Four years after 1 |
1 賑やかな夕餉の後片付けを終えて、俺が明日の下拵えに取り掛かるころにヤツは現れる。 毎夜のことながら、のそりとラウンジのドアをあけ無言でキッチンを横切り、クソでかいテーブルの定位置に腰を下ろして俺の背中を眺めるさまは、なんていうか長年の躾の賜物だなァと俺はヒソカに感心した。 出逢ったばかりの頃なら特に用事がない限りできるだけ俺に近づこうとはしなかったし、俺の存在に慣れてきた頃はクソムカつく悪態しかつかなかったし、『用事』が出来てからは『てめェが俺に背中向けてるだけで勃起する』とかアホなコトを言いながら抱きついてきては作業の邪魔をしたもんだ。 その当時は俺だってカナリ若かったし…つか、二人してマス掻き覚えたてのサル状態だったりしたから、そういう見境のないセックスに興奮しないわけじゃなかったけど。―――つまり、「やめろこのエロ剣士」とか言いながら、無意識に蹴り飛ばすための足の角度を緩やかにしてやったりしていた。 嫌よ嫌よも、ってヤツ?新婚さんってのはそんなもんだろ…なんてのは、今だから言えること。 ご本人から手加減を指摘されるまで俺は本気で抵抗しているつもりだったのだから、我ながらスナオじゃなかったように思うが、まァガキってのはそんなもんだ。 キッチンに立っている間は邪魔しないようになった俺の猛獣は、そんくせ俺から視線を外すことはない。 項のあたりにちりちりと燃えるそれはいっそ火がついちまうんじゃねェのってくらい熱っぽくて、飽きねェなァこいつ、と俺をいつも呆れさせた。 未だにいちいちゾクッと来ちまう俺も俺だが。 食べ残しの骨を良く洗って包丁の柄で砕き、野菜屑と一緒にたっぷり水を注いだ大鍋にブチ込んで火をつける。それからこないだカルボナーラを作ったときに余った卵白を半分、冷凍庫から取り出してシンクの脇に置いた。しっかり溶ける頃には灰汁が浮いてくるだろう。 さて、と俺はエプロンで手を拭きながら、待ちぼうけを食らっていた男に顔を向けた。一見すると無表情だが俺にはヤツの尻尾がぶんぶん触れてるのが見えた。 一応ニンゲンに分類されてる男だから、当然の如くホントにそんなもんがついてるワケじゃない。慣れっつうか、俺だけに見えるアイの証みてェなもんだ。 「飲むか?」 「いや」 ヤツは聞かずとも解っていた返事を寄越し、同時にずずっと音を立てて自分の座ってる椅子を引いた。 ココに座れ、と言いたいらしい。泣く子も黙る大剣豪の正体がこんな甘ったれだって知ったら、世の剣士たちはさぞかし嘆くことだろう。 目指すものは遥か遠く、振るう剣だけがそこにコイツを導く。誰の助けも必要とせず、誰も助けにはなれず、ただ一人で、ずっと血塗れの道を歩んでいくのだろうと思っていた。 それを『寂しい』と感じるのは俺のエゴだ、とも。 だから俺はこいつが甘えてくれるようになったのが嬉しくてしょうがねェんだが、かつてナミさんに現場を見られたときは流石に慌てて引き剥がした。 俺らの爛れ切った関係はとっくに船内に知れ渡っていた(頼んでもねェのにコイツが勝手に公表しちまったのだ)が、ニッコリ微笑みながら黙ってドアを閉めた彼女の顔だけは忘れられない。 以来めっきり夜のラウンジを訪れるものが減ったのは多分ナミさんの差し金だが、コイツの借金はたいそう増額されたらしい。 「鍋が沸くまでだぞ」 「おう」 エプロンをつけたまま跨ぐようにして上に座ってやると、すぐに俺の腰に両手を回して引き寄せる。同じように俺も両手をヤツの首に回して、ごわごわする短髪を抱え込んでやった。 胸のあたりにぐいぐい顔を押し付けてきて俺の匂いを嗅ぐのはまるっきりドーブツなこいつの癖だ。しばらくそうやって、やがて満足したらしく顔を上げたので、俺は自分の唇をヤツのそれに重ねた。 わざとすぐ離すと、足りないと言わんばかりに舌が追いかけてくる。俺は笑いながら舌先だけ出して、窮屈な場所での追いかけっこに興じた。 堪え性のない剣士はすぐにガマンできなくなって、腰を支えていた腕を片方、俺の髪の毛に差し入れる。 がっちり固められて逃げ場がなくなった俺にニヤッと笑い、 「焦らすな。準備する時間が勿体ねぇだろ」 「下拵えなら真っ最中だ」 「いや、てめェの」 なんて言って噛み付いてきた。 尤もなご意見だったので、俺は少し口を開いてヤツの侵入を許してやる。 「…んっ」 お互いの舌を絡めあわせ、唾液をすすり、角度を変えながらの長いキス。 たったそれだけでじんじん痺れてくるハシタナイ体を持て余し、俺は尻をヤツの股間に擦り付けるように動かした。 要求に応えるように大きな手がエプロンの下を潜って俺のジッパーに下りてきて、俺もぶっとい首から腕を外して、はち切れそうになってるヤツを狭い場所から救い出してやる。 そうして局部だけを剥き出しにした状態で、互いの兆しきったモノに指を絡めた。 