Four years after 2





 何事もなかったかのようにキッチンに向かう後姿を俺は呆然と眺めた。
コックが居なくなった途端に出しっぱなしのチンコにひゅうっと隙間風が当たって、侘びしい事この上ない。
 クソったれ、と俺はすっかり伝染しちまったあいつの口癖を心中で呟き、仕方なく腕組みしながら仕事が終わるのを待つことにした。
 ぬくくて居心地のイイ場所にぶちまけそこねた俺のは当然の如くこれっぽっちも治まる様子を見せず、俺はさっさと仕舞い込むのを諦めて、キレイに手を洗ってからクツクツ煮える鍋を覗き込む金髪頭を睨み続けた。
 ちっと前なら「ふざけるな!」と怒鳴り上げて即行床に押し倒したもんだが、ヘタにオトナになっちまったからそれも出来ねぇ。
 相手の感情などお構いなしに突っ走れた頃は懐かしくもあり、しかし等しく相手を蔑ろにした頃でもあって、それを思い出すと自分の狭量が身に沁みる。
悪し様に罵ったり、ムカつく態度にキレて無理矢理犯したり、良くぞもったと思うほど俺は最低なことを繰り返してきた。―――倍返しされたような気もするが。
 ただやっぱり、そんな時のあいつの顔だけは二度と見たくないと思うし、ンな回りくどいことをしなくてもあいつは真っ直ぐ俺を見るようになったから。
相変わらず女共にはへつらってるわ誰彼構わず情けをかけるわで、またフラフラしてやがると苛々させられることは多い。
 だが依然として俺にだけ下らねぇことで悪態をついてくるその顔は、かつてのトゲトゲしさをすっかり潜め、まるで構われたがりの子犬が足元にじゃれついてくるかのように、なんというかいつでも…抱きしめてしまいたくなるほどアレだ。







 キッチンに立つコックは、目の前の食材にだけ集中してるせいか、やたらと背後に無防備な気がする。
特にあの項あたりは最悪だ。こうしてあいつを眺めていると、否応無しにそこに目が吸い寄せられて困る―――いっそ髪でも伸ばして隠してくれりゃいいものを。
 それからあのケツ。小せぇ癖に俺のをぎっちり咥え込むそこは、さんざ酷使してるってのに女みてぇに形が崩れることもなく、高い位置できゅっと締まってて目の毒にも程があった。まさに色気の垂れ流しだ。
 クルーの数もそれなりに増えてきたことだし、俺の目を盗んでつまみ食いしようとする輩もいるかもしれねぇ。
だから気をつけろ、と俺が忠告すると、コックは「新入りごときが俺の城を荒らせるかよ」と笑い飛ばしたが、俺が心配してるのはてめェの城じゃなくて俺のモンだというと、ようやく俺の言いたかったことに気付いたらしく、顔を真っ赤にして怒った。

「うっし。―――待たせたな…ってお前、なんだその格好」

振り返った先でチンコ丸出しのままふんぞり返っていた俺に、呆れたように呟く。

「こーなっちまったらてめェの中にしか仕舞えねぇ」
「………」

コックはしょうがねェなあ、とかほざきながら近づいて「よしよし」と俺の股間を撫でた。
 白い指先を閃かせながら勃ちっぱなしのチンコに向かって、

「お預けが長くてイジけちまったか?」
「かなりな。エサが貰えるまで梃子でも動かねぇそうだ」
「悪ィが極上だぞ?」

するりとネクタイを解いてみせ、俺はテーブルの上にコックを引き摺り倒した。
 高い金を払って(正確には借金を増やして、だが)人払いしてるんだから、たまにはココを利用させてもらうのもいいだろう。







 こいつを抱けるのは週に二、三度がせいぜい。
出会ってからと寸分違わぬ白さを持った肌のそこかしこには、前回のそれで俺がつけた跡が花弁のように散っている。
 もっとサカってた頃は歯止めが効かなくて下手すりゃ毎晩のイキオイで鳴かせていた。
それがどれだけこいつの負担になるのかなんて頭はちっとも働かなかった。
 ヤリまくって枯れてきたワケじゃねぇが「一生付き合うもんなんだからもうちょい手加減しろ」とまで言われては、ぶっ壊すイキオイだった自分を反省するしかなく。
 渋々と回数の低減を受け入れたその代わり、コックはマーキングを解禁した。
隙を見ては目立つところに痕跡を残そうとする俺を、そのたびに思いっきり蹴り飛ばしてきたこいつには最大の譲歩だったに違いない。
 所有の証のように思っていた赤はだが、今となってはあまりその意味を持たねぇ。
跡があろうとなかろうとこれは俺のものだ。

「…ッあっ」

薄くなりかけた部分を吸い上げると、組み敷いた痩身がびくんと跳ねる。
外気に触れて慎ましく尖り始めた箇所には触れずに、首筋から鎖骨のあたりに残ったものから順に執拗に責めた。美味そうに熟れてきたトコを放ったらかしてんのは別に先刻の仕返しのつもりじゃねぇ。
折角やらしい色になってんのを消すのは勿体無ぇだろ?

