□昨日と同じ日 みあ
暗い夜の海に、木造の船体が揺れる。 メリー号は、大海原の中、クルー達を乗せて危なげなく航海を続けている。 しかし、今夜は少し波が高い。 その揺れに逆らうように、金髪の料理人が、汚れた皿を扉につかえるほどに積み重ねて、運んでいった。 ゾロが甲板に寝転がって見ていると、夜目にも白い顔が、にやん、と笑いかけてきた。 その笑顔に誘われるようにして、ゾロは、キッチンへの扉をくぐっていた。 「んだよ?皿洗い、手伝いに来たのか?…なわけねえか」 タバコを咥えたものの、火はつけずに、サンジが大口を開けて笑った。 目を離せない思いで、ゾロは吸い寄せられるようにして、サンジに近づいていった。 今日は、外で晩飯が食いてえ、と叫ぶルフィの主張どおりに、甲板で食事をとった。月が出れば、そのまま酒も入っての、大騒ぎとなる。 いつの間にか、軽い宴の様相になったはずだが、途中でマストに寄りかかって眠り込んでしまったゾロが目を覚ますと、もう甲板には、最後の片付けを済ませる料理人の姿しかなかった。 シンクに皿を置いて振り返った料理人は、近づいて来たゾロに、三度目の笑顔を見せた。笑顔の大盤振る舞いだった。 近寄ってくるゾロを見て、サンジはシンクに寄りかかり、少し笑いを含みながら、不思議そうに首を傾げた。 ゾロは黙ってサンジの腕を引くと、一気に抱き寄せた。 暴れるかと思いきや、抗う気配はない。腕の中に納まった男は、少し驚いたように、一度蒼い目を見開いただけで、ぐっと自分からゾロに腰を密着させた。ゾロが反応していることを確認するように。 ゾロの体の状態に満足したらしく、サンジが、ヒューと口笛を吹き、にやっと笑った。 そして、ほろ酔い加減で潤んだ目を細め、本気か?と挑発するように低い声で訊ねてくる。 今度こそ蹴りが来るか、と思いながらもゾロが肯くと、サンジはそのままゾロに唇を重ねてきた。 唇を合わせたまま、ゾロは少しこわごわと、サンジの体を探った。衝動的な行動に、サンジが文句も云わずに応えてきたことに、信じられない思いがした。 「なあ?どっちがする?」 ちょっと、唇を離し、サンジが低い甘い声で聞いてくる。ゾロが不意をつかれた気分で、答えられずにいると、サンジがゾロの肩を掴んだ。 「慣れてねェの?それなら俺がしてやるけど?」 至近距離で囁かれ、サンジの薄い舌が、ゾロの唇を舐め取るように蠢く。 「やろうぜ?」 意外と力の強い腕が、ゾロをテーブルの上に押し倒した。 サンジが覆い被さってくる。本気なのかと、ゾロはサンジに、なすがままにまかせた。 「ま、やりたきゃ替わってやるし」 猫が喉を鳴らすような笑い声が、サンジの口から漏れる。 しかし、目は案外と真剣で、笑いの影はなかった。冗談めかしながらも、目の奧に情欲の炎が見える。 ゾロがじっとしていると、驚くほど手慣れた様子で、サンジはゾロの上半身を裸にさせた。長い指を持つ、しかし筋張った節高な手が、ゾロの頬に触れ、耳のピアスを弄り、胸元に触れる。ついばむような唇が、その間、ゾロの顔中に振らされる。 ああ。やべえ。 ゾロは、じわり、と上がる熱を感じた。サンジに触れられたところが、火傷するように熱く感じられた。 反応を確かめていたのか、ふっとサンジがきれいに笑った。 「ん?ゾロも結構感じやすいのな」 満足したような表情で、サンジがゾロに深くキスを施し出す。薄い舌が、ひらひらと、口の中を蠢き、二人の唾液が混ざり合って、飲みきれない分が、ゾロの口元から溢れて伝う。 クスクスッと笑ったサンジが、ゾロの顎に自分の顎をすりつけた。サンジのあごひげがごそごそと、あたった。 ぺろ、ともう一度、サンジがゾロの唇を舐めた。 