□溺レ、沈ミユク。



ナルセユカコ

 

 いつから、こんなにも好きになってしまってたんだ。


 何度、同じ疑問を頭の中で繰り返したことか。
 繰り返したところで、明確な答えが浮かんでくることはなかったし、寧ろそんなことはどうでもいいように思えた。欲望に忠実なまでに昇り詰めていく己の体は、自分ではもう制御できずにいる。
 おれが組み敷いている、細く華奢な体を持つ男によって煽られていくこの体。
 きっとおれは、ずっとこうなることを望んでいた。
 おれに好きだと告げたこいつよりも、強くそう望んでいた自分に気づく。


 男の体を抱くことなど、おれの一生の中ではあり得ないことだと思っていた。
 なのに。
 今、おれはこの男に激しいまでの劣情を抱いている。
 嫌悪を覚えるどころか、愛しいと思う気持ちだけがおれを満たしていく。


 そうなることを、一番恐れていた。

 ──だから、一度はあいつを突き放した。





 「お前が好きだ」
 コックがおれにそう告げてきたのは、いつだったか。


 気持ちよく昼寝をしていたところを蹴り起こされて、むっとしたことは覚えている。メシかとも思ったが、ほんの少し前に昼食を食べたばかりだ。日が高いところにあることからも、夕飯時にはまだまだ早い。
 寝入りばなを起こされた不機嫌さを全面に出して睨みつけてやると、あいつはおれのすぐ脇にしゃがみこんだ。そして、呆れたように言う。
「──お前、寝すぎ」
「……るせェ。おれがいつどこで寝ようと、てめェにとやかく言われる筋合いはねェ」

「そりゃそうなんだけど。──てめェに、話があるんだ」
「あァ? 話?」
 面倒くさげに問い返すと、コックはいやに真面目な顔をして頷いた。
 が、それっきり、「うー」だとか「あー」だとか繰り返すばかりで、一向に話を切り出す気配を見せない。
 コックがあまりに真剣な顔をするものだから、よほど重要な話なのだろうと辛抱強く待ってはみたのだが、あまりの歯切れの悪さに次第に苛々としてくる。

「──んだよ。言うのか言わねェのか、はっきりしろよ。言わねェんなら、おれァ寝る」

「まっ、待てよっ。言うっ、言うからっ」
 あいつは焦ったようにおれのシャツを引っ張る。それに顔をしかめて
「あんま、引っ張んな。伸びっだろが」
と言っても、コックはシャツを掴んだ手を離さなかった。それどころか、握った手により力を込めたのが見て取れた。
 何かを耐えるかのように引き結ばれた唇。
 その唇が開いて出てきた言葉は
「お前が好きなんだ……」
という一言。

 何バカなこと言ってんだ、コイツ。

 眇めた目でコックを見遣り、おれは胸中でため息をついた。
 新手の冗談だろうか、と本気で思った。

 コックの女好き野郎嫌いは徹底している。それはもう、いっそ清々しいまでにだ。
 その男が、よりによっておれを好きだと告白してくることなど、ありえない。
 お前が嫌いだ、と言われるならともかくだ。

 それに、その言葉が本気なのだとしても、おれにはコックの気持ちに応える気などこれっぽっちもない。野郎のコックの気持ちに、同じ男であるおれが応えて何になる。
 だから、言ってやった。

「──話ってなァ、そんだけか?」
「え? ああ……」
「アホコック。んな、くだらねェことで昼寝の邪魔すんな」
 おれがそう言った途端、コックはヤツには似つかわしくない顔をした。
 傷ついた、泣きそうな顔を──。

 けれど、その顔はほんの一瞬だけ。
 瞬き一回分の後には、あいつはいつもの人を喰ったような表情に戻っていた。
「ああ、そうだな。邪魔して悪かった」
 言って立ち上がり、こつこつと足音を残してラウンジへと消えていった。

