さくら 7





 顔を見られたら恥ずかしがるだろうと思ってわざわざひっくり返してやったのに、サンジは俺の顔が見えていないと不安だといって、自分から足を大きく開いた。
 細くて色素の薄い両足の付け根に、赤く閃く桜の蕾。
まさか本番が出来るとは思ってもみなかった俺は、方法こそしっかり頭に叩き込んではいたものの、ジェルだとかローションだとかっていうアナル専用の潤滑油は入手し損ねていた。
 ついでに言えばゴムも用意なんかしてなかったが、挿入はナマ以外考えられなかったので良し。
 いっそ舐めて解すかと考えたが、初めてのセックスからいきなり上級テクを披露するにはサンジの方に問題がありそうだった。ヒトリでどんな練習をしたんだと詰られては流石に格好がつかねぇ。
 一旦停戦してオーソドックスに台所からこっそり拝借していたサラダオイルを手のひらに零して、俺はゆっくりサンジの中心に指を這わせる。
 小さな襞が沢山集まったようなソコは固く閉ざされていたが、爪を立てないよう指の腹で揉みこむように弄っているうちに、くぷっと音を立てて爪先の半分までが吸い込まれた。

「うあっ」
「痛ぇか」

 短く漏れた悲鳴に持ち主の顔を覗き込むと、唇をしっかり噛み締めて恥辱に堪える風情のサンジがいる。

「痛く…ねェけどなんか、なんかちょっと」
「おう」
「へんなかんじ」

 そりゃケツの穴にモノが入ってきたらヘンなかんじもするだろうよと思いながら、俺は指をぐにぐに押して、キツイ場所を少しずつ広げていく。
 サンジの体内は外側よりもずっと熱く、こん中に俺のをブチ込んだらさぞかし気持ちよかろうと思わせるには過分なほどにやらしく蠢いていた。
 逸るココロを押さえながら、慎重に慎重に、間違っても内部を傷つけたりしないようにゆっくりと指を埋め込んだ。
 サンジが感じている異物感は指一本でも相当なのだろう。
ぎゅっと眉根を寄せて、顔が見たいと言ったくせにしっかり瞼を落としていて、意地っ張りの片鱗を覗かせている。

「ちゃんとヨクしてやるつっただろ。力を抜け」
「う、うん」
「動かすからな」

 前立腺とか言うのを探すために動き始めた俺の指先に、ぐっとサンジが仰け反った。立てた膝が小刻みに揺れる。

(確か、ここらへん)

 専門書で手に入れた知識を辿るように、サンジに埋めた指を上向きにして弄る。
ついでに親指で睾丸と会陰の真ん中あたりを刺激してやっていたら、出し抜けにサンジの体がびくんと跳ねた。

「―――ここか!」
「あっ、や、何ッ」

 入り口にほど近い、指をほんの少し曲げた箇所。
そこを狙うように押してやると、そのたびにサンジの口から明らかな嬌声が漏れる。
 ほったらかされて力を失っていた白っぽいチンコが、くくっと首をもたげ始めて、俺は心中でガッツポーズを作った。

「っひ、うあ、っは、あ、あ、」

 軽い圧迫と解放を丹念に繰り返すうちに、だんだんとサンジの体が蕩けていく。
 二本目をゆるゆる挿し込んでも、覚えたばかりの快感に溺れかけたサンジは抵抗を感じられないようだった。

「っく、あ、ああっ、い」

 焦って注ぎ足そうとしたオイルが、俺の手からシーツへとぽたぽた落ちる。洗濯しても取れねぇだろう油染みの上に、手で擦ったときよりもっと沢山、水みてぇにだらだら漏らすサンジの先走りが、太股を伝い落ちて重なる。

「すげ…っ」
「んん、や、ゾロ、も、もうや、あ、」
「お前の嫌っつーのはスキのうちなんだよな?」

 先ほど聞かされまくった耳障りな否定の言葉も、はっきり快楽を示すカラダの反応が俺を後押ししてくれて、今では心地よく響く。
 目の眩むような光景を目の当たりにしながら、俺は自分のチンコに指を伸ばしかけるのを必死で堪えた。
 速射間違いなしの絶好のロケーションだが、やりあきた自慰なんかより、もっとすごいご馳走が控えているのだ。