けれど口付けながらの愛撫では、乗ってる俺のほうがどうしても手を動かしにくい。 狙いが定まらなくてなかなかヤツのポイントを攻められない俺とは反対に、地の利を生かしたヤツの方は自由自在に俺を弄りまくる。 サオをぎゅっと包み込んで上下に動かしながら親指でカリのきわをぐりぐりされて、口をくっつけてるのも辛いほど感じた。 動かすことも出来ずに指を添えたまんまのチンコがやたら熱くて、それが余計に俺を煽る。 「む、…ん、…んンッ」 俺の先っちょからとろとろと際限なく汁が溢れていく。 指を伝って根元まで滴ったもんは丁寧に慎重に、皮膚から俺の体に戻すように全体に塗り伸ばされて、俺の股間はぐちょぐちょに濡れてしまった。 このまんまじゃ俺だけイッちまう、とヤツの背中を叩いて訴えたが、どうやら逆効果だったようで指の動きはもっと早くなり、ぐちぐち卑猥な音を立てながら俺を限界へと追い込んでいく。 爪の先がぐっと出口に潜り込んだ途端、ぶるぶるっと怖気みたいなのが背筋を走って、―――だめだもう、ヨすぎてモノが考えられね…ッ! 「んん―――っ!」 口腔で暴れまわる舌にがちんと噛み付いたのと同時に、アタマの奥で色んな光がハジけ飛んだ。 口の中にじわっと血の味が広がるが、傷を負わされた相手はそんなの構いもせずに、根元からぎゅうっと力を失った俺のを絞り上げた。 最後の一滴までぜんぶ、搾り出すように。 「っは、は…クソ、エプロンが汚れちまった」 「エロコックらしくてイイんじゃねぇか?」 俺が出しちまったことで唇もチンコもようやく解放されたが、肩で息をつく俺とは対照的に余裕な態度はムカついてしょうがねェ。 「お?」 俺は筋肉でがちがちの肩を押しやって、ムリヤリ足元に潜り込んだ。 そこには丁度やたらでっかくなったアレがあって、俺は見下ろしてくるヤツの瞳をじっと見据えたまま、ぺろりと舌なめずりしてやる。 期待してんだろう、男のノドがごくりと動く。なんだ、コイツだってギリギリじゃねェか。 そんな反応にちょっと気を良くして、俺は血管のびきびき浮いたチンコに躊躇いなく唇を寄せた。ツンと鼻をつく野郎特有の臭気だって、慣れてしまえば興奮するだけ。 どう贔屓目に見たってグロテスクな男性器だが、初めて見たときよりもっと黒ずんできたのも俺のおかげだと思うと可愛いもんだ。…俺のがあんまり変わらないのもコイツのせいだが。 (指とかで擦るのとナカに入れて擦るんじゃ大分違うんだろうなー) それを考えるとちと悔しい気がしないでもなかったので、俺はちょっとした意地悪を思いついた。 先端にキスしてやりながら気持ちだけ湧いていたガマン汁を啜ってやる。 口ン中でコイツの血とソレの味が混ざってヘンな感じだ。どちらもヤツの体液には違いないのだが。 あーんと口を開いて亀頭ぜんぶを口に含み、つるつるした肉を舌で満遍なく舐めあげてたら、頭の上から押し殺したような呻き声が上がった。 俺のチンコに触ってたのと反対の手のひらが、さわさわと俺の後ろアタマを撫でる感触。随分と偉そうな仕草だが、指先がちょっと震えてンぜ? アイツが十分感じてるのを解った上で、俺はちゅぽん、とそっから唇を離した。 ひょいと首を上げたら残念そーになった顔とぶつかって、俺はヤツににっこりと微笑んでやる。 顔を合わせたまま見せ付けるように限界まで舌を伸ばして、逞しいサオの下から上へとつつーっと這わせたら、「うお」と呻いて椅子に腰掛けたまんまの上体が傾いだ。 ゆっくりゆっくり、上下に舌先だけを滑らせる。 そのたんびにチンコがびくびくしてるのが面白いが、もどかしい舌技にアッチはさぞかし焦れているだろう。 とうとう痺れを切らしたらしく、低い声で指示まで飛んできた。 「…っと、ちゃんと咥えろ」 「んん?気持ちヨくね?」 「ンなこたねぇが…」 ホントは俺の頭を引っつかんでテメェで腰動かしてぇ、ってツラしてる癖に、そんなことを言う。 ヤれるだけヤりまくった俺たちは、いつからかセックスが射精するためだけのモンじゃねェって気がついて。ぶつけ合うことをやめて抱き合うことに熱心になった。 だからコイツは俺がリードしてるとき、問答無用で主導権を奪うことはしない。 それが解ってて焦らす俺はサイテーかも知れないが…、 「残念。タイムアウトだ」 「―――アァ!?」 突然立ち上がった俺をワケが解らないといった顔で見上げる男に、俺はゆっくりキッチンを指差した。 「鍋が沸騰するまで、つっただろ?」 「てめェ…もしかしてワザとか…」 短気なのはちっと位歳を取っても変わらない。 青筋の何本か浮いた広い額に俺はちゅっとキスしてやって、 「火ィ弱めたら…今度こそ二時間みっちりタイムサーヴィスだぜ?」 ぐう、と喉の奥で唸った恋人は、それでも掴みかかってはこなかった。 俺はホントーに躾の天才だと思う。 |
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