ちょこっとラブ 1


 ちょこっとくらいなら、愛してやってもいい。






 それに気付くのは存外早かったと思う。
甲板に広げたテーブルにランチを運んでいるときに。
船尾でセンタクモノを干しているときに。
キッチンで後片付けをしているときに。
クタクタの体をハンモックに横たえて、うつらうつらと眠りに落ちようとしているときに。

 あんまりしつこく追いかけてくるその視線に、だからサンジは(云いたいことがあるならとっとと言いやがれ)と彼がそれを言い出すのを、半ばイライラしながら待っていたような気がする。
 やがて見ているだけで満足できなくなったらしいゾロは、突然サンジに襲い掛かるというそりゃもう即物的な行動でもって己の想いの丈を打ち明けてきた。
 当然サンジは、

「寝惚けてんのかこのクソ剣士!」

と細くて長い凶器を振り上げて対抗し、対して避ける素振りさえも見せずつんつん立った緑頭の天辺でそれを受け止めて、

「寝惚けてねぇ」

イヤになるくらい真面目な仏頂面でそう返したゾロは、あんぐり口を開けたサンジのそれを自分の唇でふさぐ、という古典的な方法でもって、割とあっさり戦うコックさんを手に入れた。
 それが二人のシアワセな時間の始まり。











 お互いの体に何も身につけていない状態で抱き合ったまま長いキスを交わして、それからサンジはニヤリとゾロに笑ってみせた。

「テメェ今日は中で出そうとか思ってるだろ」
「………」
「バックレても解ンだよアホ。テメェがやたらのんびりしてやがるときは、ゼッテーそういう、いじましい魂胆がありやがる」

 いつもは即指2本だろ、と顔を歪めて毒づく恋人にもう一度口付けて、ゾロは黙って受け入れさせるための前戯を始めた。
 腰を降ろしただけでみしりと軋んだ安物のベッドは、男二人の体重を受けてぎしぎしやたらと煩い。
隣の部屋にはさぞかし迷惑だろうと思うが、どうせ本格的にコトが始まったらサンジは声を抑えることなんて出来やしないのだから、小さなことは気にしないでおく。

「あーあ。折角の陸だってのに、何で俺ァレディをナンパに行くこともせずに、マリモにケツなんか貸そうとしてやってんの」

 なぁ、なんでだよ、とサンジの白い手がゾロの頬をぺしぺしと叩いた。全裸に剥かれて乳首を指先で弄られ始めたその頬はかなり赤い。

「…俺が、お前に惚れてるからだ」

 苦虫を噛み潰したような顔でゾロがそう呟くと、サンジはにへらっと笑って、

「だよなー」

とゾロの頭をわしゃわしゃと掻き回した。
 満足そうなその態度にゾロがこっそり苦笑したのには気づいていないようだ。
ともかくもお許しが出たのでゾロは思うさま目の前のご馳走にむしゃぶりついた。
 息を荒くして首筋に顔を埋めてくる男をサンジはふふん、と鼻先で笑ってやる。
こんな風にセックスの前、サンジはいつも必ずゾロに確認させることにしていた。
 一緒に自分も確認する。

(コイツが俺を好きで好きでしょうがないから、お相手してやんだ)

そうでもしなきゃ、こんなアホらしいこと素面でやってられないからだ。
 大きな舌でべろべろと首を舐められて擽ったいが、悪い気はしない。
ずっと海で、ずっとレストランで育ったサンジだから、今まで一度も犬なんか飼ったことはないけれど。
もしもペットがいたらこんな風に飼い主に甘えてくるんじゃなかろうかと思う。
 大きな犬はそのままくんくんサンジの匂いを嗅ぎながら、鎖骨を甘噛みしたり乳首に舌を這わせたりしてくる。

「んっ」

サンジは乳首がひどく弱い。
 その昔ちょこっとだけ付き合っていたレディがそれを発見した。腰を使っている最中にぺろっと舐められて、「うっ」と固まってしまったサンジにそのレディはいたく大喜びして、それからはもうエッチのたびに狙われたものだ。
 ゾロが責めるのはだからすっかり開発されきった場所で、そこをれろれろとしゃぶられたり舌先で突付かれたりすると、そりゃもう即射しそうになるくらい気持ちよくて、サンジはついついゾロの頭を抱き込んでしまったりする。
 でもこれは別にゾロがテクニシャンだからとか、ゾロのことがトクベツだからそーなるワケじゃないので仕方ない。

「…ッ、あんま、強く咬むなよ…ッ」
「おう」

 段々と息が上がってくるサンジに、ゾロがほんの少し顔を上げる。
その目つきがやたら自信満々で得意げに見えて、サンジはむっとグル眉を寄せながら足を回してゾロの背中をげしげしと蹴った。
 男なんかに主導権を譲ってやるつもりはないのだ。