 本気だったのだろうか、と幾許かの罪悪感を覚えはしたが、コックは以前と変わることなく接してきたから、おれもそのことに触れることをしなかった。
 言い方はまずかったのかもしれないが、おれがコックの気持ちに応えてやれないということは、あいつにもわかったのだろう。
 ならば、これでいい。
 自分たちは仲間だ。それ以上でも以下でもないのだから。



 以前とまったく変わらぬ航海の途中、食料補充のためにおれたちはとある島に立ち寄った。
 そこでの滞在期間は二日。
 一泊だけなのに、それぞれが別々の宿を取るのは不経済だというナミの意見が通って、船番のウソップを除くクルー全員が同じ宿に泊まることになった。そのことに対して異論はなかったが、同室がコックだということに、おれはわずかに眉を顰めた。
 よりによってあいつと同室かよ……、と思わずため息が漏れる。
 きっとおれと同室だとコックも気まずいだろうと思ったから、夕飯を済ませた後も何軒かの飲み屋を飲み歩いて、ヤツがもう寝ただろうという頃合に宿に戻った。

 寝ているだろう同室者を起こさぬよう、そっとドアを開けて部屋に入ったのだが、もう寝ているものだとばかり思っていたコックは、まだ戻ってきていなかった。拍子抜けした思いと安堵感を同時に覚え、シャワーを浴びてさっさとベッドに潜る。
 横になればすぐにでも眠れるはずなのに、なぜか今日に限って睡魔の訪れる気配はない。
 何度目かの寝返りを打って、窓にぶつかる雨音に気づいた。
 部屋に備え付けの時計を見上げると、とっくに日付は変わっている。
 はあ、とため息をひとつついて、上半身を起こした。

 ──ったく、あのバカ。手間かけさせやがって。

 どうせこのまま横になっていても、たぶん眠れない。
 いくら普段から気は合わない、気に喰わないコックであろうと、仲間の心配をしないでいられるほどおれだって冷血漢ではない。
 どこかの女を誑し込んでいるのであれば、それはそれでいい。
 もしどこかで酔い潰れてしまっているのならば、連れ帰ってくるのが仲間として当然のことだろう。
 そう思い、おれは宿を出た。


 そして、飲み屋が軒を連ねている場所へ行き着く前に、おれはコックを見つけた。
 あいつは宿からさほど離れていない路地で、建物の壁に凭れるように蹲っていた。いつからそこにいたのか、金色の髪からは雨粒が滴り落ちている。

「おい、アホコック。てめェ、んなとこで何してやがる」
 コックの前に立ちそう言うと、コックはゆるりと顔を上げた。
「……ゾロ?」
 子どものように無防備な顔で、おれを見上げてくる。そのヤツらしからぬ姿に、おれは舌打ちをして、コックの腕を掴んで立たせた。ジャケット越しのその腕は、驚くほど冷たくなっていた。
「アホか、てめェ。手間かけさせんな」
 おれはぐいぐいとその腕を引っ張って宿へと戻った。
 部屋のドアを開けて、コックを中へ入れる。コックは糸の切れた人形のように、俯いたまま身じろぎひとつせずその場に立ち尽くしていた。その様子に再びため息をつき、バスルームからバスタオルを持ってくる。頭にぼすっと乗せてやってもコックはやはり動かず、ぽたぽたと髪の先から雫が落ちていくばかりだった。

「ガキかよ、てめェは」
 ほとほと呆れ返りながらも、タオルでコックの髪の毛を拭いてやった。
 そのままジャケットの水分も軽く拭い取り、脱がせる。
 型崩れしないようハンガーに掛けてやったところで、コックがようやく口を開いた。

「……あんま、……なよ」
 聞き取ることもできぬほどの、やはりヤツらしくない弱々しい口調。

「あァ? つーか、シャツもさっさと脱げ。風邪引くぞ」
 おれがそう言っても、やはりコックはまったく動こうとはしない。
 コックに風邪でも引かれては、こちらが堪ったものではない。
 明日からの食事事情に思いを廻らせ、指一本動かそうともしないコックを見兼ねたおれはシャツのボタンを外していった。脱がせたシャツからも水分を拭い、ジャケットと同じようにハンガーに掛けてやる。それから、濡れた衣服を纏っていたために、同じように濡れてしまっていたコックの上半身も軽く拭いてやった。
「さすがに、下はてめェでやれ」
 ズボンまで脱がしてやろうという気にはなれずにそう言うと、ずっと俯いたままだったコックが顔を上げた。

