骨まで愛して 5





 射精の余韻を持て余しているのか、ゾロが身を起こしてもサンジは脱力したままその場を動こうとはせず、目のふちを赤くしてぼんやりと天井を見上げたままだ。
 ゾロは診療台から降りるとがさごそと医療用具の詰まったワゴンを漁った。
ほどなく1本の白いチューブを手にして戻る。

「病院ってなぁ便利な場所だよな」
「…何…?」

 訝しげに眉をひそめたサンジの足元にゾロはどかりと腰を下ろし、いきなりその片膝を抱え上げた。

「!」

 露になった内股の奥を覗き込まれて、サンジが声にならない悲鳴を上げる。
反射的に振り上げた足をゾロはぱしりと片手で受け止め、

「今更ビビるな。…ちゃんとたっぷり濡らしてやっから。あぁやっぱ狭ぇな」
「見…るなっ」

 喉の奥から搾り出されたような声を無視してゾロはキャップを捻る。長い指先に半透明のクリームをひねり出し、そっとその中心へと指を伸ばした。
 小さな窄まりをつつかれてサンジの腰がびくんと跳ねる。
ぬちゃぬちゃと湿った音を立てながら、ゾロは丹念に表面麻酔剤を塗りこんだ。
 体温でぬくもった薬品は少しずつ頑なな場所を緩めていく。
柔らかく綻んできたところでくっと指先を埋めると、サンジは信じられないといった顔で、作業を続けるゾロを凝視した。

「あ、あ…?」
「痛くねぇだろ?ぐいぐい入るぜ」
「でも、気持ち…悪ィ」

 消え入るような声だが、一度達したからかサンジはとても素直だ。
ゾロはニヤリと笑いながら内側への侵入を続け、2本、3本と増やした指で図々しくサンジを探りながら、締め上げのきつい入り口を広げていった。

「…イイところはちゃんと俺ので擦ってやる」

 囁くようなゾロの言葉にはっとサンジが蒼眼を見開き、ゾロはよしよしと彼の頭を撫で、震える膝頭に口付けを落とす。
 人体構造なら知り尽くしていて当たり前の職業だ。実際に中から触れたことはなくとも、前立腺の位置くらい心得ている。

(コイツがこの病院をターゲットにしたのは、そういう理由からかもな)

 その道には素人でも整体をやる人間なら知識だけは豊富だし、専門の潤滑油にだって事欠かない。
 サンジがこれまで相手をしてきた整体師たちも、自分と同じように彼を抱いたのだと思うと何やら胸のうちがもやもやとしたが、

(―――俺も同じ穴の狢だ)

お門違いな嫉妬を抱きそうになる自分を戒め、ただ彼を開くことに集中する。
 やがてあたたかな内臓は卑猥に蠢いて絡みつくようになり、ゾロはごくりと唾を飲みながらゆっくりと指を引き抜いた。
 かわりにサンジの両足を開かせて、爆発しそうになった自分の男根を押し当てる。
指とは比べ物にならぬほど大きなそれに、思わず逃げをうつ体を引き寄せてがっちりと固めた。
 幾分青褪めたサンジの髪に手を差し入れて、乱れてしまったさらさらの金髪を優しく指で梳いてやる。

(…?…)

 不安そうに見つめてくるその表情をどこか懐かしく感じ、ゾロははて、と首を傾げた。
同時に湧き上がるのはかつて体験したことのない感情で、この期に及んでゾロをひどく慌てさせる。
 こんな、誰にでも足を開くような。
ゾロに抱かれた後もきっと、他の男を漁るような淫売を―――


愛しく思うなど、ありえない。







「…二度とココに来なくて済むように、内側から治してやるよ」
「え?―――っうわ、アッ!」
「っく…!」

 ぐいと強引に腰を押しすすめて、張り出した部分までを一気に押し込んだ。
指と薬で慣らしたとはいえさすがにきつく、穿つゾロも穿たれたサンジもぎゅっと表情を歪ませる。
 皮膚と皮膚とを馴染ませるように小さく腰を揺らしながら、ふう、とゾロは肩で息をつく。
指先で感じたのと同じ熱い肉感がゾロの雄を押し包むのが堪らなく心地好かった。
思った以上の快感に全て持っていかれそうだ。
 すぐにでも動きたくなるが、圧倒的な質量がサンジには余程辛いらしく、ぶるぶると痩身を震わせて目に涙を浮かべている。

