HERO 3 |
3 スルときいつも、サンジは受け身だ。 突っ込む方突っ込まれてる方とかって意味じゃなくて、『すべてお任せ』という意味合いのそれを、ここ最近のサンジは(対等な恋人同士としてどーなんだ)と思い始めていた。 二人が雪崩れ込むのには既に決まったルートみたいなのが出来ていて、サンジの作った料理を食べ終えたゾロが「ごちそうさま」っぽいコトを言ったらスタート。 今日も美味かったとかサラっと口に出しながら、ゾロは満足そうにニイッと笑ってみせる。 微笑みと呼ぶにはちょっとばかり凶悪だが、食いっぷりと同じくらい男臭いゾロの笑い方にサンジはかなり弱い。 見惚れていたらそのうちずいっとゾロが身を乗り出してきて、至近距離まで顔を近づけてくるから慌てて瞼を閉じる。 触れ合わせるだけのキスは何度か繰り返すうちにどんどん激しくなり、息が苦しくなる頃にはちゃっかりベッドに押し倒されていて。 あちこち弄られ始めたらもう終わりだ。 魔法みたいにサンジを気持ちよくさせるゾロの指が肌を辿るだけで、背筋がゾクリとして、あっという間に飛んでしまう。 マッサージのときとはまるで違うやらしい意図を篭めた動きに翻弄されて、気づけば髪の毛を振り乱して必死でしがみついているだけ――― なんてのは、同い年の男の反応としては非常に情けないと思うのに。 特に居た堪れないのは規格外なゾロのアレをサンジの狭い場所に挿入するための準備だ。 「ヨくなってねぇと力が入ってきついから」 そんな理由で前を扱かれながら後ろを開かれるのは、円滑な性交を行うための手順としては正しいのかも知れないが、毎度毎度ながーい時間をかけて『してもらう』のは、申し訳ないの一言に尽きる。 だってでっかくなってからガマンするってのは、かなりキツイもんなのだ。 そーいう用途に使うには問題ありすぎな部分を、自分は準備万端な状態をキープしつつ、サンジが蕩けるまで丁寧に解してくれるゾロには感動すら覚える。 やべー愛されちゃってるよ俺、とか思う。 (でもせめて、今日くれェは) 余計な手間をかけさせず、まるごとパクリと食べさせてやりたい。 そーいうわけでサンジは、頭のてっぺんから足のつま先まで、オモテに出てる部分全てを念入りに磨き上げた。 何しろ今夜のメインディッシュは自分なのだ。プレゼントにリボンをかけるが如く、最高の状態を演出しなければいつもと同じ。 (つっても包装紙は逆にイラネーって話なんだけどよ) 思い付きが気に入って、盛大につけすぎたボディソープの泡にまみれながらサンジはハハハと笑った。 それからキッ、と顔を引き締める。 (問題はこっちだ) 外側はOK、残るは内側のみ。 緊張から勝手に口の中に溜まってしまった唾をごくっと飲み込んで、こころもち身体を前傾させた。 よろけかけた身を支えるため、壁のタイルに片手をついた不自由な体勢のまま臀部へと右手を伸ばす。 「わッ…!」 谷間の中心へ後ろ手に触れた瞬間、そこが吸い付くように小さく蠢いたような気がして、サンジは思わず飛び上がった。 (な、なんだ今の) 指先で触れたことによって起きた反射的な収縮は、確かに己の一部であるのにまるで自分の身体じゃないような不思議な感覚を齎す。 自分をびっくりさせないように、サンジはもう一度、今度はゆっくりそこへ人差し指を宛がった。 「うあ」 襞を集めて窄まった部分は気のせいじゃなくひくひく震えている。 (オイオイちょっとこりゃやべーだろ…) 何というか、いやらしい。 サンジの後ろは誘い込むような動きを勝手に繰り返していて、コレをいつもゾロに見られてるのかと思ったら、くわーっと頭に血が昇った。 しかしここで引くわけには行かないのだ。 恋人の傑物をスムーズに受け入れるためには欠かせない作業をカンペキに終わらせて、「ハイどーぞ」と饗してこそのプレゼントなのだから。 ぶんぶんっと頭を振ってサンジは萎えかけた気持ちを切り替える。 ふーっと深呼吸して開いた瞳に、眼前のバスミラーが入った。 湯気で曇った鏡にはほんのり頬を染めた自分が映っていて、サンジはむむ、と唇を引き結ぶ。 もっとすごいことをバンバンやっちゃってるのに、どーしてこう自分はガキ臭いんだろう。 (いや、今日の俺は一味違うぜ) うし、と小さく気合を入れて、シャワーコックを捻った。 中途半端だから気恥ずかしいのだ。誰が見咎めるわけでもないのだからどうせならもっと大胆に。 熱めの湯で床を濡らしたのはいつの間にやら冷えた室内を暖めるため、止めずにそのままバスの中へと放水させるのは消音効果を狙ってのことだ。うっかり感じてしまって声でも上げたら堪ったもんじゃない。 四足の動物よろしくその場に這い蹲って豪快に足を開いたサンジはある意味、開き直ったようにも見えたが、 「う、うう」 しかし意を決して潜り込ませた爪は、半分も進まないうちに止まった。 思った以上に狭くてきつい。その上めちゃくちゃ気色悪い。 こんなバカな、と半ば混乱しながら思う。 だってゾロが触るときは爪の先どころか長い指の根元まで一気にぐいっと。 (あ、す、滑りが悪ィから…?) 遅まきながらではあったが、準備に万全を期していなかったことが悔やまれる。 急にゾロが来たから、ベッドサイドに常備してるアレを持ち込むことも出来なかったのだ。恋人がどこかから調達してくる、専用潤滑剤のチューブ。 ゾロの待つリビングに取りに戻るわけにもいかず、サンジは横目で替わりになりそうなものを物色した。 何かぬるぬるするものがないと無理だ。 バスルームにあるのはシャンプーにコンデイショナー、ボディソープ、シェービングフォーム、バス用洗剤、カビ取り剤… (いや死ぬってそれ) 確かに怖いくらいヌルっとするがアレは皮膚が溶けてるせいなのだと誰かに聞いた覚えがある。無論のこと使えるワケがない。 かといって他のもので代用できるかどうかというと、どれもこれも体内に取り込んでいいカンジがしないのだ。 中に5ミリだけ含ませた片手が攣りそうになってサンジは焦った。 どうしていいか解らない、こういうとき決まって思い出すのは、事故のときに貰ったあの言葉。 「―――だいじょうぶ、だ」 目下の敵はたかが指である。それも自分の。 指先の何倍もの質量を誇るゾロを受け入れた回数は、既に両手両足合わせても足りやしないし、ソコを深く考えるとたまに死にたくなるのだが排泄の欲求に従って本来出してるものだって当然。 「だいじょ、クソ、…っく、んんん!」 サンジは押し留めようとする肉の圧力に逆らって、第二関節までを一気に捻じ込んだ。 「ぐ、ぎ…ッ」 色気のかけらもない苦鳴が唇から零れる。 入れられた部分は無理矢理こじ開けられた痛みをサンジに与え、入れた部分は得も言われぬ手応えを与えてきた。 初めて自ら触れたそこは、招き入れた異物をきつく締め付け、押しつぶそうとでもするように熱く絡み付いてくる。 ゾロはいつもここで、今自分が感じているのと同じ感触を味わっているのだ。 想像だけで瞼の裏がちかちかした。 激しい運動をしているわけでもないのに勝手に息が上がってくる。 「うー、う、ううう、」 どうしようもなく恥ずかしい。 まさかこんなに淫らな器官が自分についているとは思わなかったサンジは、ショックで泣いてしまいそうだった。ていうかちょっと涙が出た。 普段ゾロが施してくれる行為から考えたら、最低でもあと二本は増やさなければいけないのに、けれどサンジは指一本を挿入しただけでガチガチに固まってしまい、解すどころの騒ぎじゃない。 (嘘だろ、こんな狭くて、なんであんなでけェのが) にっちもさっちもいかなくなったサンジは、指を突っ込んだまま身動きすら取れずに困り果てた。 いつだって容易くサンジを蕩けさせる彼の手順をなぞろうにも、頭がまるきり働かない。 冷え切った肌をつーっと伝うものは、きっと脂汗。 (だ、ダメだこれ以上は無理…ッ!) 前置きもなく浴室のドアが開いたのは、まさにそう思った時だ。 一番見られたくない相手に見られたくないところを見られた。 羞恥から風呂場でのたうちまわったサンジはそれから改めて風呂に入りなおし、のぼせて気絶する寸前まで湯船の中で辛抱した。 ことさらゆっくりドライヤーをかけ、あとは食わせるだけになったテーブルの料理を確認したり、意味もなく冷蔵庫を開けたり閉じたりを繰り返して精一杯の時間稼ぎをし―――やがて覚悟を決めて、缶ビールを二本掴んでリビングへと向かう。 