□ルート66 恋川珠珠
地平線付近で何かがギラリと光った。 それが対向車でなくて停車中の車だと気付くのが遅れたのは、運転手のアマンダのせいじゃない。 ここは荒野のハイウェイ。周りの景色と言やぁ、ぽつんぽつんと立つ低木と石ころと岩。そんな風景のどまんなか、地平線まで続く道を1時間に2〜3度、車が猛スピードで走り抜ける。 そんなだから対向車とすれ違うことはあっても前方に車のケツを見ることなんて滅多にないのだ。 アマンダは、光の元が車体だと気付いたとたん強引にハンドルを切った。かなりスピードを出していたからブレーキじゃ間に合わない。もっともブレーキなんかかける女だったら俺に乗って腰振るようなことはしないだろうが。 減速しないまま車の脇を高速で通過する。 その瞬間、車の助手席でふんぞり返ってあくびをしていた俺はガバッと起き上がった。 クリーム色の車の路肩側に人が立っていた。 肩まで伸びた栗色の髪に緋色のシャツ、首にひっかけたカーキ色のカーボーイハット――後方へ小さくなっていくその姿を、俺は窓から身を乗り出して見た。 突然車が急ブレーキをかけて止まった。反動でドアに頭をしこたまぶつける。 アマンダはドアを開けて俺を蹴り飛ばした。 「ここでお別れよ、ゾロシア。あの女に拾ってもらうといいわ!」 ふんと鼻を鳴らしてアマンダはあっという間に行ってしまった。 俺は土埃が舞う路上に取り残された。 アマンダは俺が他の女とベッドにいても嫉妬などしない。言い寄ってくる女を追い払わないだけだと知っているからだ。自分自身もそういう女の一人だともわかっている。 アマンダが怒ったのはそんなふうに自分からはアプローチしない俺が、車の脇にいた人物に身を乗り出すほど興味を示したからだ。 それにしてもさっきの車は明らかにエンコしている。あの女に拾ってもらえとアマンダは言ったが、あの車が動かなかったら干物になっちまうだろう。女ならともかく、男は警戒されてヒッチハイクもできやしねェ。 まァあの車のエンジンがかかるかどうかやってみるしかあるまい。 俺はズボンの砂を払って立ち上がった。停車中の車にゆっくりと近づく。 キャデラックのコンバーチブル。テールフィンのない上品なスタイルだが、キングサイズのベッドのようなデカくて平らなボンネットから年代物だと知れる。 おおかたレンタカーだろうと思いながら車をざっと検分する。が、レンタカーなら管理用バーコードステッカーが貼ってあるはずなのにそれが無い。もしかして自前か? なるほどな…。俺は納得した。 レンタカーなら整備もメンテも完璧だろうが、自前となるとそうそう毎日メンテなんてしてらんねェ。エンコしても仕方が無ェな。 とはいえ普通はメンテ不十分のクラシックカーで大陸を横断しようだなんて思わねェだろ。よっぽど豪胆なのかバカなのか。ま、十中八九、後者だな。 しかし俺はそんな気持ちをおくびにも出さず言った。 「困ってるようだな、手を貸そう」 男は振り向いた。 そう。アマンダは勘違いしていたが車の傍らにいたのは男だ。胸元をはだけた緋色のシャツの下にはシルバーのドッグタグネックレスが揺れている。 男は琥珀色のレンズがはまった角縁サングラス越しに俺を眺め、低くつぶやいた。 「茶番だな」 どうやら車から放り出された一部始終を見ていたらしい。この車に乗せてもらおうという俺の魂胆など見え見えだってことだ。 おまけにその時の俺の格好と言ったら、黒髪に黒サングラス、太いストライプの入ったシャツに麻のズボン。自分で言うのもなんだが、同乗を断れても仕方が無ェ。だが、こんな車で大陸横断するようなバカなら気にしないだろう。 俺の目に狂いは無かった。やがて男は運転席にひらりと飛び乗って低い声で鷹揚に言った。 