春、間近 15 |
15 そして、春間近 太い指が内臓の中を行ったり来たりしている。 1本受け入れるのでさえ息を詰めたサンジは、それが3本に増えた今も必死で声を殺していた。 心の中ではゾロの砲身はこんなものではないのだから、これ位の痛みに耐えられなくてどうする、と必死で自分を叱咤激励している。 そう、指淫におけるサンジの感想はただ『痛い』に尽きた。 ゾロはキレた時とは比べ物にならぬほど慎重に丁寧にサンジに触れているのだが、そんなところを人目に晒したことも弄られたこともないサンジは、既に羞恥と長々と続く疼痛でイッパイイッパイだ。 自分で誘惑しておいて情けない話だが、ピンクな気分はとっくに吹っ飛んでいて(何でもいいからとっとと終わってくれ)としか思えない。 ゾロはそんなサンジを心配そうに窺いながらも、狭い場所を解すため果敢なチャレンジを続けていた。 「おい、大丈夫か」 「へ、へーき、だから、も、はやく、」 バレバレの作り笑いで答えると、額に汗を浮かべたゾロの眉がぎゅっと寄せられる。 サンジの思いが通じたかすぐに指がひゅっと引き抜かれ、ほっと肩で息をついたのと同時に、ぬるりとした指よりもっと大きな熱塊がそこに当たってサンジは思わず身を竦めた。 さっきまで弄り倒されていたところをぐいぐいと強く押される。 (あ、く、来ンのか) 覚悟を決め、ぎゅっと歯を食いしばった途端に、それが来た。 「―――うア、ア、アアアア!」 「…っく…!」 限界まで左右に広げられた足の中心を引き裂くように、熱い杭のようなものが押し入って来る。 狭すぎた場所は受け入れるサンジにだけ苦痛を与えるわけではなく、穿つゾロをもぎりぎりと締め上げ、男の背中にぶわっと汗を浮き上がらせた。 圧倒的な質量と力強さを備えたゾロの陰茎はそれでも侵入を止めようとはしない。 開ききっていないサンジの入り口をぎちぎちと軋ませながら己の形に広げていき、激痛からサンジの身体はぶるぶると痙攣し始め、喉からは言葉にならぬ呻きが絶え間なく上がった。 「ア、い、いた、ア、ア、ア、ア」 「…アホ、舌を噛むぞッ!」 ショックから開かれたままの口元に、咄嗟にゾロは右手の甲を含ませた。 傷を負った上からきつく噛み締められたがなんとか堪える。 「喰い千切ってもいいから、そのまま噛んどけ…!」 「…ウ、ン、ンウ、」 「くそっ、すげえなお前…」 悔しげに呟かれて、痛みで目に涙をいっぱい溜めたままサンジはゾロを凝視した。 ゾロは絞り取られるようなキツさに目を細めながら、脂汗を滲ませた額に唇を落とし、 「まだ先っぽしか入ってねぇのに、動かねぇでもイッちまいそーだ…」 ニカッと嬉しそうに笑って、片腕で白い体をきつく抱きすくめた。 サンジの好きな、あの笑い方で。 「―――ウ、ウーッ」 青い瞳からぽろぽろと止め処なく涙があふれる。 身を裂かれる激痛に耐えながら、サンジは精一杯両腕を伸ばして、逞しい背中を抱きしめ返した。 などと頑張ってはみたが、努力の甲斐も空しく結局ゾロはサンジに全てを含ませることは出来なかった。 ようやく半分までをなんとか収めたところで、サンジはすうっと意識を手放してしまったのだ。 これはヤバイとゾロは大慌てで自身を引き抜き、真っ青になった頬をぺちぺちと叩いて彼岸に逝き掛けた彼を呼び戻し、ほーっと安堵のため息をついた。 うっかり気絶なんかしてしまったサンジは、顔を真っ赤にして再チャレンジを主張したが、その顔からすっかり色が抜けるところを間近で見てしまったゾロはとてもじゃないがそんな気にはなれなくて。 「いつでも出来んだから、俺は焦らねぇ」 なんて余裕の態度で微笑んで、サンジをより赤くさせたようである。 それから二人は、狭いベッドの上で体をくっつけたまま長いことお互いの話をした。 