さくら 6





  薄いブルーの開襟シャツから覗く肌は、何度かキスを繰り返しているうちにうっすらとピンク色に染まり始めた。

「ン、んんッ」

 サンジお化け時代にやり損ねた分を取り返すタメにしつこく舌を絡ませる俺に、瞼を固く閉じたままのサンジが、俺の髪をぐいぐい引っ張って牽制するのがなんとも可愛らしく思えてついつい顔がにやけちまう。
 処女は反応がイイってのは多分こういうコトを言うんだな、とおかしなところで感心した俺もまあバッチリ童貞だったりするんだが、物心ついたときから、抱く相手はサンジだけだと決めてきた俺なので、桜が折れなきゃ無駄になるとこだった研究の成果を遺憾なく発揮させて貰おうと気合を入れた。
 柔らかくてぬくいサンジの口中を余すところなく舐めて、口ン中で遊ぶ舌を追いかけた。
捕まえてキツ目に吸い上げてやると刺激が強すぎたのか髪の毛を引っ張る指にぐっと力が篭るのがたまらない。散々嬲ってから離れ際に薄い上唇を甘噛みしようとしたら、「いい加減にしろ!」と突然逆ギレされた。

「てめェはエロすぎる!若さがねェ!」
「あーハイハイ」
「はいはいって、あ、こら」

 潤みまくった目で怒鳴られても、キスだけですっかりその気になっちまってるのはバレバレだ。
 ベッドから身を起こすことも出来なくなってるサンジを宥めるためにさらさらしてる金色頭を撫でながら、シャツのボタンを一つずつ丁寧に外してやる。
 一気に引き裂いてしまいたい気もしたが、ことサンジに関しては、それこそこうした接触の一切を諦めていた俺だ。
 闇雲に想いの丈をぶつけるよりも、優しく…は無理かもしれねぇが、俺に身を任せてくれたサンジを、間違っても怯えさせたくはなかったから。
 いちばん下まで全て外し終えてから、俺はそのままジーンズに手をかけた。
サンジはほんのちょっと躊躇う空気を漂わせたが、止める気はなかったようで成すがまま静かに体を横たえている。
 ベルトを抜いてジッパーを下ろしていたら、サンジのそこが力を持ち始めているのに気がついて嬉しくなった。
 とっくの昔にぎんぎんに張り詰めてる俺と比べたらささやかなもんだったが、ココロだけじゃなくてカラダも俺を受け入れてくれているのだと十分に感じさせてくれる。

「腰、ちょっと上げれるか」
「お、う」

 非常に協力的な恋人は俺に言われるままにくいっと尻を上げて、本人にそんなつもりはなかったろうが扇情的な仕草に頭の芯がくらりときた。どうもこいつは、無意識に俺を誘うのが上手すぎる。
 長い足からゆっくり下着ごとズボンを引き抜き、床に放り投げてから改めてシャツを脱がせれば、一糸纏わぬ姿になったサンジが俺の下で白い裸身を晒していた。
 がっついた話だが思わずごくっと唾を飲み込んだ俺に、

「じろじろ見てねェでてめェも脱げ」

なんて眼を逸らしながら言ってくる。
 勿論俺に否やはなかったので、サンジを脱がす十分の一くらいのスピードで、素早く俺も全裸になった。
 大の男が二人してマッパになってベッドの上なんてのは、ハタから見たらかなり寒い絵面だったかもしれねぇが、俺ぁともかくコイツのヌードには一見の価値があると思った。
 シーツと見紛うばかりに白い、肌理の細かい肌。
頬っぺたと乳首と、濃い金色の茂みの下にある雄芯だけが赤みの強ぇピンク色で、