これは、現実だ。 ようやっと、ここまできてゾロに実感が込み上げてくる。 この男が欲しい、と強く思う。 サンジが上になったまま、ゾロはサンジの体を抱きしめた。 「いい。俺がする」 そう宣言すると、サンジが艶っぽく笑った。 「いいぜ?ちゃんと気持ちよくさせろよ?嫌だぜ、乱暴に突っ込まれるだけなんて、さ」 「分かってる」 もっと嫌がるかと思ったのに、サンジはあっさりゾロの上からどいた。 ゾロは、テーブルから体を下ろした。 二人でテーブルの脇に立って抱き合い、またキスをする。 今度は、ゾロの方がサンジの口腔を味わった。金色の睫毛が震える。 別にどっちでも同じ。 あっさりとそんなことを言って、サンジは位置を譲った。 ゾロがサンジに押し掛かると、それだけで、サンジは目を瞑って顎をあげ、軽く声を喉でたてた。 首筋に噛みつくと、さらに嬉しそうな喉声があがった。 「?」 いぶかしがるようなゾロの目に、サンジが艶然と微笑む。 「なんか、すっげえ、クる。」 「は?」 「間抜けな声出すなよ。大剣豪。」 サンジは、片手で自分のシャツのボタンを外しながら、ゾロの頬を撫でた。 ついで、唇に指をあててくる。 だまれ、と云うつもりかと解釈し、ゾロは、ゆっくりとその指を咥えて、甘噛みした。 サンジの表情を確認しながら、指先をしゃぶり、指の股に舌を這わせる。 ぴくん、とサンジの肩が撥ねた。ふうっ、と吐息が漏れる。 「ホント、クる。絶対、自分じゃ跳ね返せねェ相手に、組み敷かれるってのも、ナンか、快感?」 クスクスと笑いながら、自分で前をはだけさせた。 白い肌理の細かそうな皮膚に、ゾロの目が吸い付き、ごくり、と喉がなる。 ぐっとサンジはゾロの腰を脚で抱えて引き寄せた。 「ゆっくり、楽しもうぜ?当分、俺たち以外に、こんな酔狂な真似しようってヤツらは、この船にはいないだろうし」 「おら、早くしろ。しねェと、俺がヤッちまうぞ」 笑いながら、サンジのかかとが、がんがんと、背中に蹴りを入れてきた。 ゾロは、自分の体を、脚を折り拡げられている男の体の中心に埋め込んだまま、軽くサンジの腰を両手で掴むと、更に奧まで体を進めた。 深い所まで潜っているような目をして、サンジが声を漏らした。口の端から一筋、よだれが垂れている。 ゾロが焦らすように、そのままでピンク色に色づいたサンジの砲身の先をそっと撫でた。先端からは、透明な液体が盛り上がるように湧き上がって、そして零れた。 サンジの先走りでゾロの手が濡れている。 「随分と良さそうになったじゃねえか」 「ん…」 サンジが首を振る。金髪が乱れて、その隙間からトロンとした蒼い目がのぞく。体が小刻みに震え、浅い息が吐き出される。 ゆっくりと、抽送を開始すると、体が強ばる。 眉根をきつく寄せて目をつぶった顔は、快感に身をまかせるのを拒んでいるかのように見えた。ゾロはわざと体をすりつけるようにして、緩慢な抜き差しを繰り返した。 激しく追い立てているわけではないのに、体の細胞の一つ一つが擦れ合い、強い深い快感が、腰からじわじわと広がっていった。 それは、サンジも同じらしく、半開きの口から、絶え間なく浅い呼吸に混じって、色を含んだ音が漏れ出し、白い体がうねった。 急に、一つ、高い喘ぎ声をあげると、背骨を弓なりに反らして、サンジはゾロの腕を掴んだ。 「も…やだ…焦らすな」 「焦らしてるつもりは、ねえんだけどな」 ただ、食いついてくる締まりの良い穴が、熱くて気持ちが良く、じっくりと楽しみたい気になっていただけだ。 「手前ェねちっこいんだよ…。魔獣どころか、ナマケモノが動くみてえにやりやがって…!」 ハッと、息を吐きながらも、サンジが睨みつけるようにする。 