骨まで愛して 4





 何かを言いかける口を己のそれで塞ぐ。
もう一秒たりとも待てないところまでゾロは追い詰められていた。
 指で触れただけで甘い吐息を漏らしたふしだらな体…早くこの、いやらしい男を全身で味わいたい。
上下の唇の隙間から舌を潜り込ませれば、押し返そうとでもするように湿った肉がそこに触れてくる。
 粘膜の柔らかく弾力のある舌ざわりに、どんどん体が熱くなっていくのが解った。
もう止まれない―――止まるつもりもないが。

「ン、んむ、」

 急いてきつく抱きしめすぎたのが苦しいらしく、サンジは両手の拳をゾロの肩にばんばんと当てて抗いはじめた。
 ゾロにイニシアティブを取られたのが悔しいのだろうが、たとえ相手が百戦錬磨の淫乱だとは言え、易々と主導権を渡すわけには行かぬ。
 いつもはどうだか知らないが、

(俺ぁ俺のやり方でやらせてもらう)

 抵抗をさしたるものともせず、深く口付けたまま片手片足を使って、じたばたもがく青年をがっちりと押さえ込んだ。
 現役は退いたが元は国を代表する柔道家、そんじょそこらの素人が寝技で太刀打ちできるものではなく、そうして身動きの取れぬ状態に追いやってからゾロは手探りで青年の股間をまさぐり始めた。
 中途で止まっていたサンジのジッパーを限界まで引き下げ、下着ごと膝上あたりまでずらすと、外気に触れた太股がびくりと硬直するのが解る。
 ゾロは宥めるようにそこに手のひらを這わせ、滑らかな肌が指の動きに合わせてざわっと粟立つのにニヤリとほくそえんだ。
 目を開けたまま至近距離から見るサンジの眉は苦しげに歪められ、白い頬は薄いピンクに染まってなんとも色っぽい。
 歯の裏側まで散々に犯した口腔を解放してやると、固く閉じられていた瞼がゆるゆると上がった。
 戸惑いと躊躇いとかすかに恐怖を滲ませた蒼眼に、そういうプレイが趣味なのか?とゾロは少々呆れて肩を竦める。
―――それとも戯れな誘惑に興味本位で乗ってくる無骨な整体師どもばかりを相手に、先導して奉仕させるだけのセックスしかしてこなかったのかもしれない。
 同性をおもちゃにするのだからたいした女王様だ。
 すっかり強張ってしまった筋肉の上、剥き出しにした性器にはわざと触れないようにゾロは丁寧に太腿から脇腹へと撫で上げて、

「どうかなさいましたか?随分と緊張されているようですが」
「っあ」
耳にかかる金糸を鼻先で掻き分け耳朶に噛り付くように囁くと、過敏すぎるきらいのあるサンジは首を縮めて顔を背ける。

「折角ほぐしてやったのに…最初からやり直しだぜ」
「な…んでアンタ、いきなり、こんな」
「あぁ?ヒトが辛抱してやってたのを、煽りまくったのはてめェだろ」
「痛…ぅ!」

 ゾロは這わせていた大きな手の平を胸へと滑らせ、慎ましく尖った部分を指先できつく抓った。
そこから走った痛みにうっとサンジは息を詰め、ついで優しく労わるようにやんわりと擦られて小さく頭を振る。
 いちいち顕著に表れる反応はゾロの目をかなり楽しませた。
これなら目だけではなく、きっと体も大層愉しめるだろう。
「―――どうされても文句は言わせねぇ」







