ちょこっとラブ 2





 生物学的にバッチリ男に生まれついたサンジには、男とセックスするなんて選択肢、バラティエを出るまで欠片も存在しなかった。
 男なんて鬱陶しくて汚くてキモくてウザいだけだ。
それにくらべて女性のなんとたおやかで麗しいことよ!
 サンジは女の子がダイスキだ。魅力的で魅惑的なレディはたくさん海のレストランを訪れてきたし、買出し船で港に行けば、サンジと束の間のアバンチュールを楽しんでくれる素敵に解放的なレディだってたくさんだった。
 なんだかんだでルフィにスカウトされてG・M号に乗り込むまで、そういった意味での不自由を感じたことはなかったサンジである。
 海賊になってみれば、毎日がスリルと冒険の連続。新しいこと厄介なことが多すぎて、セックスのことなんかすっかり忘れて、まだ見ぬオールブルーに夢を馳せてワクワクと過ごしてきた。
 けれどやっぱりまだ、ヤリたい盛りのぴちぴちの十九歳であるからして―――航海を始めてしばらくは、自分の「溜まってる」状態にも気付かなかったのに、意識してしまえばどうにも下半身がうずうずする。
 ナミやビビは仲間意識が強すぎて、愛情だけはたっぷり注いでいたけれどいまいちソウイウ相手としては見れなかった。
相手にされなかったからではない(と、思いたい)。
 自然恋人は器用な己の右手、という生活の中、不意にサンジはゾロの視線に気がついたのだ。
 他のクルーと違って仲良しとはお世辞にも云いがたい剣士である。
泰然としたあのスカした態度は気に喰わないし、向こうもそれは同様らしい。ことあるごとに肉弾戦にもつれこみ、そのたびに蹴り殺す!とか思ってきた。
 そのゾロが、どうにもコメントのしようのない、あったかい目で自分を見ていた。
まさかなァ、と思いつつ睨み返すと、慌てたように目をそらしたり、無理矢理目つきを悪くしたりする。
 あからさまに怪しい態度を繰り返すゾロにんん〜?とサンジは首を傾げ、ある日睨み返す替わりにニカッと笑ってみた。
 そうするとゾロは愕然と目を開き、それからくわーっと盛大に顔を赤くした。
見ていたサンジまで釣られて赤くなってしまったほどの、それはもう見事なまでの赤面ぶり。
 ここに至ってサンジは、(信じがたいことだが)ゾロが激しく自分を意識してるっぽいと確信した。
 別に病気でもないのに、ちょっとしたきっかけでそういう風になっちゃうのはサンジにも覚えがあることだ。

(…なにこいつ、マリモのくせしていっちょまえに俺に気があんの?)

 ちこっと微笑んでみただけで、あの無骨な剣士が照れまくるほど、惚れられている。
 うへえ気持ち悪いとか思って然るべきだったが、そのときサンジはなぜだか、

(―――勝った!)

という気分になった。
 全身を喩えようもないほどの勝利感が駆け巡り、どうしようもなく高揚したのは記憶に新しい。
 G・M号にコックとして乗り込んでからこっち、特に不満もなく平和に楽しく過ごす日々。
 一見充実した生活の中、実はサンジにはただひとつだけ気が滅入ることがあった。
 それがゾロだ。
ロロノア・ゾロの名はバラティエにいたころから客の噂でよく耳にしていた。
 まだ若いが鬼神のような戦いぶりで、海賊狩りの異名を取る凄腕の三刀流。
誰にも言うつもりはないが、その海賊狩りの話を聞くたびに、ちょこっとだけ


(なんかカッコいいよなァ)


なんて思っていたりした。
 そしてある日突然ロロノア・ゾロは客として海上レストランを訪れ―――サンジの目の前で世界一の大剣豪に挑戦し、「背中の傷は剣士の恥だ」とかなんとか言いながらばっさり斬られてしまった。
 誰にも言うつもりはないが、ここでもサンジは、