「も、いー加減にしろッ」
「いてて」

文句を言いながら俺の髪の毛を引っ張るこいつの頬が赤いのは、ソコがまんまてめェの弱点だって言ってるようなもんなんだが、俺に弄られる以外なんの役にも立たねぇ乳首を嬲るのだって嫌いじゃねぇっつかむしろ大好きだ。
 舌を這わせながら甘噛みしてやれば堪らないといったように身をくねらせて歓ぶ。
頭が二つあったら同時にしゃぶってやれんだがなぁと思いつつ反対側の突起を指で弾けば、薄い唇の間から掠れた悲鳴が上がった。
 抜いたばっかのチンコはもう形を変え始め、柔らかな布を押し上げるようにして存在を主張している。
ご期待に応え俺はコックの下半身から下着ごとズボンを抜き去った。
何も纏うものがなくなって所在無げに揺れる両足をそれぞれ俺の肩に乗せ、やらかいケツを押し広げて中心へと舌を伸ばす。
 小さく収縮を繰り返すソコは乳首よりもうちっと赤いピンクで、何度犯しても見るたびに俺の喉を干上がらせた。
すぐにでも曝きたい衝動を飲み込んで、コッソリ腹巻ん中に常備してるソレ用の油を―――因みにこいつは俺がこっからモノを取り出すのを見ると一気に萎えるらしい―――そっと取り出す。
指の間にたらりと粘っこい油を垂らして、自分から愛液を漏らすことのない場所が俺を受け入れられるように、指と舌で少しずつ解していく。
 ケツの穴での快感を覚えこませた体は、爪の先だけで硬直してた頃がウソみたいにカンタンに俺の指を引き込むようになり、ナカでちょっと動かしただけでひんひん鳴くようになった。
 俺に惚れるまでちっともソノ気がなかった割には淫乱がすぎる反応だが、俺がココまで開発したのだと思えば誇りこそすれ謗る気にはなれねぇ。

「一本じゃ物足りねぇのか?ぱくぱく開いてんぜ」
「こ…ンのエロけんし…ッ」
「どっちがエロいんだよオラ。もっとケツ上げろ、奥まで見えねえだろ」

…言葉では嬲るが。





 うっかり指と舌だけで果てそうになっちまうのを、俺は手拭を使ってせき止めてやった。
あいつは涙目で「外せ」と哀願してきたけど、その顔がとんでもなくエロ臭く、もっとやって欲しそうにしか見えねぇから手に負えねぇ。
 俺はニヤッと意地悪く笑って返し、ほどよく綻んだ場所に猛りきった分身をぶち込んだ。

「あ、う、アア!」

ぐっと仰け反る背中に手を入れて、間髪を入れずに奥まで押し込む。
絡み付いてくる肉壁を引き剥がすように何度もスライドさせると、俺の肩に爪を食い込ませながら絶え間なく喘ぎ悶えるのが堪らなく愛おしかった。
 寝るようになったばかりの頃は、声を上げることはおろか俺の背に腕を回すことすらしなかった男だ。俺がこいつをこんな風に変えたのだと思うと、それだけで背筋をゾクリと戦慄にも似た快感が走る。
熱く締め付けてくる内側はそのくせひどく柔らかく隙間なく俺を包み、切れ目なく襲い掛かる射精感と戦いながら腰を使うのは精神的にかなりきついもんがあった。
 こんだけ気持ちのイイ場所を俺は知らねぇ。

「…ろ、ゾロッ」

前立腺とかいうのを腹のナカから擦り上げられているせいか、根元を戒めたままのチンコが苦しそうに震え出した。整った顔立ちが快楽に歪んで、涙をぽろぽろ零しながら解放をねだる。
さすがに可哀想になったが、そんな顔だってどうしようもなくソソられるんだから俺も相当気が狂っている。もっともっと、昇り詰められる最限まで引き上げてやりたい。

「…抱っこしてやっから、もうちっとガマンしろ」

背中に回した腕に力を入れ、繋がったまま細っこい体を引き上げて俺は椅子に腰を下ろした。

「や、ダメだ、深ッ…うあ!」

自分の体重で串刺しになったコックが、耐え切れぬといった風情で俺にしがみついてくる。汗でべとつく胸を合わせて背中を撫でてやると、「てめェ最低」と詰られて苦笑した。
 こいつを抱くとき俺は、優しくしてやりてぇんだか乱暴にしてぇんだか、自分でもサッパリ解らなくなってよく混乱する。
 混乱したまんまだから、ギリギリまで来ちまった後はつい思いついた通りに行動しちまうんだが、どんだけ年月が過ぎてもこれだけは改善されることはないように思う。
 俺のセックスに翻弄されたツラを見せながら、その実俺を振り回しているのをこいつは意識してるんだろうか?
 こっちが抱かれてる気分だといったら、さぞかし妙な表情になるに違いない。
 しがみつかれて座ったままの抽挿はやりにくく、だがその分こいつは追われることなく自由に快楽を追うことが出来る。