「まぁいい。俺も確かに手がほしかったところだ。後ろ押してくれ」 それから30分、ようやくエンジンがかかった。加速していく車に俺は慌てて飛び乗った。 「置いてくつもりかこの薄情者!」 「減速したらまたエンジン止まっちまう」 しれっとした顔で淡々と言う男が憎たらしい。 「こんなクラシックカーで大陸横断しようとすんな、アホか」 俺は車を押しながらなんども言ったセリフをまた口にした。 「嫌なら降りろ。そのアホがいなかったらてめェは今頃まだ荒野に突っ立てるだろうが」 それは違う。この男がいなかったら俺はアマンダの車から放り出されることはなかった。だがその事は言わなかった。 エンコするリスクをのぞけば車は快適だった。それは車の乗り心地のせいでない。 運転手は殆どしゃべらない。だが不機嫌というわけでもなく。カーボーイハットとサングラスで表情は半分しか見えないが心なしか楽しそうに見える。 「喉乾いた」 そう言えば、くいっとクーラーボックスを指し示される。中には冷えた炭酸水とオレンジとチーズとクラッカー。この国は座席にアルコールを積んでいるだけでも取り締まられることがあるからビールが無いのが残念だ。 遠慮なくそれらを食いながら、運転する男の横顔を眺める。絶景だ。 車から放り出してくれたアマンダに感謝だな、と思った。 ビッグシティに着く前に日が暮れた。 街灯があるのは街中だけで、街を外れれば基本的にハイウェイには道路灯は無い。真っ暗な道をヘッドライトだけを頼りに走るのは、クラシックカーで大陸横断するより何倍もバカだ。俺たちは宿を探し始めた。 しかし見えてくるモーテルはどこも「NO VACANCY(空室無し)」。たまに見つかっても駐車場の出口に監視員が常駐してなくてキャデラックなんぞ止めたら速攻盗難されそうなところばかり。 ようやく条件に合うモーテルが見つかったが、部屋はダブルしか空いていなかった。 「冗談じゃねェ…」 と男は額に手を当てて嘆いた。 「それはこっちのセリフだ」 と俺。 しかしモーテル探しはもうたくさんだ。渋る男を無視して俺は偽名のIDとクレジットカードを提示してチェックインし、部屋のキーを受け取った。 インテリアは少し古いがベージュとターコイズブルーで統一された室内は明るくて清潔だ。部屋の中央に鎮座するキングベッドには落ち着いたブラウンのベッドカバーがかかっている。 シャワーを浴び、軽食を腹に入れてから、俺と男はお互いふんと鼻を鳴らしてベッドの端と端に寝た。二人ともベッドを譲る気は無かったからだ。 男は寝相が悪かった。 端と端に寝たはずなのに、いつのかにか男が俺のほうに転がってくる。 ベッドの真ん中を陣取る男を端に押しやろうとしたらすいっと足が上がった。 蹴られると思ってとっさにその足を掴んで封じようとするうち、腹の奥からざわざわした感覚が湧いてくる。女の足のように肉付きが良いわけではない。脂肪のない、筋肉質の固い足だ。おまけにすね毛まで生えている。 だが、小俣が切れ上がってまっすぐなその足は、女の足の、媚を含んだような柔らかさよりも好ましい。 ふといたずら心が湧いて、その足の指をべろりと舐めてやったら、ひくんと身体が反応する。面白くなってもっと舐めてやった。 んふ・・・と言いながら、男が目覚めた。 「なにしてんだ、てめェ」 「舐めてる」 「たまってんのか?」 「そんなはずねーんだが…。今朝まで女といたんだし」 「なら離せよ」 「もうちょっと触らせろ」 「ヤだね。安眠妨害だ」 そう言いながら俺を振り払うでもなく、男はあくびをしてまたころんと寝てしまった。 なんと無防備な。襲われるとは考えないのだろうか。今のご時世、女だけが暴行の対象では無いことくらい知っているだろうに。 