サンジは北国の生まれであることや、だから雪の日に歩くのは慣れっこなんだと自慢げに語り、ゾロはここから余り離れていない他県出身で、自分では気づいていないが少々訛っているらしいことを告白したりした。 話を進めるうちに初めて二人は自分たちが同い年だということを知り、サンジは「もっとオヤジだと思った」と驚き、ゾロは「もっとガキだと思った」と肩を竦め、少々険悪な雰囲気になったりも、した。 おでん屋はひそかに(こいつが俺の家に来るまでにアレを始末しなきゃ)と中学時代にハマったガンプラの処分を決め、ゾロは(見つからねぇところにアレは隠したほうがいいか)と冬場は手放せない愛用腹巻の隠匿場所について思案したという。 裸のままで話していたら、くしゃん!と小さくおでん屋がくしゃみをし、ゾロは少し笑って、少しずれていた布団を引き上げながらサンジを包みこむように抱きしめてやる。 どうにも恥ずかしがり屋なサンジは、ぱぱっとまた頬を赤らめて目を逸らしたけれど、嫌がる素振りも見せず腕の中でおとなしくしていてゾロは大変満足した。 思わずニヤニヤしてしまう男に、サンジは照れを隠すように早口で喋り始める。 「あのさァ、なんか、ちょっと前にもこんなことあったよなァ」 「ん?」 「テメェの退院が決まった日。俺が病院に行ったら、『ここは山小屋だから暖めあうぞ』とかなんとか言って」 「あー、そういうこともあったか」 「なんかさ、今ってマジでそれっぽくね?」 ふふっと笑って振り返った先におかしなものを見つけて、サンジはきょとん、と目を点にした。 背後の男が自分を抱きしめたまま、顔面を蒼白にしてがちがちに固まっている。 「…ゾロ?」 「―――思い出した」 「アァ?」 「お前の、…首筋のキスマーク」 恐る恐る、といった体で伸ばされた指先が示すのは、ゾロに噛み付かれた耳の下あたりだ。 サンジはまだ少し痛みが残るそこを自分でさわさわと撫でながら、 「あー、なんか虫にでも刺されたんじゃねェのかな。それをテメェが勝手に」 「違う」 「んん?」 「あの日、お前は俺の前ですっかり寝入っちまって…なんか退屈で、つい」 「つい?」 「―――俺がつけたんだ、それ」 「アァ?」 「いや悪ィ、すっかり忘れてた」 「………」 迂闊だったぜ、なんてその時のことに思いを馳せるゾロが、腕の中で怒りに震えるサンジに気がつかなかったのは不運だとしか言いようがない。 「―――テメェかァ!」 寝転んだままの不自然な体勢から繰り出されたとはとても思えない強烈なキックを喰らって、ゾロはベッドからクローゼットまで一気に吹っ飛ばされた。 不運というよりは身から出た錆、だったかも知れない。 思い込みの激しい恋人により多大な迷惑を被ったおでん屋の激怒っぷりは物凄く、それから五日もの間、ゾロはサンジにマトモに口を利いてもらえないという憂き目に遭っている。 それでもゾロはしぶとく屋台に通い続け、さっきようやくタマゴを1個サービスしてもらえた。 しかしこの程度で安心するわけにはいかない。 (冗談じゃねぇぞ、今度こそ) 明日は待ちに待った定休日なのだ。 不発に終わったあの夜をリベンジするために、今夜中にはなんとかおでん屋の機嫌を直しておきたいゾロなのである。 いつのまにか時期外れの豪雪はすっかり消えて、日中は暖かい日差しが差すようになってきた。 季節も二人にも、本当の春は、もうすぐそこ。 END |
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(2004.06.20) |
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