コックさん 9 |
9 (ヤベエ) 目前の緑色のつむじを見つめながら、サンジの頭はそれだけを繰り返す。 (ヤベエヤベエヤベエ) 青年の前に膝をついた男は、体勢とは裏腹に横柄な態度でサンジのベルトに手を掛けた。左手はしっかりサンジの両腕を押さえたままだ。腰から下げた三刀が壁に擦れて窮屈そうにがちゃがちゃ音を立てている。 ゾロは「うげ」とか「ひあ」とか青年がおかしな声で呻くのには一切構わず、さっさと彼のベルトを外した。続けてボタンを外しシャッとジッパーを勢いよく降ろし、そのまま右手を滑らせる。 下着の裾から潜り込んだ硬い手の平に尻を撫で上げられて、ぞわっとサンジは総毛だった。 「やめ、やめろコラ、テメッ」 「やめねぇ。諦めて犯されろ」 言葉と同時に縮こまったペニスをぎゅっと握られて、サンジはうっと仰け反った。 (コ、コイツ本気だッ) どうしていきなりこんな展開に持ち込まれているのか理解は出来ないが、このままではなし崩しに強姦、バックバージン喪失である。 (幾らなんでも初めてが青姦はねェだろこのケダモノッ!) 混乱するばかりのサンジであったので、自分でもすごいことを考えちゃってるのには当然気がつかない。ただ、この場をどうやってやり過ごすかを一生懸命足りないオツムで考えた。 両手は塞がってるし、得意の足技はゾロがその中央にしっかり陣取っているためご披露出来そうにもない。 黒手拭でキツク縛られた両手首に冷や汗が滲む。 そしてサンジの抵抗を押さえつける最大の要因はゾロの視線にあった。 さしものサンジも怯む鬼気迫る目つきはまさに魔獣の異名を取った男に相応しい。腕を押さえつけるその豪力よりも、戦闘中とまるきり同じ強い強い瞳の力がサンジを縫い止める。 ゾロの瞳は不思議な色だ。濃い榛に見えるその瞳孔の回りだけがくっきりと黄金の輪を描く、野生にだけ存在する猛獣の瞳。それがサンジを見上げて傲慢にも言い放った。 「やめるつもりはねェが…乱暴にはしたくねェ。俺に任せて力抜いてろ」 「―――!」 ゾロのその一言は、勿論カッチーンとサンジの逆鱗を逆撫でし、狼狽するばかりだった青年は途端に身を激しく捩じらせて抵抗を開始し、ゾロの眉をムッと顰めさせた。 (…んの野郎、俺をなんだと…!) 情けなさで涙が出そうだ。 「…クソマリモ、テメェ、俺をレディ扱いする気かッ!」 「あ?んな訳ねェだろ、どこにお前ほど凶暴な女がいる」 「つうてしっかり俺に突っ込む気なんじゃねェかこの変態野郎!」 そこでゾロがはて、と首を傾げる。 「お前、俺に突っ込みたいのか?」 「…アホかァッ!誰がテメェみてぇな筋肉ダルマに突っ込みたがるかッ」 「だろう?だったら丁度イイじゃねェか、お前は俺には突っ込みたくねェが、俺はお前に突っ込みてぇんだ」 「それもそうか…ってンな訳あるかーッ!」 「ウゼエ。お前もう黙れ」 「―――ッんんっ!」 不意に股間がスースーしたと思ったら、次の瞬間暖かくぬめったものに包み込まれた。それは変化の兆しもないサンジ自身をまるごと咥え込んで、根元から先まで余すところ無く嬲り始める。 「ぎゃ、あ、…テ、テメッ…?」 まさかまさかと思いつつ恐る恐る目を遣ると、ズボンごと下着を膝まで下げ降ろされ露になった場所に、ゾロがその短髪を埋めていた。 「ギャーーーーーーッ!!!!!」 (ウ、ウソだろオイ) 喰い付かれている。このケダモノに。 さあっとサンジの血の気が引いた。端整な白皙が更に白くなり、蒼くなり、次いでかーっと赤面する。白から青、さらに赤と目まぐるしい。 「んな、なんつう、わ、」 「ヨくねェか?あぁ、慣れてねェのかお前」 対するゾロは相も変わらずキツイ視線をサンジに投げつけながら、器用に青年のペニスを咥えたまま喋る。 熱い吐息が敏感な部分をモロに刺激して、サンジはぶるりと身を振るわせた。 (ウソだろ、あのロロノア・ゾロが) イーストの魔獣、海賊狩りの三刀流が。 イイ年して迷子になりまくる困ったちゃんが。 カタナを口に咥えちゃったりする寝腐れ剣士が。 (―――俺のチンポコ咥えてやがるんですようナミさんッ!) 思わず心の中で女神の名を呼び助けを求めるが、頼れる航海士は今頃とっくにG・M号で休息中だろう。 それに喩えこの場に居たとしても、ゾロの表情を見たあとでは助けてくれるかも疑わしい。 