「……頼むから、あんま、優しくすんなよ……」
 その顔は、泣くのを堪えているようで。

「そんな、優しくされっと、まだ望みはあるんじゃねェかって、思っちまうからよ……」

 そう言って、コックは笑った。
 笑っているのに、その顔はまるで泣いているかのようだ。


 なんつー顔で笑いやがる──。


 そう思ったときには、おれはコックを抱きしめていた。
 おれのシャツ越しからでもわかるほど、冷えきっているコックの躯。
 コックの背中に回した手には、それよりもはっきりとその冷たさが伝わってきた。


 おれが探しにいかなければ、こいつはずっとあの場所にいたのだろうか。
 あの場で雨に打たれながら、膝を抱えたままいるつもりだったのだろうか。
 そして、夜が明けたら何もなかったような顔をして、一人先に船に戻っていたのだろうか。
 冷えきってしまった身体のまま──。

 きっと自分で思うよりも、おれはこいつを傷つけてしまっていた。
 自分のことなど顧みず、他の者に与え続けるこいつの優しさを、当たり前のものだと思っていた。


 コックは、何も変わっていない。
 おれに好きだと告げる前も、その後も。
 変わったのは、自分。
 やっと、気づいたのだ。

 甘いものが苦手なおれのために、おやつはいつも二種類用意していることも。
 和食のほうが好きだと言ったときから、一週間に一度はそれが食卓に上ることも。
 トレーニング後に飲む水が、いつからかレモン汁と塩がほんの少々加えられたものに変わっていたことも。
 いつでも、ワインラックにはおれの好きな銘柄の酒がストックされていることも。


 ひどい物言いでコックを拒絶したのに、こいつは以前と変わらずおれに与え続けていた。
 惜しみない、優しさを。
 コックと違って、おれの手は奪うばかりで与えることなどできない。

 だが、今なら──。
 今なら、おれにも、こいつに分け与えることのできるものがある。


「ゾロ……?」
 おれの腕の中で、コックが身を捩った。腕の中から逃れようとするコックを逃すまいと、抱きしめた腕にさらに力を込める。
「……てめェを暖めてやりてェ。──嫌か?」
 そう訊くと、コックはわずかに身を竦めて、それからやんわりとおれの体を手で押しやった。
「ばーか。無理すんな。──おれなら大丈夫だ。こんくらいで風邪引いちまうほど、ヤワな体しちゃいねェよ」
 コックはそう言って、やっぱり笑った。
 何かを諦めたような顔をして。


 無理をしているわけではない。
 こいつに同情しているわけでもない。
 おれが、冷えきってしまったこいつの体を暖めてやりたいのだ。
 ──おれが、こいつを抱きたいのだ。


「無理なんかしてねェ。──おれが、てめェを抱きてェんだ」
 コックの腕の分だけ開いた互いの距離を埋めようとおれが腕に力を入れると、それ以上の力でコックがおれの体を押しやる。
「──同情なんていらねェぞ。愛のねェセックスなんざ、したいとも思わねェ」
「同情でもねェ。──愛のねェセックスも、する気はねェ」
「え……?」
 コックが、きょとんとした瞳をおれに向けてきた。
 初めて間近で見たその瞳はどこまでも蒼く、吸い込まれそうなほど澄んだ色をしている。


 そう、やっと気づいたのだ。
 ずっと、気づかないふりをしていただけなのだということに。
 きっとずっと前から、おれはこいつに魅かれていた。
 自分の中がこいつでいっぱいになってしまうことを、何よりも恐れていた。
 おれには為すべきこと、守らなければならない約束、果たすべき誓いがある。
 だから、おれを好きだと言ったこいつを突き放した。
 それはすべて、自分のため。
 こいつの優しさに甘えていただけだ。

