水も滴るコックさん |
たっぷり海水を含んだ服は流石に重い。 引き留める腕を振り切るようにざばあと水から上がって、懐かしのG・M号に乗り込んだ。 甲板の端ではナミさんが、ゾロが投げ俺が蹴り飛ばした船長の横っ面をこれでもかこれでもかと張っている。 たらふく水を飲んじゃいるが、この分ならじき目を覚ますだろう。 よほど心配させちまったのかガタガタ震えてやがるウソップとチョッパーに、海底でのあらましをコトコマカク聞かせてやると、取り合えず元気な俺らに安心したのか目に涙を浮かべて感動してやがる。ったく、カワイイヤツラだぜ。 そんな様子を黙って見ていたロビンちゃんはナニが面白いのかクスクス笑ってて、笑顔が可愛かったので俺もつられてへらっと笑った。 なんでか一緒に甲板に上がってきたサルみてぇな大男を、ルフィとゾロと一緒にお星様に変えた後、ようやくお宝検証とあいなった。 俺らが持ち帰った財宝は残念ながらナミさんのお気には召さなかったらしく、ソッコーでぶん殴られた。 多少ヒビが入っちゃいたが、充分使えそうだったのになあの大皿。クソゴムのオモチャやアホ剣士が拾ったサビだらけの剣と同じアツカイじゃ溜まらねーよチクショウ。 でも俺の後頭部にあたったナミさんのグーはちんまりしててホントにカワイイ。 思わずそんなナミさんも素敵だ〜といつもの癖でメロってたら、ゾロに「アホか」と突っ込まれたので取り合えず喧嘩しといた。 拾ってきた甲冑でひとしきり遊ぶのに飽きた船長が、ゾロにくっついてたタコでたこ焼き作ってくれよ、なんて言い出したので、早速ラウンジに向かう。 丁度オヤツの時間だし、たまにはチープなもんでもイイだろう。散々塩水に浸かりまくったジャケットを椅子に引っ掛け、腕まくりして調理開始。 マリモにシブトクくっついてたのは丸々太って調理し甲斐のありそうなタコだった。大鍋に水を入れ、生きたまんま放り込み火をつける。 タコが茹で上がる前に下拵えだ。ダシを冷ます時間を省略するために、粉にした昆布と鰹節を小麦粉と一緒に篩い合わせておく。 生卵と水をボウルに入れて攪拌器でかき混ぜた後、篩った粉をもう一度ボウルに篩い入れ、ダマにならないようによく混ぜ合わてタネは完成だ。 葱とキャベツ、生姜の甘酢漬けを微塵に刻み終わる頃には鍋がグラグラと揺れ、タコが慌てて足を出してきた。 おーおー、イイ具合に赤くなってんじゃねぇか。蓋を開けて逃げ出そうとするタコを菜箸で押さえてやると、観念したかお陀仏んなったか、タコはそのまま大人しくなった。 「さて、」 コンロの火を止めて、鍋ごとよいしょとザルにひっくり返すと、真っ赤に茹で上がった美味そうなタコが現れる。足以外はスライスしてカルパッチョにでもしてやるか。どうせあのマリモは今夜も大酒カッ喰らうに決まってるし。 そういや、まだ酒残ってたっけ…なんて棚を振り返った先には、タオルを被ったゾロが立っていて。 「ナニ見てんだ?まだ焼かねぇぞ」 「…アホかお前」 何故だか俺を見て溜息をついたゾロは、そのままムッとした顔で近づくと、いきなり俺の顔面をタオルで覆ってきた。 「エサ食わす前に、スルことがあんだろ」 そのまま頭を包み込んだと思ったら、親父がガキにするみてぇに、クソでけえ手でわしゃわしゃ揉むように拭き上げる。 「って、なんだよオイ、やめろ」 「びしょ濡れのまんまじゃねえか、ちったあ自分のコトにも気ィまわしやがれ」 慌てる俺なんかまるっきりのシカトで、しょうがねえと言わんばかりの態度で手を動かす。 