剣豪の受難 5





 気づいたら、唐突に目の前のまるきりガキのようにしゃくりあげる金色に触れたくなってしまった。

(…なんでか凄ェ撫でくりマワしてェ)

泣きじゃくる金髪に触れて、肩を抱いて、あやしてやりたい。
 そうしたら、さっきから収まらないこの胸の熱も冷めるのではないだろうか。


 魔獣と異名を取った剣豪は、その名の通りケダモノ=ドーブツであった。ドーブツとはすべからく本能でのみ行動するものだ。
 ゆっくりと包帯に包まれた右手を伸ばす。

「おいクソコ…うお!」

ゾロの手が触れるか触れないかのうちに、コックが項垂れたままの首をいきなりひょいっと上げた。
 無言で涙と鼻水でぐしょぐしょになった顔をゾロのシャツでがしがしと拭き、すうっと深呼吸を一つ。あまりの行動に唖然とするゾロに真っ直ぐ向きあい、

「よっし!飲むぞゾロ!」
「…ハァ?」
「ハァじゃねェ、飲めっつってんだクソ腹巻」
「唐突だなオイ!よせ、零れるッ…」

手にした酒瓶を無理矢理ゾロの唇に押し当て、思いっきり瓶を逆さにする。

「オラ遠慮すんなクソ剣士〜」
「テ、テメェ何…グッ…」
「飲めっつってんだよコラァ」

ふたたび絡み酒であった。
 喉に一気に流れ込むアルコールにごふっと剣豪がむせて、サンジのジャケットに酒を吐き出した。
 思いがけない報復を喰らったコックは、「グア〜汚ねェ〜」と乱暴にジャケットを脱ぎ、ビッとネクタイを緩める。瓶の口は相変わらずゾロにくっつけたまま、ぐいぐいと酒を流し込もうとするのを慌てて両手をブロックして防ぐ。

「サンジ様のお酌が飲めねェってのか、アァ?」
「―――酌かこれが!この酒乱!!」
「大人しく飲め。イヒヒヒヒ」

 その笑い声が癪に障ったので、ここはイッパツぶっ飛ばすべきだろうと激しく咳き込みつつ顔をあげる。その真正面にサンジのはだけられた胸元があった。


 驚くほど白いそこは、酔いのためほんのりピンクがかっていて、むやみやたらにエロく映り。
 思わず抵抗することもやめたゾロの頭に、サンジの声がひどく心地よく響く。

「…ッ…」
「なんだクソ腹巻、降参かよ?」

目のやり場に困り顔を上げると、夜空をバックに蒼い瞳が誘うかのごとく見下ろしていた。
 ペロ、と赤い舌先が薄い唇の端から洩れて、先ほど己が飲み零した酒の名残をなめ取る。
危険すぎるくらい煽情的なその仕草。

(ヤベエ)

何がヤバイのか良く解らないが、この体勢はちとマズイ。
 その証拠に、股間がイキナリ搾られるように張り詰めてきた。ギュウっと体中の血液が集中していく慣れた気配。


 剣豪は激しく勃起していた。

(冗談じゃねェぞ!何で俺が、この、クソコック相手に…!)

そうは思うが、一旦ソレを意識しだすとどうしようもないくらいムラムラしてきた。

「んあ?」

酔ってトロンとした眼でサンジがゾロを見つめた。そのまま視線を自分が乗り上げたままのゾロの下半身に移す。

「なんか固ェ」
「………」
「テメェ実は四刀流か?なんでこんなとこにカタナ隠し持ってんだ」
「…そりゃ刀じゃねェ。サオだ」

剣豪は少々アホだったので、素直にそう答えてしまった。

「サオ…アァ?なんだテメェ、ビンビンじゃねェかよ!」
「………」

その通りなので返す言葉もない。

「溜まってんのなァー」
「………」

以下略。
 サンジはしばらく、隆起したゾロの股間とその包帯まみれの両手とを見比べてどうしたもんかと考えていたが、不意にポン、と手を叩いた。

「してやる」
「…?…」
「してやるから、出せテメェのソレ」
「おいちょっと待て」
「ア〜面倒くせェ!四の五の言わずに黙ってさせやがれ!」

言うなりゾロのベルトをがちゃがちゃと外しにかかる。
 押し留める間もなくジッパーの隙間から手を差し入れられ、勢いよくペニスが飛び出した。


「!…なんだこりゃ…ホントに人間のチンポコかッ…!?」
「…御託はいいから早くしまえッ」
「イ〜ヤ〜ダ〜。大体こんなおっ勃てといて、テメェどうする気だよ」
「テメェが居なくなってから抜くに決まってんだろ!」
「この手でかァ〜?」

指を曲げることも出来ない両手を掴んで、目の前にひらひらと翳した。

「う…」
「頼んでねェけど、俺の黄金の右手とコンソメスープの恩返しだ。マリモに借りを作ると面倒くせェからな」
「貸しだなんて思ってねェぞ!」
「俺が思っちまったんだからそうなんだよ!」
「!」

ギュッ!とサンジがゾロのペニスを握り締めた。不意に与えられた痛みにウッと息が詰まる。

「〜〜〜〜〜〜!」
「大人しくしねェとこのまま折るぞ?」
「…ッテメェ…酔っ払うのもいい加減にしやがれ…」
「酔ってるゥ?酔ってねェ酔ってねェ酔ってねェ酔ってねェぞ俺ァ〜!」

ゾロのペニスをギュウギュウ握りながら力説した。めちゃめちゃ酔っ払っていた。

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