(ヤベエなにコイツカッコいい)


なんてドキドキしちゃったりなんかして。
 やがてゴタゴタを乗り越えて麦わらの海賊船に乗り込んだサンジである。
 けれど、どうしたことか件の剣士と仲間っぽく付き合うことが出来ない。
 天塩にかけた料理を食べさせても美味いの一言もなく、顔を合わせればいつのまにやら罵り合いのドツキアイ。
 極めつけなことにゾロは、サンジを名前で呼びすらしなかった。
 当初は警戒されてるんだろうと思っていたが、何度かの共闘を経てそれなりにお互いを理解しあえたころになってもそれは変わらず、新たな仲間としてアラバスタの王女が加わって、ゾロが彼女を「ビビ」と呼び―――サンジは決定的なショックを受けることになった。
 どうやら自分はあの男に本気で嫌われているらしい、とかなり落ち込んだサンジはしかし、剣士から熱い視線を寄せられたことで一気に調子付いた。

(つうことはアレだろ、今までのも照れ隠しだったってこったろ)

 そう考えるとそれまでのゾロのつれない態度も頷けるというものだ。
 ハッキリ言ってサンジはめちゃくちゃに浮かれまくった。
 ついついその視線の意味を深く考えるのを忘れてしまうほどに。
 それからしばらく経ったある夜、切羽詰った顔でゾロはサンジを押し倒し―――その剣幕に押された格好で、女好きがウリのコックさんは、ついついそれを受け入れてしまった。
 多分、相当溜まってたんだろうと思う。
男あいてでも、気持ち良けりゃ別にいーかな、って位まで。
 以来ゾロとサンジは、そりゃもう激しいセックスとかしちゃう仲になった。
 どうにもマジっぽいゾロに対し、サンジはあくまでも欲求不満の解消プラスお付き合いだから、精神的にかなり優位な位置に立っているサンジである。
 そんなわけでゾロとこうなってからというもの、次の日のケツの痛みと引き換えに、非常に気分のよいシアワセな日々を送るコックさんだった。













 指だけでさんざん弄り倒されて、もう何がなにやら解らなくなって、だらしなく唇の端からヨダレを零してたのをゾロがじゅっと舐め取った。
 放心しかけていたサンジは青い目にすっと光を戻してうう、と体を捩る。

「テメ…しつこすぎんだよ…」
「そろそろいいか?」

 低い声で訊ねてくるゾロの目は、余裕っぽい言葉とは裏腹に、猛獣みたいにぎらぎらしててかなりヤバイ。
 その目を見ていると、悪戯されてる中の、ずうっと奥のほうが、じりじりと熱くなってくる。
 ゾロの指よりもっと大きなものでめちゃめちゃにあそこを擦りあげて貰いたくて、堪らなくなる。
 無意識にくわえ込んだままの指をきゅっと締め付けたのを承諾と解して、ゾロはサンジの細い両足を肩の上まで抱え上げた。

「ウ、―――あ、はぁ…ッ…」

 ちゅぷっと指が抜かれ、そのかわりにゾロの大きな亀頭がサンジの柔らかくなった場所に潜り込んでくると、そこは待ち構えたように柔らかくほころんで、ぬく、と絞り上げるような動きを見せはじめる。
 ゾロは目の端を僅かに寄せて、痛いんだか気持ちいいんだかを堪えながら、更に奥へとペニスをぐいぐい押し込んでいった。
 サンジはひいひい喉の奥を鳴らしながら必死に体の力を抜いて、ゾロの陰茎をすべて咥え込もうとする。
 そうすると触れたところ全部が後ですごく気持ちよくなるのを、体が覚えているからだ。