 だが、もう。
 こいつの、あんな顔は見たくない。
 あんな、笑いながら泣く顔など。
 あんな顔を見せられるくらいならば、こいつで埋めつくされる自分を選ぶ。
 それらすべてを抱えて進んでいく道を、おれは選び取る。


「──ちったァ、気づけ」
 苦笑を隠しもせずに言うと、コックは、「……え?」と視線をあちこちに泳がせた。

 おれの体を押しやっていた腕の力がいつの間にか失せていることに気を良くしたおれは、コックの背中に回していた両手をヤツの両頬へと移動させる。
「お前が好きだって言ってんだ。アホコック」
 言って、おれはコックの唇に噛み付くようにくちづけた。

 見た目には薄いヤツの唇は思っていたよりも柔らかく、その感触をもっと味わいたくて、啄ばむようなキスを何度も繰り返した。
 そのうち、それだけでは我慢できなくなり、コックの口の中に舌を差し入れていった。
上下の歯の一本一本をゆっくりと順番になぞっていき、それが終わるとコックの舌を探し出し、触れた。触れた途端、コックの体がぴくりと跳ねる。その体を宥めるように、手を背中に回し軽くさすってやると、ぶらりと下がっていたコックの手が、ゆっくりとおれの背中に回された。
 まるで何かを確かめるかのように、おれのシャツをぎゅっと握るその仕草に、今までに感じたことのない感情が込み上げてくる。

 それだけでもうやばいくらいだったのに、コックが舌をおれのに絡ませてきたときには、おれは夢中であいつの舌を吸い上げ、舐った。
 あいつの、料理の味の最終判断を下す味覚に敏感なあの舌が、おれの舌に触れているのだと思ったら、それだけで身体中の熱が下半身の一点に集中していった。


 そして、おれは初めて知ったのだ。
 キスがこんなにも気持ちのいいものだということを。
 今までに何度かしたことのあるキスとは、まるで違う。
 こんなに、体が熱くなるような、胸が焦がれるようなキスは初めてだった。
 好きなヤツとするキスは、こんなにも違うものなのか……。
 キスだけでこんなんなってしまうなら、惚れた相手とのセックスなんて、どんなもんなんだ。


 そう思ったら、いてもたってもいられなくなって、おれはそのままコックをベッドに押し倒した。
 触れた唇はそのまま、コックの裸の胸を撫でまわすと、コックの口から
「……ふっ、……んん……っ」
と、どこか甘ったるい声が漏れ出てくる。
 普段は聞くことのない、痺れるような甘い声。
 その声をもっともっと聞きたくて、おれは唇をコックの胸へと這わせた。白い肌の上でぷくんと尖った先を舌で転がすと、コックの体が顕著に反応を返してくる。
 それでも声をあげるまいと耐えているようで、おれの聞きたい声を聞かせてはくれない。
 あげないなら出させるまでと、おれはその尖端に軽く歯を立てた。

「あぁ……っ、は……ぁっ」
 切なげな声とともに、細くて長い指がおれの髪に差し込まれる。おれの短い髪を梳くその動きは、普段あいつが食材を扱うのと同じくらい丁寧で優しいもので、それがおれの欲情をさらに煽り立てた。
 コックの下着ごとズボンを剥ぎ取り、放り投げる。それから自分のシャツも脱ぎ捨てた。

 裸で抱き合った身体は、女のような柔らかさなどひとつもない。
 それでも、適度に筋肉のついたしなやかな身体や顔よりも白い肌は、十分に扇情的だった。
 そのシミひとつない白い肌に、いくつもの痕をつけた。ちょっと吸っただけで赤く痕が残る肌に、色素が薄いのだと改めて思い知らされる。