試しにがばっと覆いかぶさってみたら、間髪入れずに腹に衝撃が来た。俺の身体は吹っ飛んでがつんと壁にぶち当たる。 いい蹴りだ。俺が惹かれた脚だけのことはある。 蹴られたというのに俺は気分を良くして、こらえきれずにわはははと笑い出した。 その笑い声に、眠りに落ちようとしていた男が身体を起こした。 「どうした、打ちどころ悪かったか?」 「違ェ、俺は自分を誉めてェ気分なんだ」 男はわけ湧かんねェと首を傾げた。かわいい。 あぁまた俺、かわいいとか思っちまってるよ。こんな野郎に。わははは。 壁に寄り掛かったまま笑っていたら、男が起きてきた。 「ホントに大丈夫か?」 差し伸べてきた長い手をぐいっとひっぱって、倒れこんできたところを抱え込んだ。反射的に逃げようとする身体を両足で挟み込む。 「つかまえた」 「てめっ!」 怒鳴りかけた口を、己の唇で塞ぐ。同時に後頭部を抱えて逃れられないようにし、舌を差し入れて口内をたっぷりと愛撫した。 角度を変えて再度口内を味わおうといったん唇を離したら、男が呆れたように言った。 「こういうのがおめーの手か?」 「何?」 「心配して寄ってきた女の子をつかまえて唇を奪う。姑息な手だ」 「そんな小技つかわねーよ。女が勝手にベッドに入ってくるからな」 「は、車から捨てられたくせに」 男は俺の腕の中から抜け出して、あーと伸びをした。 「明け方までにはまだ時間があるってのに目が覚めちまった。散歩でもしてくらぁ。てめェベッド使ってもいいぞ」 男はスラックスを履き、緋色のシャツをひっかけて外へ出ていった。 散歩だなんて言ってたがホントは抜きにいったんじゃねーか?と疑わしく思いながら窓から外を見ていると、男が出てきた。 なんだホントに散歩か。 俺はベッドにぽてんと寝転がったが、どうも自分も寝れそうにない。抜きにいかなきゃならねーのは俺のほうだ。 広くなったベッドで股間に手を伸ばそうとしたら、ぱしゃんと水の音がした。 俺は飛び起きた。 「まさか、あの野郎…!」 シャツを引っかけて男のあとを追いかけた。 推察通り、男はプールに飛び込んでいた。 どうしてこの国の連中はプールが好きなんだろう。小ぎれいなモーテルには必ずプールがある。 男は服のままプールで泳いでいた。これが昼間だったらフロントがすかさず、水着を着用しろと注意に来るのだろうが、こんな夜半にうるさくすると客から文句が出るから見て見ぬ振りだ。 「上がってこい!」 俺はプールサイドから小声で男を呼んだ。俺だって、夜中のモーテルで大声を出さないくらいの節度はある。 節度が無いのは、あの男だ。おとなしく部屋に居ればいいものを、どうしてこう目立つことばかりしやがるんだ。 男は楽しそうに、水の中からおいでおいでと手招きした。 「俺は着替えが無ェんだよ、一着しかない服を濡らせるかアホ!」 と俺はまた小声で怒鳴った。 男はくつくつと笑い出した。笑いながらすいすいと泳ぐ。器用なやつだ。 男の泳ぎは綺麗だった。緋色のシャツが動きにつられて水中でひらめく。熱帯魚のようだ。 プールの端まで行って、男はくるんとターンをした。裸足の指が水面からちらりとのぞく。そういえば靴がプールサイドに脱ぎ散らかされていたような気がする。 ターンのあといたずら心が湧いたのか、男はシンクロナイズドスイミングのように足だけ水面から突き出した。 「何やってんだ、ばか!」 俺の苦情を無視して男は優雅に水中でくるくると舞う。 白い足が水面から出たり潜ったりするのを見ているうちに俺は先ほどベッドでつかんだ脚の感触を思い出して、またそれを掴みたくなった。 「今すぐ上がってこい。来ねェなら俺はここで大声出すぞ」 「なんだよ、その脅し」 男はくすくすと笑ってようやく水から上がってきた。 