 耳朶から首筋、きれいに窪んだ鎖骨、弄られてふくりと立ち上がった乳首。
サンジのひとつひとつを確認するように口付けていく。
 そのたびごとに低く青年は呻き、身を捩じらせて逃げようとする素振りを見せるのに決してゾロを払いのけようとはしなかった。
 体重を掛けての戒めをほどいても暴れだすこともせず、ただ身を固くする姿はまるで殉教者のようだとゾロは思った。それとも生贄か。
 舌先を尖らせてこりこりとしこった部分をしつこく舐め上げていると、髪の毛より少し茶色がかった柔らかめの繁みの間で少しずつ、うなだれていた性器が存在を主張しはじめる。
 気付いたのは同時だったのか、ゾロがサンジの顔に首を向けると、彼は恥ずかしさに泣き出しそうな表情で自らのそこを見つめていた。
 ゾロと目が合った途端にふい、と視線を逸らす。
快感を得たのが屈辱だとでも言うように、色がなくなるほど唇をかみ締めているのがゾロの気に障った。
 自分からの愛撫がそんなに嫌なら抵抗してみればいい。
据え膳よろしく体を投げ出しておいての消極的な態度がゾロの嗜虐心を呼び覚ます。
 ゾロはがばりと身を起こし、「淫乱」と小さく毒づいて、乱暴にサンジのペニスを握りこんだ。

「うあ!―――ダメだ、やっ」
「嫌だ?こんなにしといて良く言える」
「や、ああっ!」

   他人のものを触るのは初めてだが、どうすればいいのかは自分の体でよく知っている。
力を抜いて添えるだけにした指を小刻みに動かしてやれば、形を変え始めたばかりだった部分はどんどんと張り詰め、先端に透明な雫をじわりと浮かび上がらせた。
 指先で触れるとつーっと糸を引いて伸びるそれは、女が濡れたときよりも遥かにゾロをゾクゾクさせる。
 膨張にあわせるように扱くスピードを速めれば、ぬるついた蜜は切なげな喘ぎ声とともに幾らでも溢れ、ゾロの右手をしとどに濡らした。
 両手で顔を覆って恥らうこの男を、無理やり自分の手で射精させたらどんなに爽快だろう。
既にサンジのものよりずっと成長した自身は、ゾロの下穿きの中で開放を求めてもがいて痛いくらいだ。
 男にこれだけ欲情するのも可笑しな話だと自嘲しながら、サンジに刺激を与えながら反対の手で己の前を寛げた。
 大人一人がようやく乗れる診療台は狭くて動きづらい。
ゾロはそこを跨ぐように腰を据えて必要な部分だけを取り出すと、青年の両足にだらしなく絡んだままだったジーンズと下着をぞんざいに取り去った。
 サンジのペニスに絡めていた指を離し、逞しい上体を屈めて細い手首をそれぞれ掴んで引き剥がし顔を寄せる。
 股間同士をぴたりと密着させ、

「ムカつく話だがてめェを見てるだけで、こんなだ」
「…なっ…ウソ、だろ…」
「嘘だと思うか?」

 腰を揺らしてガチガチになったペニスをサンジのそれに擦り付けると、ただでさえ色づいたサンジの頬がかーっと血を昇らせてより一層赤くなった。
 くるんと渦を巻いた眉を情けなく下げているのが可愛らしく、ゾロはじっとサンジの顔を見つめながら腰を揺らし続ける。

「…んん、ア、あっ」

 先走りでべとべとになったそれとの摩擦はゾロにもそれなりの快楽を与えたが、先に指で限界近くまで追い上げられていたサンジにはより強烈な刺激なのだろう。
 カリ際の中心、縫い目の集まった辺りを狙うように掠めるゾロの砲身に、とうとう自らも腰を浮かせて応え始めた。
 喘ぎすぎて閉じられなくなった口の端から零れた唾液を、ゾロはべろりと舌を出して舐め取ってやる。
そのまま唇を合わせれば、先ほどとは打って変わった態度で、ねだるように舌を絡めてきた。

「ん、んん、」

 鼻から漏らす吐息は切れ切れで甘く、もっと激しい口付けをせがむようだ。
夢中になって恋人同士のようなキスに溺れていたら、ゾロの下でもどかしげに悶えるサンジが限界を迎えてがくがくとその身を震わせた。
 耐え切れぬ、と唇を離してぐっと白い喉を仰け反らせる。

「っは、あゥ、―――ああああっ!」

 重なり合って汗ばんだ肌に熱い飛沫が迸り、果ててくたりと弛緩したサンジをゾロは満足げに見下ろした。

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 (2004/09/06)

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