CALL 2





「う、あ!」

シャツのボタンを全て外し終えたゾロは、そのまま頭を下げるとズボンの上からサンジのペニスを甘噛みした。

「…ッこら、よせッ…!」
「なんでだ。気持ちよくねぇか」

さっさとベルトとファスナーを外し、意気揚々と下着に手を掛けようとする。

(よすぎるからイヤなんだっつの!)

ゾロの質問には答えず、サンジは片足を器用に廻して己に跨る男の背をげしっと蹴り付ける。
 しかしそんなサンジの照れ隠しなどいい加減慣れきったゾロなので、上げた足を捕らえてそのまま下着ごとズボンを抜き取った。
 闇夜に浮かぶその日焼けしない白い足に、ゾロはゴクリと唾を飲む。

「いつも思うが…エロくせえ足だな」
「ギャーア!そーいうコト言うなっつってんだろ!」

照れが極限に達したらしい。
 いきなりサンジがじたばたともがき始めたので、ここで逃げ出されては敵わん、とゾロは剥き出しの股間をぎゅっと握り締めた。

「…ッ…!」

急所に与えられた痛みから大人しくなったところで、伸ばした右手を上下にゆっくり動かしてやる。
 先端から滲みはじめた透明の先走りを伸ばすようにぎちぎちと擦り上げると、指の動きに自分の腰を合わせるように動かして、更なる刺激を追いはじめる。
 しかし切羽詰ったサンジのその様子に、(そろそろアレが来る頃だ)と、ゾロは僅かに眉を顰めた。

「あッ、ん…は、あ」
「………」
「あぅッ、ア…―――アンジェリーナ…ッ!」

(出た)





快感に悶えるサンジの口から洩れるのは、いつでも聞いたことのない女の名前。
 毎度のことで慣れたとはいえ流石に気持ちのいいものではない。額に青筋を浮かべつつ、それでもゾロは気にしない素振りで固く勃ち上がったソレを尚も扱く。
 大きな手のひらに包まれたサンジ自身はいよいよもって張り詰め、ゾロの指先をしとどに濡らした。

「ダメだ、そんな…も、もう出…るッ…ルイーズちゃ…んン!」

(しり取りかよ)

ラストくぐもった声と同時に、呆気なくサンジは果てた。
 白濁した液体を散らしはぁはぁと荒く息をつきながら、

「…ばっか…やろ…、俺だけイかせて面白いかよ…」

ゾロに向かってつくのはやはり悪態で。

「濡らすモンがねぇと、俺もお前もキツイからな」

手の平に受けたものでは足りないのか、薄茶の茂みにまで零れたサンジの精を、無骨な指先が残らず掬い上げた。
 そのまま目の前の小さな蕾にあてがうと、傷をつけないよう揉み解しながら、ゆっくりと人差し指を埋めていく。

「ひあッ…!」

節くれだった指が狭い襞を抉り、第一関節まで潜り込んだと同時に、ビクンとサンジの体が跳ね上がった。
 咄嗟にゾロは細い片足を抱え、胸元まで近づけて押さえ込む。

「痛ェか?」

サンジの瞼はぎゅっと閉じられ、堪えるように長い睫が震えている。

「で…えじょー…、ブ…」

切れ切れに漏らされた声に制止の響きはない。
 どちらにしろお互いこの状態でやめられるわけもないので、ゾロは出来るだけ早く慣らしてやろうと、中に入れた指を遊ばせてポイントを探る。

(たしか、ここらへんだ)

覚えのある一点めがけ腸壁をゆっくり確かめるようにくすぐってやると、吐精したばかりのサンジのペニスがぶるりと震え、確かな快感を訴えた。
 もう少し、と潤滑剤がわりの精液と共に指を二本に増やした途端、

「あああジェ…シカ…あんっ、そ、ソコッ…」

場にそぐわないサンジの声が耳に入る。

(―――お前の昔の女ってのは、男のケツに指突っ込むクセがあんのかよ!)