「お前…やーらかく、なったよな」
「う…っるせ…」

 うれしそうにゾロが呟くのに憎まれ口で返しても、ゾロはそんなのには慣れてるから気にせずにぎゅうっとサンジを抱きしめてくる。
 そうされるとサンジはいつも、なんだか体じゃなくて胸の奥のほうをぎゅっとされてるような気分になった。
 情欲で熱くなるのとはまた別の、あったかいものに包まれているような感触。

(アァもう、バカじゃねェのこいつ)

 ゾロはいつも、全身でサンジのことを「好きだ好きだ」と訴えてくるような抱き方をする。
 ゾロの硬い陰毛がサンジの尻に当たって、ごわごわした。
 ぐりぐり最後までねじ込むように揺すられて、ぎちぎちに収まってるのがはっきりと感じ取れる。

(あんな、デケエのが、ぜんぶ)

 硬くてぱんぱんに膨れたそれを貪欲に引き込んでいるのが自分の器官だなんて、何度交わっても信じがたい。
 腸壁に当たりまくるそれに物凄く感じてしまうのも含めて。

「っふ、あ、はぁっ」

 ずる、と少しだけ抜かれたソレが、サンジの敏感な内襞を遠慮なく擦りながらまた入ってきて、サンジはバカみたいに口をぱっかり開けて喘いだ。
 今日はまだどちらも一度もイってないから、濡れないサンジの中を潤すのはゾロの先端から溢れる先走りの蜜だけ。
 当然動かしにくくて、ゾロは少しキツそうな顔で腰を使っている。夜は長いから、最初は中で出して、後はそれを使う気でいるんだろう。

「ったく、ヘンなところで…計、画…て…、ンッ」

ぐっと突かれて語尾が消えた。
 痛いくらいに擦られるのがイイだなんて、全くもって快楽に弱い体だ。イイ具合に刺激されていた前は、ゾロが少し動くたびにとろとろとはしたない汁を漏らして、サンジが後ろで得ている快楽をそのままゾロの眼前に晒す。

「めちゃくちゃ締めてくる…そんな、気持ちイイか」
(よくなかったら、テメェなんか、っと、ヤんねッ…)

 思ったのがつい言葉になって外に出ていたようで、中でいきなりぐん、とゾロの質量が増した。
 サンジは内側でリアルにそれを感じて、ぎゃー!と両手で顔を覆ってじたばたもがく。

「ア、 アホッ、これ以上でかくすンなッ…!」
「でけぇ方が好きなんだろうがエロコック。お前実はもうイってんじゃねぇだろうな。すげえ量だぞ」
「―――ちったぁ言葉を選びやがれッ!」

 くそーくそー、とサンジはゾロの額に自分のそれをこつこつとぶつけた。
 気持ちよかったらそうなるのは自然の摂理みたいなもんで、無念なことにどうしたってビンビンに勃ちまくってるのはバレバレだから、どんなに恥ずかしく思ってもサンジがそれを隠すことは不可能で、こんな意趣返しにもならぬ報復をするしかないのがかなりセツナイ。
 癪だからサンジはサルみたいに間抜けに腰を振る男の首に腕を回して、抱きしめるように引き寄せて、わざと耳元に唇を近づけた。

「つーか俺、マジでもうイキそ…」

 効果覿面で、余裕っぽかったゾロの目の色がぐわっと変わる。息なんかもすごく荒くなって、ほんとうの動物みたいにハァハァと煩い。
 それまで気遣ってゆっくり動かしてたのが嘘のようにグラインドを早められて、あわせてサンジの喘ぎも短いア行の音だけになった。
 ゾロはもうまったく口を利かず、ただ必死な顔で、汗をだらだら零しながら腰を打ち付ける。
 サンジは固く目を瞑って、ひっきりなしに襲ってくる波に身を任せることにした。 無駄に考えることはやめて、与えられる快楽だけを追いかけるべき時間だ。