ぽろっと、目に薄い膜を張っていた涙が溢れて伝い、サンジはまた目をつぶった。 腰がねだるように揺れて、もう一度、今度は切なげに、ゾロの名前を呼ぶ。 「ホント…もう、勘弁…。いきてえ…」 開いた目が、泳ぎ、上気していた頬に、更に濃い紅が差す。 すげえ。 ゾロは目を見張り、とっさに、サンジの両脚に腕をかけ、押し広げていた。 「ひっ…?ああっ!?」 急なことについてこられないサンジを置きざりにするかのようにして、ゾロはいきなり、奧まで突き上げた。 「ちょっ!待てって…!」 途中で悲鳴に変わった制止の言葉を聞く気は無かった。 すげえ、気持ちイイ。 何度か激しく突き上げるうち、サンジが、ぐっと下腹に力を込めた。 「うっ…!」 一瞬、それだけで達しそうになり、必死で堪える。 何とか持ちこたえて、再びぐっと体を押し込むと、全身を真っ赤にして、睨みつけてくる潤んだ目と出会う。 「は…げしいんだよ…!手前ェ…!」 息も絶え絶えな状態で、文句を云う口に指を突っ込み、引き抜いて濡れた指でサンジの中心を今度は刺激しながら、腰を動かす。 耐えられないというように、サンジの頭が髪を振り乱して何度も振られる。 「いきてェって、云ったのは…」 腰を動かす息づかいと、一緒に、言葉が切れてしまう。 汗がサンジの上に滴り落ちていく。 喉の奥で、クッと小さく声を立てて、サンジが全身を強ばらせた。 手が、ゾロの腕にしがみついて、ブルッと体が震えた。 「お前だろうが…!」 ぐいっと、サンジの体を折り曲げ、奧まで体を押し込むと、ゾロもサンジの体の中へ吐精した。吐き出すごとに、びくりと、サンジの体がおののき、紅く染まった体から震える息が色を帯びて吐き出された。 泣きそうな顔をした男の手をとって、ちゅ、と音を立てて口づけてから、両手で包むようにしてやると、もう片方の腕で、さらに赤みを増したかに見える顔を隠すのが見えた。 「はいよ。ゾロ」 サンジは、水をくぐらせて濯いだ皿をゾロに渡してくる。 ゾロは黙って受け取り、拭き上げては積んでいく。 「んで?」 皿を渡しながら、サンジが何気ない口調で云いだした。 「良かったわけ?」 「まあまあ」 ゾロが答えると、皿が目の前に突き出される。 「云うね。お前。夢中だったくせに」 「一度じゃ分かんねえだろ」 「はん。まだやる気かよ」 今度は、ゾロがサンジの手から、ひったくるように皿を取った。 さっさと次を寄こせとばかりに、素早く拭き上げる。 ちらっと横目でゾロを見たサンジは、皿を渡すスピードをどんどん速めてくる。 ゾロも意地のように早く拭き上げようとするが、水気を含んできた布巾では、うまく拭き取れない。 焦れたゾロの手から、皿が滑り落ちた。 「あ〜。ったく、魔獣は不器用だな」 「うっせ。手前ェが…」 拾い集めるサンジの手元に手を伸ばしかけ、しかしゾロの指先は、触れた破片で軽く切れた。 「あ〜。ホント。不器用ちゃん」 「いちいちお前ェは…!」 睨みつけたゾロと目を合わせて、サンジはゾロの手を取ると、見せつけるように、わざとぺろ、と血液を舐め、ゆっくりと、切れた指先を口に含んだ。 無言になったゾロに、手を持ったまま、サンジが笑いかけた。 「まあ、ゆっくり楽しもうぜ。未来の大剣豪?そっちの刀も使わねえと錆びるだろ?」 そのまま、互いに何も云わないまま、二人は長いこと、関係を続けていくことになる。 本当は、ゾロの気持ちなんて、この段階ですっかりサンジに持って行かれてしまっていたのだけれど。 それはまた、別の話。 了。
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