ツッコミのひとつも入れたいところだが、それ以上に今は突っ込みたい気持ちが強いので青筋を増やして我慢する。
 何せこの男は気紛れなのだ。自分から誘うような真似をしておいて、『やっぱ気が乗らねーわ』の一言であっさりと逃げるから性質が悪い。
 強姦の趣味はないゾロとしては、そうなったらもう情けなくも一人で処理するハメになるわけで。
 女大好きのコックが自分相手に体を開くだけでも奇跡なんだから、この際行為の最中に他の人間の名前を呼ぶことぐらいは勘弁してやる、などと偉そうに思ってはみるが―――
面白くないこと甚だしい。
 もしもそれが男名前だったら、相手を斬り殺す位のことはやったと思う。
思えばなぜサンジが自分に抱かれようという気になったのか、ゾロにはサッパリ解らない。
 気がついたらはずみで体を合わせていたというしかない。
ゾロにとっては、それだけの関係ではないが。






(なんだっけ―――酔ったイキオイでコイツを押し倒したんだっけ)

ぼんやりと、初めて身体を重ねた夜を思い起こす。
 ゾロ自身サンジを抱く直前まで、自分がこのやたら気に触るコックに欲情するとは思っていなかった位だから、尽きることない欲望を流し込みながら、果たして自分はこんなにもこの男に執心していたのかと心底驚いたのだ。
 手に入れたからには手放す気など毛頭ないゾロなので、可愛くないコックがどんなに可愛くないことを言おうが頓着しない。
 ただ、サンジを追い詰めて自分の証を刻み込むだけだ。






 ゾロの知らない女の名前を呼びながら、奥深くまでゾロの指を受け入れるサンジ。
ムカつく気持ちのままぐちぐちと指を掻き回してやると、ゾロの頭髪を引き千切らんばかりの勢いで掴んできた。

「も、もういい…ッ」
「おう」

さんざん中を弄られてぐったりとした身体からゆっくり指を引き抜いて、弛緩した両足を脇に抱え上げた。
 そのまま中心に猛った己をあてがう。サンジの痴態に散々煽られて、ゾロだってとっくにガマンの限界を超えていたので。
 屹立したゾロの先端がひくつく蕾をくすぐると、ぬるい刺激に堪えきれなくなったサンジが、脱ぎそこなった服を絡めた腕を太い首に廻した。
 緑色の頭をぐっと自分の胸元に引き寄せながら、

「ついてねェ…記念すべき22歳の誕生日だってのに、何だってこんなムサい男と抱き合ったりしちゃってんだ俺ァ…」
「―――アァ?」

ボソリと呟く言葉には、流石のゾロも切れかけた。

「寝てた俺をお前が無理矢理誘ったんじゃねーか!」
「独り言だ気にすんな。煩ェから耳元で叫ぶなって」
「っとに、お前ってヤツぁ…」
「『可愛くてしょうがない』?」

ニヤっと笑うと、首を起こしてちょん、と怒りもあらわなゾロに口付け、先を促した。

「んの、エロコックが…」
「―――う、ぁッ…!」

突如湧いた凶暴な衝動と共に、一気にサンジを貫いた。
 楽しいながらもめんどくさい手順を踏んでようやく侵入を果たしたそこは、熱くてきつくて、ゾロの理性を粉々にしてしまうほど気持ちいい。
 馴染むのを待たずに乱暴に突き上げるが、それも快感に感じるのかサンジはゾロに廻した腕に力を込めて、抱きしめてくる。

「ン、ン、ン、ンンッ!」
「…っくしょう…!」

狭い襞に喰いつかれて意識が飛びそうになるのをなんとか堪えた。
 呼吸を整えるためペースを落とし、欲望にギラついた目で身体の下で喘ぐサンジを見下ろすと、ゾロの視線に気づいたか慌てて不機嫌な表情を取り繕った。

「ア、あんま…動くなッ…、お前のは、ムダにデケェんだからよ…ッ」
「無駄で悪かったな」
「は、あうッ…!」

ぐい、と腰を更に奥へ進めると、上体を持ち上げて逃げようとする。首に廻されていた腕が、床に伸ばされた。

「逃がすかよ…ッ」
「あ、アッ!」

申し訳程度に絡まるジャケットとシャツを剥ぎ取り、目の前に晒された薄紅の突起に噛み付いた。
 溜まらずサンジが悲鳴を上げる。

「痛ェ、痛ェよッボケッ」
「痛くされんのも、イイだろ」

赤くなったそこを舌先で転がすように舐めてやると、余程感じるらしく白い喉を仰け反らせて喘ぐ。
 愛撫を強請って腹にアレを擦り付けて来るので、足を抱えたまま手の平でサンジの股間をあやしてやると、細腰をくねらせて身悶えた。
 ぷくりと溢れる液体が、またゾロの手を汚す。そこから洩れるくちゅくちゅと言う音が二人の耳を焼き、更に煽る。
 先走りを自身に塗りつけるよう伸ばされ、抉られるのと同じタイミングでキツめに動かされたサンジは、抱え上げられた足をゾロの背中に廻し、