ゾロは一旦サンジ自身を口から出すと、べろり、と大きな舌で根元から先端までをゆっくり舐め上げた。 (…ッ!) 視角と触覚の両方から責められて、力なく項垂れていた筈のサンジがゆっくりとその身を擡げ始める。 それを目にしたゾロがくっと目の端で哂い、羞恥と怒りがよりサンジの興奮を煽った。 まさに悪循環。 エロコックの仇名をつけられるほど女性に目の無いサンジであったが、その騎士道精神だってハンパではない。遊びや気まぐれで女性と情を交わしたことなどないし、ましてや性欲処理など言語道断。 そういったわけで、流石に童貞とは言わぬまでも実際の女性経験はそう誇れるものではないサンジである。 そのくせ妄想力だけはいっぱしで、口で受ける愛撫は想像の中で幾度も経験してきた。 だけどこれは。 (っくしょう…!) 愛すべき麗しい女性とはかけ離れたところにいる筈の男。 その男に弱点をいいように嬲られて、萎えるどころか意識はどんどん股間に集中していくばかりだ。 そしてそこにあるのは、紛れも無い快感で。 身体の底から上がってくる射精感に、ダメだと思いつつ引き摺られていく。 (…なんだよ俺ッ!しっかりしろ、相手はクソマリモじゃねェかッ) などと心の中で自分を必死に叱咤してみるも、サンジはもう己の本心に気付いている。 ゾロだから。 相手がこのケダモノだからこそ、自分はこんなに興奮するのだと。 じゅぷじゅぷ、っと耳を焼く卑猥な響きは、ゾロの口内に溢れた唾液が己の分身に絡んで上げた音だ。 上下に激しく動かされ、空いた手で袋をやわやわと弄られて、サンジの腰は彼の思惑を外れ勝手に前後に揺すられ始めた。 「…ア、はァッ、」 「…俺でちゃんと感じれんじゃねェか。お前の、あっちゅー間にガチガチだぜ」 低い声が揶揄するようにそんな事を言う。 「ア、アホ、エロいコト言うなッ…」 「エロいのはお前だ。すげー垂れてんぞ」 「…んんっ!」 ちゅう、っと先走りで溢れた汁を吸い上げられて、サンジの腰ががくがくと震える。 「イイんだろ?さっさと出せよ、…俺も、早くお前ン中にぶちまけてぇ」 解放を求めて蠢く先端を舌でちろちろと弄るゾロ。根元と袋を揉みしだいていたその指が、すっと後ろに滑った。 「―――ひ、ゃ、ッ!」 「ココに。俺のを根元まで全部、咥え込ませてやる」 「こ、こんの、エ、エロ親父…ッ!」 つんつんと後孔をつつかれて、サンジの身体に思わず力が籠る。 ゾロの狙いは明らかで、流されるままのサンジも流石にそれだけはカンベンしろと今更ながらに大慌てだ。 (ヤベ、ヤベエもう、イ、イっちまう…でもでも出したら次ァ犯される…!) ゾロの前で射精することだけはならないと、ふにゃふにゃになった頭の端でそれだけを強く思う。 だが男の愛撫は大胆で留まる事を知らずサンジを責め続ける。 限界を、迎えようとしていた。 「…っふ、あ、ア―――!」 と。 (―――!―――) ほぼ同時にゾロとサンジははっと顔を上げた。そのまま動きを止め、訝しげに視線を表通りに動かす。 ほどなくして幾人かの男たちの話し声が聞こえてきた。 「どっちだ、確かに居たんだろうな」 「間違いねェす、あの金髪と仲間らしき男が連れ立って公園出てくのを見たって」 「…舐めやがってあの小僧、痛い目見せてやるぜ」 どこかで耳にしたそのダミ声は、先ほど舞台の上でサンジに赤ッ恥をかかされた件のコックに間違いない。 剣士はハァーッ、と長い溜息をつくと、のそりと立ち上がった。 解放されたサンジは己のあられもない姿に気付き、慌てて膝まで下ろされた下着とズボンを着け直して彼と同様に目の前の通りを見据える。 明らかな敵の気配を感知し、先ほどまでの出来事など即座に脳裏から追い出したゾロはそんなサンジには見向きもせず、ボソリとそれでも忌々しげに呟いた。 「―――とんだ邪魔が入ったな。おいクソコック、続きは船に戻ってからだ」 「云ってろ。ドサクサ紛れにテメェも一緒にオロしてやる」 赤く紅潮した頬をサンジは己の両手でばちんとはたき、僅かな情交で乱れた金糸をさらりと掻き上げる。 そして二人はゆっくりと表通りに足を踏み出した。 |
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