HERO 6 |
6 ヤバイことになった、とサンジは焦った。 ちょっぴり勿体は付けたものの、ベッドインまではいわゆる『想定の範囲内』ではあったのだが、まさかこんな辱めを受けるとは思いも寄らなかったのだから当然である。 「段々、動かしやすくなってきてるだろ」 「………」 「そろそろ二本目イケるんじゃねェか?」 「!」 片手で顔を覆ったまま、ぶんぶんと首を横に振る。もう片方は依然として己の後ろに入り込んだままだ。 くっ、と喉の奥で笑いを押し殺したらしき音が頭上から聞こえてくるのがめちゃくちゃ腹立たしいが、こんな間抜けな格好では怒鳴りつけることも出来なくて、サンジはぎりりと歯を食いしばった。 (クソったれ…!) 全身で嫌がってるのにゾロはちっとも悪戯をやめようとはせず、どころかエスカレートさせる気満々で宙に浮いたサンジの中指へと潤滑剤を塗り足している。 (俺ァなんで、こんなエロ親父を) サンジにとって憧れの人、唯一無二のヒーローだったゾロの、かつて抱いていたヤサシクてサワヤカな柔道青年のイメージを根底から覆すトンデモな暴挙。 けれどサンジには抵抗する術がない。 何故ならば。 (―――こんなエロ親父を、カッコイイとか思っちまうんだ…!) セックスするときのゾロはいつだって、余裕っぽい口調を保ちつつもケダモノみたいに強い視線を向けてくる。 生真面目そうな整体師だったり、かと思えばだらけた居眠り男だったりするゾロの、普段は表に出てこない『本気』にサンジはとても弱い。 長いあいだブラウン管を通してしか見たことのなかった、サンジを一目で惹き寄せた強い強い意志を秘めた榛色の瞳が浮かべているのは、世間一般で恐らくは『色欲』だとか『独占欲』だとか、余りよろしくない呼称で呼ばれるものだ。 なのにそれが自分に注がれていると思うだけで、心臓がばくばくする。 射竦められて身動きひとつ取れなくなったカラダが、内側から勝手に熱くなってしまうのだ。 初めて繋がったあの日がそうだったように。 お世辞にも大人しいとは言い難い性格を持つサンジが傲慢な恋人を押しのけることもせず自らの瞼を覆うのは、浅ましい自分の姿を見せたくないからだ。 僅かでも目が合えば、ホントはゾロにだったら何をされても嫌じゃないことがバレてしまう。 ぐにぐにとナカで蠢く異物。粘ついた薬液の力を借りて、サンジの指は驚くほど容易く侵入を果たしてしまった。一人のときは逡巡するばかりでちっとも先に進めなかったというのに、だ。 混乱した頭はサンジに今日の目標を忘れさせ、ただ現状からの逃避を望んでいた。いっそ押し出してしまいたいのに、サンジの手をしっかり押さえたゾロがそれを許さない。 根元までしっかり潜り込んだそれは、ほんの小一時間ばかり前は痛みと違和感しかサンジに与えなかったものと同じ、自分の指だ。 同じはずなのに今は、ゾロの言うとおり少しずつかたくなな場所をほどき始めているのが不可解でしょうがない。 何度も肌を合わせ、けれどいつだってゾロにお任せだった行為。 誕生日だから今夜は自分で準備してやると息巻いてはいたものの、こんな形でそれが実現するとは思いも寄らなかった。 ぎゅっと硬く目を閉じて、大きく開かれた膝が震えだすのを必死で堪えるサンジに出来ることはただ、早くこの遣り切れない時間が過ぎるのを祈るだけだ。 (早く終わってく、れ―――?) ふわりと風が動いて、ちょんっと唇にやわらかな感触。 (…?…) おそるおそる薄目を開けて指の隙間からこっそり外界を覗くと、驚くほど近く、真ッ正面にすぐゾロの顔があって、サンジはぎょっと青い瞳をしばたたかせた。 ゾロは「ふむ」とまじまじサンジを凝視しつつ、 「さっきは頼んでもねーのにてめェでチャレンジしてやがった癖して、今更ビビってんのか?」 なんて面白がってるような調子で言ってくる。 ヒトがどんな気持ちで、と怒りのままに振り上げた腕は逆に奪い取られ、噛み付こうとした唇をそのまま塞がれた。 「ンむっ」 本日三度目のキスはけれど触れるだけのもので、てっきり誤魔化されて流される、と思っていたサンジをきょとん、とさせる。 あれ?と不審げな表情を浮かべた鼻先にもう一つキスを落としてから、ゾロはゆっくり恋人の内側へ人差し指を侵入させた。 「うあ、あ」 自分のものより僅かばかり太い指が後孔にくちゅりと吸い込まれ、けれどたっぷり濡らされたそこは軋むこともなく、招き入れるように妖しく蠢いてサンジはより居た堪れない気持ちになってしまう。 そろそろ二本目もいけるどころか、待ちかねていたように柔軟に受け入れてしまう淫蕩な身体を、自らの指で実感して――― (ゾロはいつも、こんな) とっくに全部知られているのだと悟った。 「エロまりも!」と悪態ついて、「いい加減にしろ」と嫌がるフリをして、そのくせいつだって悦んでいるようなズルイ人間だと、ゾロはちゃんと解っている。 (クソッ…) 湧き上がる感情は先ほどまでとは異なる意味合いを持つ羞恥だ。 だってサンジを呆気ないほど簡単に篭絡してしまう男は、全て知った上でなお愛しげに見つめてくる。 寧ろもっと曝け出していいのだと言わんばかりに、慎重にサンジの反応を窺っている。 「大丈夫だ」 酷ェコトしたいワケじゃねェし、と決まり悪く続いた言葉は、逃げ腰なサンジを懐柔するための方便だったかも知れないけれど、意図はともかく呪文の効果は覿面だ。 たった一言で全身にみなぎっていた緊張がさらりと解け、代わりにじわりと甘い疼きがサンジを満たして行く。 「ちゃんと教えてやっから」 「…教え、る、って、」 「背中からじゃ届かねェ。…自分でやるときゃこんな風に、前からやんだ」 「うあ、やっ」 サンジの指に添えられたゾロの長いそれが、ぐるりと締め付けてくる狭い内側を一周した。 ぴたりと合わさった指で軽い抜き差しを繰り返し、やがて導かれるまま辿り着いた場所は、いつもなら決して指では触れてくれない、サンジをどろどろに蕩けさせてしまう位置で、 「―――解るか?ココ」 「んんっ!」 僅かばかり折り曲げられた指先がそこへ触れた途端、腰が跳ね上がった。 ほんのちょっと掠めただけなのに余韻を引きずる間もなく心拍がガンガン上がっていく。 きいんと神経が研ぎ澄まされて、どっどっどっと心臓から血液を送り出す音が頭に響くような気さえした。 「な…んだ今の…」 思わず漏らした感慨にゾロはくすりと、どこか困ったような顔で笑い、 「クセになってくれんなよ?俺ぁどーせなら、てめェのもんで鳴かせてェんだホントは」 「ふあ、あっ」 覆うように握りこんだサンジの手にぎゅっと力を篭めて、もう一度おなじ場所へと誘う。 それこそマッサージでもしているように優しくゆっくり、何度も何度もそこを狙われてサンジは気が狂いそうになった。 押し広げられた後孔からナカに入ってすぐ上のほうにある、手首に浮いた動脈みたいな感触のしこった部分。 放り出されたままの性器に繋がっているのだと気づく頃には、屹立しきった自身が痛いくらいに張り詰めていた。 「ふ、う、うン、う」 息を継ぐたびに口から漏れる呼吸音はいつの間にか喘ぎ声に摩り替わっていて、それは同時に結ばれるための準備が自慰へと摩り替わっていることを表している。 ゾロが指の数を増やすに最早なんの障害もなく、柔らかくほころんだ秘所は貪欲に深くそれを飲み込んだ。 熱を孕んだ下半身から断続的にもたらされる快感に立てた膝の裏は汗でじっとりと濡れはじめ、先端もとろとろと蜜を零して、けれど。 「…っの、クソゾロ、あ、ばか、もうやめろッ…」 「アァ?触ってンなぁお前だぞ」 気持ちいいだろ、と言葉を証明するかの如くゾロは些か乱暴に、吸い付く体内をぐちゃぐちゃ掻き回した。 小さく悲鳴を上げて仰け反ってしまう上体は限界にほど近く、既にどんな動きも快楽に直結している自分を厭いながら、サンジはそれでも必死で「だからイヤなんだ」と声を出し、 「てめェのじゃなきゃ、ぜんぜんっ…」 人形扱いで操作を続けるゾロの手を振り払って後ろから指を抜いたそのままに、ぎゅうと太い首にしがみついてやる。 「全然、全然よくなんねェよッ…!」 目の前に来た耳朶に噛り付くようにして訴えるのに合わせ、ちゅぽんと小さく音を立て悪さばかりする指が引き抜かれた。 (…あ、) ようやく圧迫感が消えてふっと力を抜いたサンジだが、一息ついたと思ったらすぐ同じ場所に今度は指じゃないものを押し当てられる。 素直なカラダは待ちかねたものの訪れをちゃんと解っていて、ゾロがぐいと腰を進めてもさしたる抵抗もせずに受け入れた。 「ア、っは、アアッ」 長大なソレは隙間なく、ゆっくりサンジを埋めてくれる。やがて全てを収めきったところでゾロははーっと長く息を吐き、慄くサンジの上で「しまった」と毒づいた。 「…?…」 「お前に挿れさせようと思ってたんだった」 「…アホったれ…」 心底呆れた声で返したサンジはそれでも安心したように潤んだ瞳を閉じ、それを合図にゾロは白い足を抱え上げ、恋人の望むとおりに抽挿を開始する。 初めての共同作業でぐずぐずになった部分は歓喜をもってそれを享けいれ、馴染んだ熱塊は強制的な自慰なんかじゃ感じられない強さでそこを責めて、欲張りなサンジを満足させた。 可愛さ余っての意地悪を忘れるくらい煽られて、とっくにギリギリだったゾロにもそれは当然のこと。 始まったばかりの誕生日。 それからは二人して、無我夢中で甘ったるく混じり合った。 |
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(2006.03.03) |
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