 おれの唇が触れるたびに、身を捩って反応する白い身体。
 時折零れだす、悩ましげな声。
 恍惚とした表情を隠そうともせず、おれにすべてを委ねるコック。

 いや、──サンジ。

 初めて名前を呼ぶと、サンジは驚いたように眼を見開いた。
 そして、くすぐったそうな顔で笑う。
「……アホ」
 そんな憎まれ口すらも、愛しい。


 名前を呼ぶだけで、こんなにも嬉しそうな顔をしてくれるのならば、何度だって呼んでやる。
 何度でも、好きだと告げてやる。
 何度でも、おれの想いを伝えてやる。
 何度でも、おれの熱をお前に分け与えてやる。


 おれの猛り狂ったものをサンジの中に押し進めると、サンジは苦痛のためか、顔を歪めた。その様子に動きを止めると、サンジはまっすぐにおれを見上げてきた。
「……気ィ遣ってんな。──動け」
「……辛ェんだろ」
「大丈夫だ。──つーか、てめェが、おれン中に入ってんだって思うと、それだけで、いいんだ。それだけで、おれァ、嬉しいんだよ……」
 バカみてェだけどな、と言ってサンジは笑う。

 惚れた相手にそこまで思われて、嬉しく思わない男がいるだろうか。
 胸中に広がった甘酸っぱいものをすべて抱えたまま、おれはさらに腰を押し進めていった。

 サンジの中は、狭くてきつくて、何よりも熱かった。
 サンジを抱いているのはおれなのに、おれがサンジに抱かれているような錯覚に陥る。

 まるで、サンジがおれを包み込んでいるような──。そんな錯覚を覚えてしまうほど、あいつの中は熱く優しくおれを迎え入れていた。

 さっきまで指で慣らしていたときに偶然見つけた、サンジのイイところを重点的に攻め立てると、サンジは体を仰け反らせ、一際高い声で啼いた。
 冷えきってしまっていたサンジの体は今やしっとりと汗ばみ、その体も顔もほんのりと赤みを帯び、上気している。

 潤んだ目でおれを見上げ、舌っ足らずな口調でおれの名を繰り返し呼ぶ。
 おれがサンジと名を呼び、好きだと告げると、いっそう嬉しそうな顔で笑う。
 目には涙を浮かべているのに、笑っている顔。


 それだ、その顔のがいい。
 泣きたいのに、無理して笑顔を見せられるよりも、こっちのほうがいい。
 笑ってる顔のほうが、お前は断然いい。


 目の前に差し出された白い喉元に、唇を落とす。

 サンジを貫く動きを止めぬまま、その首筋にも赤い痕を残した。


 お前はおれのものだという赤のしるし。
 手に入れたモンは簡単には手放さないという、おれの覚悟。


 サンジはそれに気づいているのかいないのか、おれの頭をやんわりと抱きしめ、何度も耳許に囁きかけてくる。
「ゾロ……、好きだ……」
 その、優しさにあふれた声は、おれの耳朶を心地よくくすぐった。



 きっと、おれは溺れていく。
 こいつの身体に、声に、唇に。
 ──こいつのすべてに、おれは溺れていくだろう。

 それもいい。
 光すら届かぬ深海の果てまで、沈んでいこう。

 けど、そんときは──。



 おれが組み敷いている身体は、もはや限界に達しそうになっている。
 それは、おれも同じだった。
 サンジのイイところを擦り上げてやるたびに、きゅうきゅうと締めつけてくるそこに煽られるまま、おれは腰をぶつけていった。

 白い指がおれの背に爪を立て、傷をつけていく。
 おれはその白い胸元に、いくつもいくつも赤い痕をつけていった。

「あああぁぁぁっ……っ、……ゾロ……っ!」
 サンジの体が強張ったのと同時に、サンジのものから白濁の液体が吐き出される。
 その動きに合わせるように、おれを迎え入れている箇所もおれのものを締めつけた。

 押し寄せてくる射精感に抗うことは敵わず、おれもサンジの中に大量の劣情を吐き出した。
 吐き出しながら、サンジの胸に歯を立てる。


 おれからお前への、しるし──。




 おれが沈みゆく、そんときは。


 ──てめェも一緒だ。








END



ブラウザを閉じておもどりください