「やめ…、悦すぎッ…るって、…あ、ハァっ!」

全身でしがみつきながら、何をされても気持ちイイ、と訴える。
 途端にぎゅうん、とサンジの中のゾロの質量が増し、それを受けて「ハハ」と力なくサンジが笑った。

「テ、メッ、…ソレ以上でかくしやがったら…殺す、…つか俺が死ぬ…」
「…ッカ野郎…なんつー事いいやがる…!」

もう保たねぇ、との囁きに、俺もだ、と返して。
 細い割りに良く筋肉のついた身体をきつく抱いて、ゾロは打ちつけるように腰を動かした。
狭い襞を掻き分ける熱い楔を、入り口ギリギリまで引き戻し、まとわりつく肉壁の求めるままに深淵まで犯す。
 気が遠くなるほど甘い情交の繰り返し。
欲情に潤んだ青灰色の瞳が目の前の男だけを見つめ、唇はようやく彼の待ち望む一言を象った。

「あ――――アアアッ!ゾロ、ゾロ、ゾロッ…!」
「…っく!」

きつく抱きしめながら最奥に欲望を搾り出すのと同時に、サンジの吐き出したものがゾロの腹筋に跳ねた。

(っとに…いつだって最後しか呼びやがらねぇ…)

しかしまぁ、極まったときにだけ叫ばれるのも、なかなか爽快ではある。
 ぐったりと意識を手放したサンジの上にクタクタの身体を投げ出しながら、やっぱりこんな恋人を愛しく思ってしまうゾロなのだ。






 そろそろ夜明けが近い。
それなりに激しいセックスに疲れた身体を、サンジは気合を入れて起こした。連夜の果敢なチャレンジが功を奏したか、行為の後でも支障なく動き回れるほど慣れたのは幸いだ。
 起き上がった拍子に布団がわりに掛けられたシャツとジャケットがずり落ちて、サンジは「げ」と呟く。

「一張羅が皺クチャじゃねェか!ったくあのエロマリモ、だから自分で脱ぐっつったんだ」
「あー、悪かったな」
「へ?」

隣から聞こえた声に驚いてそちらを見遣ると、寝転がったままではあるが、すぐ傍で珍しくゾロが目を覚ましている。

「んだ、起きてたんかよ」
「ああ」
「まだ早ェ。下行って寝直したらどーだ」

男部屋に戻るように促すが、ゾロはサンジを見つめたまま動こうとしない。

「お前は?」
「あ?俺ァ今からメシの支度…っぐあ!しまった、見張りバックレちまった…」
「ま、しょうがねぇな」
「うー…進路外れてたら、テメェが責任取れよ…」

言外に(気絶するほどヤりやがったテメェが悪い)と匂わせて、サンジはよれよれのジャケットを漁り、胸ポケットから煙草を取り出した。
 カチリとライターで火をつけて、目覚めの一服。
普段と変わりないその態度に、ゾロが不思議に思いながら尋ねた。

「いいのか」
「何が」
「いや。…誕生日なんだろ」
「あー、まぁな。まだ覚えてたか」
「あいつら、起こすか?」

ナミあたりに報告すれば、今からでも近くの島に進路を変えて、祝い事らしきことが出来るかもしれない。
 船の上で騒ぐとなると、どうしても負担はサンジが背負うことになるのを見越しての発言だったが、サンジは怪訝な顔でゾロを見下ろすばかりだ。