バスルームでの醜態を、ゾロはどう受け止めただろうか。 なんとか上手く誤魔化さなければ、と思いつつそーっと開けた襖の向こうのテレビでは、今季限りで引退した野球選手の笑い声が響いている。 こちらに背中を向ける格好で座ったゾロの視線はそっちに集中しているようで、サンジは状況も忘れてどきりとした。 14インチの小さな画面の中、アップになってるのは名前は覚えていないけれど確か、高校野球で活躍して有名球団のドラフト一位を獲得した選手だ。 プロになってからも華々しい活躍で、何年か前に某局のアナウンサーと入籍した。 お嫁さんになったのは笑うと右側の頬にえくぼの出る、ちょっとカン高い声のかわいい女の子だったと思う。 引退理由は現役を二十年続けて流石に体力の衰えを感じたとかで、こうしてテレビに出ているところを見ると、解説者にでも転身したか。 日の当たるところだけを歩んできた順風満帆な人生は、本来ならゾロが辿ってもおかしくなかった道筋だろう。 胸の奥がぎゅうっと絞られるような心地がした。 「上がったか」 「…うん」 サンジのほうを振り向きもせず、ぼそっとゾロが呟く。 低く素っ気無い言葉が、どこか頼りない響きを帯びているのは気のせいだろうか。 サンジは静かにゾロに近づき、出来るだけ何気なさを装いながら隣にぺたんと腰を落とした。 缶ビールを差し出して、まっすぐ正面だけしか見ていない彼の視線を自分に向けようとする。 「腹、減ってねェ?」 小さく首を横に振ってビールを受け取ったゾロは心ここに在らずといった風情で、サンジは場の空気を変えようと幾分慌てて言葉を紡いだ。 「き、気にすんなって、うん」 「………」 しかし動揺しすぎたか、口から出たのは豪速球のド真ん中ストレート。 アホか俺はーッ!?と思ったが後の祭りである。 気まずすぎる沈黙を返されてアワアワと目を泳がせるサンジを、くるりと向き直ったゾロがじっと見据えた。 「気にしねぇでいられるホド俺ァ出来た人間じゃねぇ」 「…ッ」 吐き捨てるような台詞にぐっと詰まる。 過去のことは忘れたと朗らかにサンジに接してきていた彼だけれど、本当なら鬱屈が溜まっていてもおかしくはないのだ。 その原因が傍にいるとなれば、なおさら。 何か言わねば、と思うのに唇は震えるばかりで音を発せそうにない。 プルトップにかけた指を上げることすら出来ず、サンジはとうとうかくんと項垂れてしまう。 そんなサンジの耳に、ふっとゾロが自嘲的に笑う声が入った。 「―――俺ぁどうも、自惚れてたらしい」 「…ゾロ」 「頑張ってきたつもりっつーのもおこがましいが、お前はいつだって気持ち良さそーにあんあん喘ぎまくってっし、むしろ二回目だとキツそーだし、どっちかっつーと俺のほうがもうちっと張り切らせて欲しかったくれェで、少なくともじゅーぶん以上に満足はさせてやれてると思ってたからな」 「あ?」 「まさかお前が」 「ちっと待て」 滔々と語られる内容がどうも想像と違う方向に進んでいて、サンジはがばりと顔を上げる。 「俺らの間に意思の疎通が見られねェ気がするのは気のせいか?」 「?」 「おいゾロ、聞きたかねェがてめェは何の話をしてやがんだ」 「お前が風呂でケツ穴オナニーしてた件についてだろ?」 「オ」 「物足りねェなら言ってくれれば」 「俺ァいつだってイッパイイッパイで死にそうだってんだよそんなワケあるかボケーッ!」 ゾロがつけっ放しのテレビなぞ気にも留めずひたすら先ほどのシーンを反芻していたと解った瞬間、サンジの中で何かがぷっつんと切れた。 傷心していると思い込んだ誤解が解けた安心から来た反動だったかもしれない。 (あーもう、なんだよこいつ!) いきなりキレた恋人にきょとんと目を瞠ったゾロを、サンジはイキオイでその場に押し倒した。 |
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(2005/11/29) |
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