「ああっ…は、あ、あ、」

乱れた呼吸のまま俺の上でゆっくり腰を動かし、張り出したところを自分の一番感じるところに擦りつけるさまは、たどたどしいからこそ卑猥だ。
長い前髪が乱れて右目にかかったのが気になって、指先でちょいと上げてやったら、ぎゅっと閉じていた瞼をかすかに上げて薄く笑う。
 その一瞬でカッと脳髄が焼け切れた。

「―――てめ…っ!」
「あ、なに、待ッ」

固い戒めを乱暴に解き、膝裏に手を入れ床につけてた足を限界まで持ち上げると、驚いたように蒼い目を見開く。
頓着せず浮かせた腰を下から好き勝手に何度も突き上げて、狭い場所から得られる刺激だけを俺は求め、

「ア、ア、…―――ゾロッ…!」

どこか遠くのほうで名前を呼ばれたと同時に合わせた胸にぴしゃっと熱い飛沫がかかり、きゅうと締まった奥に搾られるまま、俺はコックの中に全てをぶち撒けた。




 俺が中に出したせいで予定が狂ったと、腕の中にちゃっかり納まりながらぶちぶち包丁を動かしている。

「ったく…俺ァ今から夜晩の差し入れがあるんだっつうの…」

 後始末は風呂場でちゃんとしてやっただろうが、と反論すると「頼んでねェ!」とキレられた。ふらふらしてキッチンに立てねェから後ろから支えろ、なんて甘えてきたくせに偉そうな奴だ。

(甘え、か)

 どっちかがどっちかに甘える、なんてなぁ昔の俺らじゃ考えられねぇことだった。
4年間ってなぁ長いのか短いのか。
俺はこいつを最初はスカした…どうでもいい人間だと思っていた。そのうち顔を見るだけでムカつくようになり、すぐにこっちを向かねぇことにイラつくようになり。
 それまでの俺は野望以外にさしたる執着を持たず、脇目も振らず駆け抜けることしか考えてなかったように思う。それが良かったしそうするしか出来なかった。
こいつの作るメシやあたたかい空気、それは『安らぎ』とか呼ばれるもんで。
俺の道には関係も必要もねぇもんだと思いながら目が離せねぇ。
 どうしてぇのか解らずに、流れにのるまま喧嘩して、その勢いで抱き合って―――めちゃめちゃこいつに惚れてんのを認めるのには、かなりな時間を要したと思う。
我ながら似合わぬ感情はやつに言わせると情緒というもんらしい。

『良かったじゃねェか魔獣からニンゲン様になれて。俺のジョウソウキョウイクの賜物だな』

笑いながらの失敬な言葉にそのときは激昂したが、今思えばひどく得心がいく。
ただ我武者羅でしかなかった俺に余裕を持たせたのは、時間とこの船のクルーと、こいつなんだろう。それらを得て俺はぐんと強くなった。

(そんで多分、もっと強くなれる)

しゃかしゃかとリズム良くボウルの中身をかき混ぜる音は小気味がいい。
ふと手元を覗き込んでみると、

「んだそりゃ」
「卵の白身。これがスープの中のいらねェもんを抱いて浮いてくる。後は漉したら出来上がりだ」

透明でどろりとした液体が中途半端に白っぽく泡立ち、なんとなく俺にこいつとのセックスを連想させる。
 洗い立ての髪の毛は湿っているが、肌触りがいいことには変わりなく。
肩口に顎を乗せ、頭を摺り寄せるようにして堪能していたら、真っ赤な顔で睨み付けてきた。





「大概にしろよ、このケダモノ…」

また兆してきたのがバレたらしい。この密着度ではムリのないことだが、

「てめェを抱いてんだから仕方ねぇだろ」
「…イイ年こいてサカりまくってんじゃねェ!」
「あーあー解ったから耳元ででけぇ声だすな」

頭の奥がキンキンする。
 意趣返しにがり、と耳朶を齧ったら目を瞑って「あ」とか声を出すもんだから、俺はガキの頃に戻ったみてぇに爆笑した。


Next year and the year after next are all the time with this!



END

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caramel tea...さまサイト開設4執念記念に。mamiさんから素敵な挿絵を頂ました(2003.09.16)

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