「自分でやるって!ヤメロてめぇクソジジイかよ!」 そう云った途端、ゾロの動きがピタリと止まった。―――あ? タオルの隙間から覗くゾロの顔が、なんだか変な具合に歪んで見える。 ゾロはゆっくり口を開いた。 「ガキだガキだ思っちゃいたがお前、そんなことまであのオーナーにさせてたのか」 「…ハァ!?んなワケねぇだろ!まだチビだった頃の話だ!」 「チビナス呼ばわりされてたじゃねぇか」 「ありゃあジジイの癖だ!」 ゾロが思いっきり呆れた口調で言うのに腹が立って、トーゼン激昂した俺は自慢の足技をゾロの横ッ腹目掛け繰り出す。 しかしタオル被らされてるせいかイマイチ距離感が掴めなくて、俺の右足はあっさりゾロに捕まった。 「うお!」 当然体勢を崩してグラリと来たところを、しつこく足首握ったまんまのゾロがしっかり空いた手で俺を支えてて、床に激突することはなんとか免れたが。 …つか、ヤベエだろこれ!なんで抱きしめられちゃってるワケ俺よ! 「っおい、放しやがれ」 「嫌だ」 「イヤダじゃねーよテメェ、俺ァたこ焼きを」 「透けてんだよ乳首。…すげえ、クル」 俺の耳元で、ゾロが低く囁く。同時に俺の胸元で遊ぶゴツイ指先。 抱き込んだまま背中から回された指で、濡れたシャツの上から捏ねるようにその部分を弄られて。 宙に浮いた爪先がビクリと震えた。 「ゾ、ロ?」 「―――あんま煽るな?俺はそこまで枯れてねぇ」 「だだだ誰が煽ってんだよ!真昼間から勝手に欲情してんじゃねェハゲ!」 「煩ぇ口だな」 不意に胸元から指が離れ、 ゾロの、 でかい手が俺の顎にかかった。 「―――ッン」 あっさりと重ねられる唇。 たやすく歯列を割って潜り込むゾロの舌は繊細な味蕾を刺激して、上顎をヒト舐めした後俺のそれを絡め取った。 レディの柔らかなそれとは違う熱くてデカイ舌が、俺の口内を好き勝手犯しまくる。粗暴な態度そのままの、ゾロのいつも乱暴なキス。 キスなんてイヤっちゅうほどしてるのに、こいつとするたびに頭ン中が焼き切れちまうんじゃねェかってほどカンじるのはなんでだ。 ああクソ、先っちょ噛むな!俺ァそれに弱ェんだよ…! 飲み込めず零れた互いの唾液が首筋を伝う。いつの間に膝を割られたのか、股の間に足を入れ込んだゾロが、膝頭で俺の股間を擦り上げる。 一番感じる部分にダイレクトで与えられる刺激はやっぱり物凄くて。 擦られるたびに訪れる快感で膝ががくがくする。ヒトリで立っていられなくなった俺は両手でゾロのジジシャツの襟元をぎゅっと握り締めた。 「ふ…ぅ」 散々俺を嬲った後、ゆっくり離れる唇。すっかり脱力してシンクに凭れ掛かる俺に、 「うし」 と満足そうにゾロが頷いた。 なんなんだよソレッ!つうか、俺だけイかせて勝手に満足してんじゃねェ! 目の前の男にイイ様に翻弄された悔しさからギリギリ睨みつける俺に、 「…すげえ真っ赤。タコみてぇお前」 僅かに体を離したゾロが、ニヤリと笑いながら呟く。 「ンなッ…!」 ゾロは俺と茹ダコとを見比べながらクックッと笑い続けるし、俺はもう怒りとか羞恥とかそんなもんで、それはもうタコと同じ位赤くなっちまってるのは自分でも解りきってて。 「…こんの、クソエロマリモーッ!」 油断したクソ剣士に踵落としを食らわせるのは案外たやすかった。 おわり。 |
(2003/02/16) |
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