「い、痛、」
「ガマンしろ、すぐだ」
「すぐってそんな、む、無理、―――ふあ!」

 そろそろと奥へ潜り始めた性器が内壁の一部分を掠め、その瞬間にサンジの口から間違えようのない嬌声が上がった。
 ゾロはその場所に狙いをつけ、深くえぐるような抽挿を開始する。
肉襞を掻き分けて長い棹を根元まで押し込め、カリが引っかかるギリギリのところまで引き抜くたびに、抱え上げた足がびくびくと痙攣した。

「ア、アア、はぁっ」
「てめェの大腿骨な、右が内側にズレてんだよ。だからこうして、」
「アアッ!」

 ぐっと突き上げると、電流を流されたかのように腰が跳ね上がった。

「…指が届かねぇトコ、全部、俺ので」
「あ、んん、あ、は、」
「―――ヨクしてやる…ッ」

 ぐちぐちと猥らな音を立てながら繰り返される行為に、蒼い瞳がぽろぽろと涙を零した。
やがては…きざし始めたその分身からも。

「嘘、…あ、うあ、ああ!」
「溜まんねぇだろ…オラ、もっと喘げ!」

 うねる内部をかき回すように腰を使っても、もうサンジの顔に痛痒の色は見られない。
細い両足を高く持ち上げて浮かせた尻に腰を打ち付けるのに合わせ、低く掠れた声でひっきりなしに鳴く。
 その声は施療の間に漏らしていたそれよりもずっと扇情的で、耳からゾロを挑発しまくった。
もうめちゃめちゃに突き上げることしか考えられない。
こんなにも引き込まれるセックスは初めてだった。

(…病み付きになるほど、凄ぇってか)

 サンジに出会うまでゾロは、当然の如く性の対象として男の体を見たことなどない。
それがこんなにまで自分の嗜好に合うとは―――いや、好みなのはきっと。
目の前で乱れるこの男だ。

「はァッ、は、あ、も…もうイクッ…」
「イケよ、ケツでイク所、ちゃんと見ててやる…!」
「や…あ、…―――ゾ、ゾロぉッ…!」
「!?」

 名前を呼ばれた刹那、全て収めきった部分がきゅうっと収縮する。
ひくひくとサンジの先端が震えながらとぷっと白みがかった液体を吐き出し、ゾロもまた最奥に欲望を解き放った。







 つかの間の激しい行為を終えた後も、何故かゾロはサンジを離す気になれなかった。
 荒い呼吸も収まらぬうちに彼自身の腹に飛び散った残滓を適当に手の平で拭って、火照った肌に頬をぺたりと押し付ける。
 汗でひんやりと湿っていたが、ひどく居心地が良かった。
いつまでもこうしていたいような、不思議に甘い感覚がゾロを包む。
 しかし残念ながら相手の方はそうじゃなかったようだ。
ゾロの頭を乗せたまま大きく肺が動いて、

「…気は、済んだかよセンセイ…」
「………」
「俺を犯して満足か?」

投げやりな言葉に顔を上げると、眉をへにゃっと下げたおかしな笑顔を向けるサンジがいる。

「サンジ…?」

 どうしていいか解らず、取りあえず身を起こして抱き寄せようとしたらカン高い機械音が鳴った。
 ゾロはチッと舌打ちして立ち上がり、部屋の隅に取り付けられた内線機器へと向かう。

「―――ハイ、第2施術室」
『ロロノア先生ですか?そろそろこっちも閉めたいんですが』
「あー、もうそんな時間か」
『あの、ご担当のサンジさんがまだお見えにならないんです』

 電話の相手はどうやら受付だ。最後の患者がいつまで経っても会計を済ませないので困っているらしい。

「悪ィ。ちっと長引いて今終わったばかりだ。すぐに―――?!」

 受話器に押し当てた側と反対の耳がパタンと閉じるドアの音を拾い、ゾロはハッと診療台を振り返った。
 そこに居るはずのサンジの姿はなく、咄嗟に受話器を放り出してドアへと駆け寄るが、

(…追いかけてどうしようってんだ俺ぁ…)

ノブに掛け損なった手をぐっと握りこんで、ゾロは内線へと踵を返す。

『ロロノア先生?』
「―――そっちには行かねぇかもしれない。俺が代わりに寄る」

恐らく、二度とあの男に会うことはないのだろうとゾロは思った。

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 (2004/09/06)

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