「…オラ、突っ込ませてやっからさっさと終わらせろ」

下唇を突き出して偉そうに命令してやると、すぐにゾロの顔は仏頂面に戻る。
 それでもサンジを離す気はないようで、ゾロはふたたび頭を下げてサンジの赤く尖った小さな膨らみをちゅっと吸い上げた。黙したまま行為に集中することにしたらしい。
左手で反対側の乳首を弄りながら、執拗にそこばかりを責める。
 反論のひとつでもあるかと思ったのにあっさりスルーされた格好のサンジは、なんだか少し面白くなかったけれど、こういう丁寧な愛撫を受けるのは実は嫌いじゃない。
 それからはもう黙って、ゾロがやりたいように好きに触らせてやることにした。
あまりお預けが長すぎると、ペットがいじけてしまうからだ。

「ン、っふう」

 かり、と先端を軽く咬まれると腰の奥がずくんと疼く。
 股間に伸びたゾロの手が勃ちあがりかけた部分をさわさわと誘い掛けるように撫でて、サンジの尻は自然と浮きあがった。
 すかさずゾロはそこに自分の腰を入れて、サンジの下半身を持上げるようにして大胆な愛撫を繰り返す。
大きく屹立したものが一瞬だけサンジの剥き出しの後孔に掠めて、二人同時にクッと笑った。
 熱い舌は躊躇わず下腹に降り、サンジは股間に埋められた緑髪をぎゅっと掴んでそれを受け入れる。
ずっぽりと咥えられるその感触に、白い刀を咥えて勇ましく闘うゾロの姿が脳裏をちらりと過ぎって、背筋がゾクッとした。
 あんな男に口で奉仕させていると思うだけで、胸が破裂しそうなほどの優越感が湧き上がる。

「ゾ…ッ」
「―――イイか、クソコック」
「う、ん…ッア、そこッ…」

ご指定の場所はサンジの急所のひとつである括れの部分。
 ゾロは唇でそこを食むようにして更に刺激を加えてやった。途端にしなる白い裸身を目の端に捉えながら、そっと秘所に指をつたわせる。

「オラ、弄るぞ」
「お、おう…ッ」

 小さく震えながらもなんとか男らしく返事したサンジのピンク色の入り口に、ゾロはくっと唾液で濡らした指先を潜り込ませた。
 侵入の違和感で萎えないように、前への口淫を続けたまま、慎重にゾロはサンジを解していく。
内部をマッサージしてやるように、ゆっくりと根元まで差し込んで、それから同じスピードで入り口まで引き戻す、その繰り返し。

「ん、んん、っひ、あッ」

嬲るような指の動きに合わせて薄い唇が漏らすのは、明らかな快感のしるしだ。
 こちらを使っての行為にはサンジもかなり慣れてきた。
初めてそこにゾロの砲身を招いた時は、正直なところ、

(…仏心なんか出すんじゃなかった…!)

 あまりの痛みにあやうく涙を零しそうになったものだが。
それが今では、わざとイイところを外して触ってくるゾロの指をもどかしく感じるようにまでなったのだから、人体とは便利に出来ている。
 ゾロの指は長くて、重い剣をぶんぶん振り回してるせいかやたらごつごつと太い。
それがゆっくりと本数を増やしながらサンジの中をかき回す。
船の上で他のクルーに見つからないように大慌てでイタすときは、それ専用の潤滑油みたいなのを使って、さっさとぐちゃぐちゃにしてとっとと突っ込む。
顔も合わせずに立ったままバックからがんがん突いて終わりってことだってザラだ。
 それがサンジ曰くの『即指2本』で、でも今日みたいにどっかの島に上陸して、二人っきりでゆっくりできるときのゾロの前戯はとても丁寧になる。
 下半身と脳髄が直結してて、そりゃもうちっとも日を置かず襲い掛かってくるマリモの癖に、いつも手抜きで悪いなあ、とか思ってるらしい。

(そーゆーとこ、割と気に入ってんだぜ俺ァ)

 大事にされてるっぽくて悪くない。
前を擦る動きが早くなって、ギリギリだったサンジをどんどん追い上げていく。
 ゾロはおかしな拘りのある男で、市販のクリームを使うのがホントはあまり好きじゃないそうだ。
 そのまま突っ込むことが無理だってのは、最初の夜に散々苦労して身に沁みているらしいが、出来れば自分かサンジの出したものか、唾液とか、そういう自然(…)な液体で潤したいのだと言う。
 男同士でヤル行為に自然もクソもあるかボケ、と思わないでもないが、サンジに潤滑用品を調達させるわけではないし、まァそのくらいは好きにさせてやってもいいかなー、とも思うので放っている。




 それはまあ愛情ではなくて愛着からくる思いだが。
ちょこっとくらいの愛ならマリモにくれてやってもいい。

 



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