服からも髪からもぽたぽたと水を滴らせて、男は近寄ってきた。 「おまえも泳げばよかったのに」 そう言いながら男は濡れた足のまま靴を履いた。 歩くリズムに合わせて、男の足元からかえるの鳴き声のような水音がする。 部屋に戻ろうとする男を追いかけながら俺はため息をつくように言った。 「着替えが無いって言っただろ。聞こえなかったのか?」 「お坊ちゃまはモーテル泊まるの初めてか? ランドリーがあるんだぜ」 「洗濯機の前で脱げってのか? 俺にも公衆道徳くれェあるぞ」 「ばーか。俺がランドリーに放り込んできてやるって言ってんだ。てめェは部屋で待ってればいい」 「そうか、それなら…」 俺は即座にずぶ濡れの男を抱え上げ、部屋の前に止めてあるキャデラックのボンネットに男を押し倒す。 「何する気だ!」 俺に乗りかかられた男は、手を突っぱるようにして俺を押し戻そうとする。 「服を濡らしても問題無いとてめェが言った。だがベッドは濡らしちまったら寝れねェ」 「だから、ここでかよ!」 「車のボンネットで女を啼かせることなんざ俺たちの故郷じゃ珍しくもない出来事だろ? なぁサンジーノ」 男の瞳がわずかに見開かれ、白い喉がこくんと揺れた。 「……いつから気づいていた?」 「最初から。俺がおまえに気づかないわけねェだろ。おまえだって俺のこと気づいていたじゃねェか」 「どうしてそう思う?」 「おまえが俺以外の男に触らせるはずがねェ」 「ずいぶん自信たっぷりだな」 「よく知りもしない野郎が脚を触ったり、ましてやキスなんかしたらすかさず蹴るだろうが、おまえは」 「まぁそのとおりだ。こんなふうにな」 瞬時に繰り出された蹴りをよけきれずに俺は吹っ飛んだ。 クソ、余計なことを言わずにさっさと伸しかかっておけば良かった。 が、サンジーノはボンネットの上に乗ったまま逃げようともせずに笑っていた。 そして俺に見せつけるようにゆっくりとスラックスのジッパーをおろし始めた。 サンジーノは下着をつけていなかった。金色の茂みが濡れて濃い色で輝いている。 「こっちは染めてねェのか。つーか髪だってなんで染めちまったんだ。もったいねェ」 「人工皮膚を張り付けて眉を隠しただけじゃ俺様の美貌が隠しきれなかったんだよ。一般客を装ってカジノの視察に来てんのに俺だってバレたらやりにくいだろうが。てめェだって同じだろ? こんな黒髪にしやがって、ゾロシアってバレたらやりにくいことしにきたんだろ?」 「まあな」 サンジーノはスラックスのジッパーを半開きにさせたまま、キャデラックの上に大の字に横たわった。 袖を通しただけのシャツがマントのように広がる。緋色の布の中から白皙の肌が惜しみなくさらけ出された。 「やけに派手な色着てやがるな。おまえが派手好みなのは知ってるが、こんな色を着てるの初めて見たぜ」 「たりめェだろ。俺の本来の髪じゃこんな色似合わねェ。栗色の髪じゃねェと着られねェもん着ようと思ったらこの色になった」 確かにいつもの明るい金髪と真っ青な瞳のまま朱色に近い赤のシャツを着たら道化師だ。ならばこの栗色の髪も、珍しいサンジーノを見られるチャンスと思って感謝すべきなのか。 俺は栗色の髪に口づけた。やっぱり違和感がある。 「せめてコンタクトははずせよ。俺はやっぱりいつものてめェが好きだ」 そういうとサンジーノはくすくすと笑った。 「てめェ、俺にぞっこんだな」 コンタクトの下から、いつものブルーが現れた。 そうだ、この目だ、俺が好きな目は。 見たとたん余裕を無くした。ボンネットに乗り上がってサンジーノを抱きしめる。 水に濡れた身体がひんやりと冷たい。滑らかで冷たくて硬質の身体。 