サンジ10才 1





 サンジはグランドライン小学校に通う4年生の元気な男の子です。
 はちみつ色にかがやく金ぱつと、海の色みたいに真っ青なひとみ、栄養か多がいわれるげん代社会のへい害としてよく児童期の肥満が社会問題になる昨今ですが、サンジのはり金みたいに細いどう体に長い手足は健康そのもの。
 わすれちゃいけないトレードマークのぐるぐるまゆ毛は、高学年のお姉さまたちに「かわいいかわいい」と言われつづけて、もっともっと小さいころは他の子とちがうことにコッソリなやんだりしたこともあったのですが、今ではすっかりチャームポイントとして周囲だけでなく本人の中にも定着しています。
 さてそんなサンジには、まゆ毛のかわりに人に言えない新たななやみがありました。
 それはとてもありがちでたわいないこと。
同じ年ごろの男の子だったら、多分そろそろ気にしちゃう子もいるんじゃないかなあ、というたぐいのアレといえば一つしかありません。

(おれのちんちん、いつ大人のちんちんになるんだろーな)

 おしっこするとき、お風呂に入るとき。
自分の小さなソレをつまんではため息をついてしまうサンジなのでした。








 こ間のそれがまだお子さまのものだ、と気づいたのはつい最近、学校での保健体育の時間です。
『第二次成長〜生しょく器の変化』というこう目にのっていたあるイラストを見て、サンジの顔色は一気に青ざめてしまいました。
 サンジはそれまで何度か、おじいちゃんやおじいちゃんの経営するレストランのコックさんたちとおふろに入ったことがあります。
 だから大人のおちんちんと子供のおちんちんでは形も大きさもちがうんだってことは当然知っていましたが、まさか自分がもう、大人になってもいい年ごろだったなんて思ってもみなかったのです。

(いっぱしの男として不完全だなんて、カッコ悪ィよなあ)

 ちなみにサンジのかわいらしいおたからはいわゆる包けい、とよばれる形じょうをしてはいましたが、4年生とはいえサンジはまだまだお子さまですし、たしかに早い子ではむけちゃってる子もいたりしましたが、体の成長は人それぞれ。
 ですからクラスの男子全員がオトナになってるなんてことはなかったでしょうが、女の子にはやさしく・男の子にはきびしくを公言してはばからないちょうフェミニストのサンジには、そうした下半身の事じょうを相談しあえるほどの仲良しがいませんでした。
 もしかしたら自分だけがおくれてるんじゃないか、どころか一生このまんまなんじゃないかと思うと、不安でむねのおくの方がもやもやとしてきます。

(あいつ…ゾロは、どうなんだろ。もうオトナになったりしてんのかな)

 こんな時つい考えてしまうのは、同い年のロロノア・ゾロ君のこと。
 同せいのお友達がいないかわりに、サンジにはライバルと呼べる存在が一人だけおりました。
今よりもっともっと小さいころから、けんかばかりしてる男の子。
 けれどその相手にだけは『まだこども』だなんて知られたくないと思うのです。
だって二人は、あくまでも『競争相手』なのですから。
 そんなわけで、

(あーあー、今日でもう10才になっちゃったよ)

 おたん生日の朝だってのに、ちょっとゆううつなサンジなのでした。








 そんなことをサンジが小さな頭でなやんでいるなんてこと、もちろんゾロ君は知りません。
 だから、お昼休みぐう然トイレで出会えたとなり組のお気に入りに、

「チンコまでかわいいのかお前」

なんてバカ正直な感想をもらしてしまったのも、少々思りょが足りなかったかもしれませんが、ゾロ君のせいではないのです。

「死ねっこのくそまりもー!」

 おたがいの用足しを終えたしゅん間に回し蹴りを食らったゾロ君はトイレの壁に激突し、思いがけぬ攻撃にそのままぺたりとしりもちをついてしまいました。
 不意打ち攻げきにいかり心頭で見上げた先には、大あわてで半ズボンのファスナーを上げながら、真っ赤な顔でくちびるを引き結ぶサンジのすがた。

(あ、やべ)

 それは頭に血がのぼりがちなサンジがマジギレ直前に見せる表じょうで、ゾロ君はせ中にどわっと冷やあせをかきました。
 どうやらふれてはいけないところにふれてしまったのだと気がついても、後の祭り。

「………」
「おい!」

 よび止める声にもかまわずサンジはくるりときびすを返すと自分の教室へ一目散にかけ出し、あっけに取られて出おくれたゾロ君はそれから、

(これはいかん)

とトイレのゆかにどっかりあぐらをかいて思案にくれました。
 ゾロ君はただ、見たまま思ったままを告げただけでしたので、そもそもどうしてサンジがおこったのかすら理かい不のうではあったのですが、おしりが冷たくなるまで長時間すわりこんで考えた末、やがてひとつの決ろんにいたりました。

(かわいいチンコってのがいけねぇんだな)

