにが」
「クリスマス、自由にできるのって今年が最後だろ」
「……だから?」
「クリスマスぽいことしたかったんじゃねぇのか?なんつか、こう、特別ぽい感じの」

 サンジはそれには答えず、じぃっとゾロの顔を見つめてくる。

「なんだよ」
「おれ、なんでクリスマスは特別なんだろうって思ってた」
「言ってたな」
「うん。で、プレゼントもらえるからとか、ケーキが食えるからとか、『特別』に感じる理由は人それぞれなんかなーって結論に至ったんだけど」

 サンジがゾロから顔を逸らす。ゾロからは髪で隠れた横顔しか見えなくなった。

「けど?」
「や……なんでもない」
「言いかけたんなら、言えよ」
「別に言いかけてねぇよっ」

 ゾロが無理に覗き込むと、サンジの顔が赤くなっている。ぐい、と顔を近づけて、なぜか潤んだようになっているサンジの目を見て、ゾロは唐突に気がついた。

「――――わかった」
「あ?」
「おまえの言おうとしてたこと、わかった」
「はぁ?んなの、てめェがわかる訳ねえ―――って、別に何も言おうとしてないってっっ」

 頬を一層赤くして、巻いた眉をへにょんと下げて、サンジが叫ぶ。それを遮って、ゾロは告げた。

「おまえといるから特別なんだ」

 サンジはぽかんと口をあけてゾロの顔をまじまじと眺め、次第に眉間に皺を寄せていく。

「おれがそうだから、おまえも――」
「だああああああ、てめっケーキ食えっっ」

 サンジの手が素早くゾロの口にケーキを押し込む。咀嚼に忙しくなったので、当然ゾロは黙らざるをえない。

「………てめェは……」

 サンジが搾り出したような声で呟く。ゾロはもぐもぐと口を動かしながら――飲み込んだらすぐに次が運ばれてくる――サンジを見た。目が合うと、サンジの顔が更に赤くなる。

「……なんで、んな、簡単に言えちまうんだよ……」

 ごくりと飲み込む。もうひとくちが運ばれてくる前に、とゾロは口を開いた。

「好きだからだろ」

 動揺したサンジの手は延々とケーキをゾロの口元へ運び続け、ゾロはほとんどひとりでワンホールを食べるはめになり。

「クリスマスに必要なものは、たったひとつだけだ」

 困った顔のまま、サンジはぼそりとつぶやくと、最後のひとくちを自分の口へと押し込んだ。




おわり

  
mamicarameltea...
 (2009/08/20)

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