直に肌を合わせたくてたまらなくなって、自分のシャツのボタンをひきちぎるようにはだけ、身体をぴったりと密着させる。 「重てェよ」 くつくつと笑いながらサンジーノが俺の髪をひっぱる。 赤い唇に口づけたら待ち構えたように吸い付かれ舌を絡めてきた。むさぼるような激しいキスが俺の脳天を痺れさせる。 こいつはいつもそうだ。甘いキスなどしやしない。食われているような気分になる。食うのは俺のハズなのに。 主導権を取り戻すように口づけを胸に落とした。白い身体がびくりと跳ねる。官能を隠そうともせずにサンジーノは淫らに身体をうごめかせる。 俺はズボンのジッパーを提げて下着を大きく押し上げているムスコを取り出した。そこにサンジーノは手を伸ばした。 「ばかっ、触ったら弾けちまうだろうが!」 と慌てて腰を引いたら、サンジーノが言った。 「濡らすもんが無ェんだよ」 「だから、1回行けってか? だったらてめェも1回行け」 長い足に絡まったままのズボンを引き抜いて、脚の付け根に手をかける。白い足が大きく左右に開いた。その間に身体を入れて局部を口に含む。 「んっ…」 サンジーノが声にならない吐息を吐いた。 柔らかい袋を揉みしだき、裏筋や雁首を攻め、鈴口を突けば、たちまち白い身体がのけぞってくる。 ストロークを激しくすれば、大きく震えて達した。 口の中に吐き出された精液を唾液と混ぜて手に吐き出し、後ろの小さな窄まりに塗りつける。 咲きかけの蕾の花びらを一枚一枚広げるように肉ひだを丁寧に解していくと。 「てめェも行けって言っただろ」 とサンジーノは俺のムスコをあやすようにしごき始めた。マフィアのくせに料理が趣味のこいつの手は、包丁だこがあって気持ちがいい。節くればった長い指は俺のデカチンでもぐるりと包み込む。 …やべェ、こいつの中を解す前に俺が先にいっちまう。 ギリギリで踏ん張って、指を2本に増やして中をほぐす。3本目を入れようとしたところで俺のほうに限界がきた。無駄弾にしないように、窄まりめがけて発射する。 奴の精液と俺の精液で濡れた穴は、滑りはよくなったが、見た目の卑猥さに、俺のブツがすぐに元気を取り戻して暴れ始めちまった。 「がまんできねェ」 低く唸ったら、 「来い」 犬を呼ぶときのようにサンジーノが短く鋭く言った。 俺はサンジーノに深く伸しかかり、尻尾の代わりにケツを振る。 中は柔らかくて熱い。 「たまんねェ…」 吐息のようにそう言ったら、サンジーノがうっとりとした声で「俺もだ…」と返してきた。 熱い息を吐きながら、俺は濡れて光る身体の奥をかき回した。 故郷に帰ったら路上で抱き合うことなんて危険すぎてできっこない。なにしろ俺たちは対抗勢力同士なのだ、表向きは。 「背中痛ェ…」 翌朝サンジーノはぼやいた。 そりゃそうだろう。いくらキャデラックのボンネットがベッド並みに広かろうと、スプリングは効いていない。 「だからベッドに行こうっつったのに、抜こうとした俺を引きとめたのはおまえだろ」 散々やって硬さを失ったあとも、サンジーノは中から俺が出ていくのを許さず俺の腰に脚を絡めて引き止めた。俺を身体の奥に留めたまま、サンジーノは余韻を楽しむように笑っていた。 こいつとやるだび思う。つかまったのだと。 今回だって、俺はひと目で、キャデラックの傍らに立つ人間がサンジーノだとわかってしまった。こいつの磁力に俺は必ず吸い寄せられてしまうのだ。 「車、クリーム色にして正解だったな」 バスルームで歯を磨いてると、サンジーノが背中をさすりながら入ってきてそう言う。 意味がわからず怪訝な顔をした俺に向かってサンジーノはにやんと笑って囁いた。 「てめェの名残りがボンネットに残っていても目立たねェだろ?」 歯磨き粉を盛大に噴いたのは言うまでもない。 END
|