「ハァ、ア、ウ、ア…ア!」
「…っぐ!」

 抱きしめてくる腕の力がぐっと強くなって、ゾロが一瞬息を詰めた。
 どくんどくんと、熱い液体をたっぷり中に流し込まれる。まるで吸い込むように内側がきゅうっと縮んで、サンジも震える先端から白く濁った精液を噴き上げた。

(あ―――すっげえ気持ちイイ…ッ)

 愛情の介在しないセックスは、なんて燃えるんだろう。
 体の一番奥でゾロの熱情を受け止めながら、サンジはうっとりとそう思った。
 なんてシアワセな日々。












(んでそのまま抜かずに一回、バックから一回、抱っこで一回前に戻ってまた二回)

 計六回かよ…!とサンジは自分が立てた指の総数に、歩きながら目をまわしそうになった。
 流石に太陽が黄色く見えるし、酷使しまくった腰が痛くてまっすぐ歩くのもかなりきつい。サンジはふらふらしながら前を行く緑頭を睨み付けた。
 宿に入るなり服を脱いで抱き合って、それからついさっきまで。
そりゃもう狂ったようにヤりまくった。
ソッチでサンジがイケることがバレてからは、船の上でも毎晩のように抱き合っている二人だ。
 それでもゾロは一日一回で我慢していたとかで、ほぼ不眠でお相手を務めたサンジは、さすがかつて魔獣と呼ばれただけのことはあるぜとうっかり感嘆してしまった。
 むさぼる、という言葉が相応しいほどの勢いで、お互いの出した精液でベッドも体もぐちょぐちょになるまで犯されて、体中がまだ甘く痺れている。

(まー俺ら、若いもんなー)

 歩きながらスパスパ煙草をふかしつつ、サンジはへらっと自嘲気味に笑った。
 グランドラインは広く、島から島へと渡る旅の中でも、運良くすぐに次の島が見つかるってことはそうそうあるもんじゃない。
 普段ガマンさせてるんなら、まあたまにはいっかなー、とか思うくらいの心の広さはサンジだって持ち合わせているので、ちょっとばかりヤリすぎても、ゾロとはもうオシマイ、なんて気はさらさらない。
 右手でシコシコ頑張るよりよっぽど気持ちイイし、そのうち素敵な恋人(勿論レディだ)ができるまでは、このマリモに付き合ってやってもイイとか思ってさえいるのだ。









 さて早朝に宿を出た二人が向かうのは、昨日行きそびれた市場である。
 サンジとしては短い逗留期間の間に、倉庫に残ってる食材との兼ね合いを考えながらの買出しを済ませて、後は島の特産品とか名物料理とかをいろいろ勉強したかったのだが、サカったエロマリモに引きずられるようにして、上陸解散と同時に安宿に連れ込まれてしまった。(まあそこまでの道案内はサンジがやったのだが…)
 それから朝までみっちりいやらしいことをされたおかげで、立てていた予定がすっかり狂ってしまった。
 少しの時間も惜しいとばかりに、マリモを荷物持ちに宿を出たまでは良かったが―――

「あー、ソッチじゃねェクソ野郎」
「?市場へ行くんだろう」
「だから市場はソッチじゃねェ…」
「よし。右か」
「ついでに言うとそっちは右でもねェぞ」

 大威張りで先を歩く剣士は自分の性癖をいつまで経っても理解していないようで、サンジは後ろから何度もゾロに声をかけては方向転換させている。
 自分が陣頭を切れば済む話だが、腰がアレなサンジはいつものごとくさくさく歩を進めることが出来ないのだ。
 ゾロにそれを告げてペースを合わせて貰うのも悔しいので、サンジはわざとゾロの好きなように歩かせる。
 大急ぎで買出し、という思惑に反して時間がかかって仕方ないが、

(コイツの乱暴なセックスも嫌いじゃねーけど)

 サンジはゾロの、そこだけ傷のない広い背中も気に入ってたりするので。
 無造作にそれが自分に向けられることをこっそり喜んでいるのが何故なのか、そんなことまでは考えないコックさんだった。

 



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