「―――すげぇなお前、桜みてぇだ」

俺が漏らした感嘆の声はサンジの羞恥心をピークまで押し上げたらしく、下から伸びてきた腕に頭ごと絡め取られて引き寄せられた。

「も、頼むから黙ってやってくれ…」

 自分の胸に俺の顔を押し当てながら情けない声を出す。
悪戯心を出して、眼前に来た小さな突起をぺろりと舐めると、びくん!と大きく痩身が揺れた。

「うあ、や、何っ」

 反対側は指の腹を使って撫でてやりながら、ちょっとの刺激で立ち上がった箇所を舌先でつついてやる。

「っふ、う、ウん、イ…ヤだゾロ、ちょっと、あ!」

 ちゅっと軽く吸い上げただけで上体が跳ね上がるのが愉しくて、俺はサンジの制止も聞かず夢中になってそこを責めた。
 気がつけば薄桃色だったそこはぽってりと赤く腫れて、俺の唾液でてらてらと光っている。

「やらしーなお前」
「ばっ、バカなこと言ってんじゃ、あ、やっ」
「嫌とか言うな。もっとやらしーとこ見せろ」
「ふうあっ」

 剥きだしのまんまで放置してたチンコを軽くひと撫で。
他愛無い愛撫にかなり感じたらしいサンジは、両腕でしっかり俺の背中にしがみ付いてきた。

「おい、触らせろって」

 俺の肩口に小さな頭を擦り付けていやいやをする。
幾らなんでも幼すぎる仕草に、そういえばコイツは小学四年でお化けになっちまって、それからは一年に二ヶ月しか精神的に成長してねぇんじゃないかってのに、俺は今更ながらに思い当たった。
 だとすれば逆算しても、サンジの精神年齢はギリギリ中学一年生といったところ。
 しかしまあ、ここまで来て止めるワケにも行かねぇし、サンジだってそのつもりで来たって言うし、っつか止められるワケがなかった。
 脳内に閃いた『淫行』の二文字には眼を瞑ることにして、俺はカラダだけはいっちょ前にオトナなサンジの股間を本格的に弄り始める。
 すっかり動かしにくくなった腕を無理やり俺らの間に入れ込んで、指先で作った輪っかに熱を持ったソレをくぐらせた。
 最初はやんわり上下に扱き、先端から粘っこい汁が溢れだしたら、それをすくって塗り伸ばしながら勃起しまくったチンコをぐちゃぐちゃに汚してやる。

「ア、 アア、ふ、んん、ア」

 手淫が激しくなるにつれ、サンジは快楽に合わせて少しずつ腰を揺らすようになった。
しどけなくほどかれた口元から零れる喘ぎ声に耳を焼かれそうになりながら、俺はどんどん サンジを追い上げ、追い詰める。

「や、出る…っく、う、んんっ!」

 俺の首を締め上げるかと思うくらい力の入っていた腕が、いきなり離れてぱたりとベッドに落ちた。
 同時に俺の手のひらに飛び散る、熱い飛沫。
はぁはぁ荒く息を吐くサンジに、

「お前もしかして、コレが初射精じゃねぇだろうな?」
「っなわけねェだろ…!てめェが触ってるから余計気持ちイイってだけだ!」

意地悪く尋ねた質問に真っ赤な顔で答えを返してくる。
 微妙に俺を嬉しがらせてんのに気づいてはいるんだろうか?
いやはや素直になったもんだ。

「この次は口でしてやっから期待しとけ」

 ニヤっと嗤う俺に、呆気なくイカされた側のサンジは少々バツが悪かったのか、小さい声で何やらぼそぼそと呟いた。

「―――あ?」
「俺も、てめェの、してやる」

 むくりと起き上がったサンジから俺の股間に伸ばされた手を、触れる直前で俺は遮った。

「…なんだよ、俺のは触ったくせに、触られんのは嫌だってのか!」

 むっと膨れたツラはとんでもなく蟲惑的でふらりと流されかけたが、どうせなら指よりもっと、違う場所のお世話になりたかったのでそう告げると、サンジの赤く染まった顔が、みるみるうちに青褪めた。
 俺の顔と股間を交互にちらちらと眺めながら、いきなりうぎゃあと慌て始めるさまはいっそ見事と言うしかねぇ。
 逃走の気配を見せ始めたサンジの両肩をがっしり掴んで、ちゅっと額に口付けるが、サンジの動揺はなかなか収まりそうにもなく、