「ハァ?何云ってんだテメェ、イイ年してお誕生日のお祝いしてもらってどうすんだよ」

馬鹿にしたようなサンジの口ぶりに、ゾロははて、と首を傾げる。

「俺の誕生日には、ハデに大騒ぎしやがったじゃねェか」
「ありゃあ嫌がらせだ」
「…だろうと思ったぜ…」

賑やかに華やかに盛大に祝われて嬉しい半面、無骨な剣士としては実のところものすごく居心地が悪かったのだ。

「それに」
「?」
「―――テメェが、祝ってくれたから、それでいい」

真っ赤な顔をしてふいと横を向いたコックが、信じられないことを呟いた。

「おま―――」
「だぁぁぁぁ忘れろッ、今のは間違いだ、ミステイクだ、言葉のアヤだッ!」

煙草を口の端に咥えたまま一人慌てふためき、大急ぎで着替えて逃げようとするのをゾロの腕が押し留めた。

「っとにお前は…」
「―――なんだよ」

赤面したままふてくされたサンジを抱きしめながら、呆れ顔でゾロが言う。

「ヤってる最中にあんだけ昔の女連呼しといて、そーいうカワイイこと言うか?」
「あぁ?なんだよその、昔のって」
「呼んでんだろいつも!」

しらばっくれたその態度に青筋を立ててゾロが怒鳴るのに、あーあー、とサンジが手を打った。

「ありゃあ、真っ当に進んでたらいつか巡り合った筈の、未来の俺の運命のレディ達だ」
「…アァ?」
「イヤ、何がどーしてこーなったのかイマイチ謎なんだが、テメェみたいなクソったれの腹巻マリモ野郎とこのナイスガイが、イワユル、その…出来ちまったワケじゃん?」
「………」
「申し訳ないけど、貴女の愛には応えることができませんレディ達…そういう、俺の贖罪が、ついつい口をついて出ちまうんだよナァ」

滔々と話すその白い顔に、

(なんつーアホに惚れたんだ俺は…)

今更ながらの感慨を深めるしかないゾロだが、顔がじわりと緩んでくるのも仕方のないことだろう。
 そんなニヤけた間抜け面を、サンジがギロリと睨みつけた。

「違う名前呼んでんのは、テメェの方だろッ」
「……!」
「アホなテメェだから知らねェんだろーけど、俺の名前はクソコックじゃねーぞ」

吐き捨てるように言う。

「………」
「ま、別にいーけどよ、なんでも」

笑いながらどこか諦めたような口調で呟くが、本心ではないだろう。

「―――さて。そろそろマジでメシの準備しねーと。テメェもさっさと服ぐらい着ろ」
「…ああ」

身体に廻された腕を振り払うようにしてよいしょと立ち上がり、ドアの前に脱ぎ捨てられていたゾロの衣服を拾い投げてやる。
 それからスーツの皺を気にしながらネクタイを結ぶ、いつものスカしたコック。
そこにはもう、先ほどまで腕の中で乱れたサンジの姿はない。

「ここで寝なおすにしろ、タコ部屋に降りるにしろ。朝飯に遅れやがったらタダじゃおかねーからな。いつもいつでも優しく起こして貰えると思ったら大間違いだぜ?」
「お前が優しく起こしたことがあったかよ」
「うーん…なかったか?」

顎に手を当ててサンジが考え込む間に、ゾロはさっさと渡されたシャツとズボンを身につける。
 三刀を拾いそのままアホに近づくと、乱暴にネクタイを引っ張って耳打ちした。

「おいクソコック」
「なんだクソ剣士」
「…お前だけ、あの小ッ恥ずかしいイベントから逃げられると思うなよ?」
「あ?」
「ナミがカレンダーのチェックをし忘れると思うか?おまけにウチの船長は、大の宴会好きと来てる」
「あー、まぁな…?」
「今日は覚悟が必要だろうな、―――………」
「……ゾロ!」

呆然と固まるサンジを置き去りに、ガチャっと格納庫の扉を開ける。
 差し込む朝日と入れ違いにゾロは甲板に出て行った。
すれ違う頬がそれはもう赤かったのは、サンジの気のせいではないだろう。

「んのクソ野郎…まさかプレゼントのつもりかよ…」

勢い閉じられた扉に凭れるようにして、ずるずるとサンジは床にへたり込んだ。
 耳元で囁かれる自分の名というものは、思った以上に腰に来るらしい。

「安上がりだよな、俺…」

多分、他のなによりも、これが嬉しい。







 聡い航海士が愛すべき働き者の誕生日を忘れる筈もなく、ゾロの予告どおり昼過ぎには次の島へ到着した。
 下船後にクルーそれぞれが用意した両手に余るほどのプレゼントに埋もれたサンジは、照れながらも嬉しそうに微笑んで。
 プレゼント用の酒を買うためにナミへの借金をまたしても増やしたゾロだったが、そういうコックの顔を見るのはかなり好きなので、返済については考えないことにしたらしい。

 因みにゾロが選んだのはこの島特産の地酒で、度数の高さからコック向きではないと判断され、周囲の顰蹙を買ったと言う。



HAPPY BIRTHDAY DEAR SANJI!


おわり

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