「ン、だめだクソ、俺、おかしく、なり、そ…ッ、」
「なれよ。おかしくなっちまえ…!」

 爆発しそうに張り詰めたサンジのものに指を絡ませて、激しく扱き上げてやる。同じスピードで、三本まで含ませた指を、オイルの力を借りながらばらばらに動かした。
 ぐちゅぐちゅっと淫猥な音があがるたびにサンジの声は大きくなっていく。

「やば、やべェゾロッ、ア、っは、」
「―――っ」

 涙目になったサンジに乞われるように視線を投げられて、俺は挿れたときの丁寧さをすっかり失念しながら乱暴にオイルまみれの指を引き抜いた。
 赤っぽい内臓の色をちらりと覗かせるやらしい場所に、抜いた指のかわりに猛りきった俺のものを宛がい、そら多すぎだろって量のオイルをぶっかける。
 呼吸に合わせて上下するサンジの下腹に手をあてて、

「…行くぞッ…」
「う、ン、…ッああああ!」

 ぐぷり、と出っ張ったカリまで一気に押し込んだ。

「っく!」
「ア、ア、ア、ア、ア、」

 しっかり柔らかくしたつもりでも、サンジのそこは驚くほど狭くてきつい。搾り取ろうとするかのように絡みつく肉を振り切ってぐっと腰を進めると、質量に耐えかねたサンジの体が逃げるようにベッドを滑っていく。

「や、あ、は、痛ェ、痛ェよゾロ…ッ」

 半泣きになっちまったサンジの声が、どっか遠くのほうから聞こえるのに、俺はもうナカにぶちまけることしか考えられなくなっていた。
 腰を鷲掴みにして引き寄せ、長いチンコの全てをサンジの中に含ませる。腸内は勝手に蠕動を繰り返し、俺を咥え込んだ部分は絶えずきゅうきゅうと締め上げてきた。
 局部の誘うような動きにつられて、本能のままに抽挿を始めた俺は我ながら大概酷い男だったと終わった後になって思ったが、そんときの俺は、サンジから与えられる圧倒的な快感を極めることで精一杯で。
 痛みで萎えちまったサンジ自身を労わってやることもせず、闇雲に腰を使って、ただ必死に突き上げて擦りつける。

「うあ、あ、ゾロ、ゾロ、ゾロッ…!」
「ッ、サンジッ」

 俺の名前を連呼したサンジの体がほんの僅か硬直し、やがてくたりと弛緩して。
 内側に与えられた刺激だけで俺の腹に噴き上げたのを感じたのとほぼ時を同じくして、俺もサンジの最奥に欲を解き放った。








 お化けから生身になったサンジに後ろを使った性交は大層なダメージを与えたらしく、俺はまた「もっと気を遣え」との説教を受ける羽目になった。

「…しばらくは最後までやらねェ」

 現世に戻ってたった一年の間に覚えたのか、ベッドに横たわったまま偉そうに煙草なんかふかしはじめたサンジは、しかし思い切り情けねぇツラになった俺を見て、火のついた煙草を指に挟んだまま慌てて両手を振る。

「いや、別にてめェがイヤんなった訳じゃなくて、エッチは気持ちよかったんだけど店の手伝いとか勉強とかあっから」
「―――勉強なら俺が教えてやんぞ」
「?」
「俺が通ってんの教育学部だし。練習にもなんだろ」
「てめェ教師志望かよ!聞いてねェぞそんなの?」
「アホな小学生が寄り道して事故ったりしねぇように、きっちり指導するのが俺の夢だ」

 初めて語った俺の言葉に、サンジはあんぐりと口を開け、

「てめェってほんと、俺に嵌り過ぎだよなァ」

にっかり笑ってキスをくれた。








END


BACK

 (初出2005.03.06/WEB2010.03.14)

Template by ネットマニア