「イヤ、今度こそ俺マジで彼岸見ちまうから!」
「ちゃんと解してやるし。安心してマグロになってろ」
「待て、待てって、てめェ確か、ホモは『扱きあい』で済ますやつもいるって言った!あと俺あいてだったら『突っ込まねェでもイイ』って言った!」
「そらお前がお化けだった時の話だろ。んなもん時効だ」
「てめェ男が約束破ってイイと思ってんのか!扱いてヤッから落ち着けって、わあ!」
「落ち着くのはお前だアホ」

耳に痛い苦情をなんとか受け流しながら、俺はころんとサンジの体をベッドの上にひっくり返した。
 優しいセックスはひとまず先送り決定ってことにして、すかさずマウントポジションを取り、じたばたもがく獲物の項にがぶりと噛み付いてやる。

「ふあッ」

 いっぺんイカされてまだ体内に燻ってるだろう快楽の余韻はサンジを黙らせるのに都合が良かった。
 なだらかな背中を、背骨に沿って舌を滑らせていく。

「んん、く、くすぐったい、から、」
「嘘つけ」

 俺の舌が感じる部分に触れるたびにびくびくっと震える体が、どうしようもなく愛しかった。
 何年も、それこそ夢にまでみたサンジを抱いている。
想像していたよりもずっとナマイキで可愛らしく、ほんの少し色気の足りねぇホンモノ。
 生きて動いて、触れることの出来るサンジはしかし。
行き過ぎた経験に明らかに流されているだけだった。

「…本気でイヤだってんなら、今日は勘弁してやってもいい」
「―――ゾロ?」
「でも先じゃ絶対やんぞ。あとケツの穴くらいは開発させろ。じゃねぇと収まりがつかねぇから」

 唐突に愛撫をやめて憮然と言い放った俺を、サンジが恐る恐る首を回して振り返った。

「やんねぇでいいのか?」
「おう。…惚れてる相手を強姦したって、俺もお前も気持ち良くなれる筈がねぇ。その気になるまで待つ」

 限界も極まれりってとこだったが、痩せ我慢もイイところな台詞だったが、いっそ問答無用で犯してぇとも思ったが。
 サンジは俺がずっと大事にしてきたお化けなのだ。

「だってでも、てめェのそれ」
「あー、今日はいいもんたっぷり見れたから。お前が帰ったらちゃんと抜く」

 眼を泳がせながらそう答えたら、イキナリ脳天にガコンと踵が落ちてきた。

「…何しやがるグル眉!」
「こっちの台詞だボケ!」

 大事なところを隠しもせずに高々と足を振り上げたサンジは、わなわなと体を震わせながら、

「前々から思ってたがてめェにゃデリカシーってモンがねェ!」
「…あ?」
「チンコに毛も生えてねェ頃からの付き合いだってのに、ある日突然『好きだ』とかいいやがるし!」
「………」
「オスの本能丸出しで、やらしいことばっか言うし、あとホントにやるし、幾ら俺がてめェに惚れててもなァ、おんなじ男にあっさり掘らせてやれるほど寛大にゃあなれねェってんだよちったぁ気を遣え!」
「おい、そりゃあ」

つまり最後までやっちまってもいいってことか、と滑らせかけた口を俺は自分の手で塞ぐ。
 気を遣うことにかけてはエキスパートなサンジからの説教は、なかなかに思い当たることがあり、

「…嫌よ嫌よも、ってのがこの国の基本だろ」

 なるほど帰国子女らしい誤った見解だと納得していたら、血の気の多い元お化けがぎゅうっと抱きついてきた。

「俺だって、ちゃんと」

 それ以上言わせたらまた怒鳴られるのは判っている。
言葉を続けかけた唇をぺろっと舐めたら、サンジはようやく機嫌を直してくれた。





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 (初出2005.03.06/WEB2010.03.14)

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