ズバリです。
 まあじょうしきで言えばすぐにわかりそうなもんでしたが、ゾロ君は大変マイペースかつ大ざっぱでごうかいなお子さまでしたので、まさかサンジがそんな小さなこと(※この場合サイズではありません)を気にするなんて思ってもみなかったのでした。
 ひとまずおのれのデリカシーのなさをひとしきり反省したゾロ君が次に考えたのは、ならばどうやって失言のうめ合わせをするかということ。
 ののしり合いドツキ合いは日じょう茶飯事なゾロ君とサンジなので、いつもなら思いっきり大あばれしておたがいスッキリするのがお約束でしたが、今日がサンジのたん生日だってことくらい、おつむのよう量にはなはだしくかぎりのあるゾロ君だってしょうちしています。

『たん生日くらいはケンカしないで仲良くしたい』

と思うてい度には成長しているゾロ君は、どうやってサンジのごきげんを取ろうかとない知えを一生けん命しぼりまくり、やがて「うし」となっ得顔でつぶやいいて、さっそうと立ち上がりました。
 丁度そのときキンコーンとチャイムが鳴りましたが、うっかり長考しすぎて五時間目をサボったことにも気づいていなかったのは全くもって不覚というしかありません。
 ゆうゆうと教室にもどったところを担任の先生にみつかったゾロ君は、その後しこたまおこられたそうですが、まあ自業自得というものでしょう。








 両手にかかえきれないほどのかわいらしい小ばこは、「おめでとう!」の言葉とともに上級生のお姉さまたちがサンジのクラスまでとどけてくれた、おたん生日のプレゼントです。
 色とりどりのリボンをかけられた、ランドセルに入りきれないほどのたく山のおくり物。
 けれど家路につくサンジの足取りは重く、いつもは上向きなグルグルまゆ毛も何となく下がり気味でした。
 せっかくのたん生日にさえない顔つきのサンジですが、それもしょうがないことだったかも知れません。
 だってゾロ君にだけはバレたくなかったアレをし近きょりからばっちり見られた上、かわいらしいとまで言われてしまったのですから。
 かわいいちんちんを指てきされて喜ぶ男がどこにいるでしょう。

(まりものバカ)

 本当なら今ごろはこのプレゼントを見せびらかして、ゾロ君に自分の人気のほどを自まんしまくっていたはずなのに。
 そうしてゾロ君の、不ゆかいそうにしかめた顔をいい気分でながめていたはずなのに。
 けれどムカつくのにまかせてけり飛ばしたっきり、ゾロ君はフォローもせずにサンジなんかほったらかし。
 放課後はいつも学校近くの空き地でらんとう、が二人の決まりごとだったのに、結局ゾロ君はいくら待っても姿をあらわさず、サンジは仕方なく、一人さみしくとぼとぼ通学路を進むしかありませんでした。

(今日は、おれのうちにしょう待してやろうと思ってたのに)

 サンジの家はとても有名なレストランで、誕生日でもお店がお休みになることはなかったのですが、この日はおじいちゃんがサンジのためだけの特別なごちそうを作ってくれるのが毎年のことです。
 けれどせっかくのお料理も、一人っきりで食べるのはなんだかちょっとだけ、さみしくて。
 同じ年ごろの子供を持つお家では、たく山の人を招いてのたん生会をやるところもあるそうです。
 クラスメイトからは何度かさそわれたこともあったけど、サンジはいつも理由をつけてはそれを断ってきました。
サンジのうちはレストランだから、とてもじゃないけどサンジのたん生日にパーティを開いてもらうなんておねだりは出来ないし、おさそいのお返しが出来ないのにのこのこ自分だけ遊びに行くなんてのは、サンジのプライドがゆるさなかったのです。

(でも、ひとりくらいなら)

一人分、よ計にご飯を用意してもらうくらいなら。
 そう思って昨夜、サンジは生まれて初めておじいちゃんにわがままを言いました。
明日の晩ごはんに、友だちを連れてきてもいいか、と。
 おじいちゃんは一しゅんだけ不思議そうな顔をして、それからちょっとだけ目を細めて、

「サーブする余ゆうなんざねェし、片付けはてめェでやるんだぞチビナス?」

と言いました。
 これまで子供らしいおねだりをしたことがなかったまごの初めてのお願いに、ほほがゆるみそうになるのを必死でこらえていたのにサンジが気づくことは、当然ありませんでしたが。

(二人分なんか、食えるわけねーよちくしょう)

 血の気の多い二人なので、サンジとゾロ君がけんかするのなんてしょっちゅうです。でもひとしきりあばれたら仲直りだってすぐ。
 お昼休みにはついかーっときてらんぼうなことをしてしまいましたけど、放課後サラッともうひとあばれしたら失礼な発言だってゆるしてやるつもりでいたサンジは、すっきりしないままおうちにたどり着き、
―――ドアを開けるなりげん関先に見なれないシューズを見つけて「あっ」と抱えたプレゼントの山を取り落としそうになりました。
 自分の家なのにおそるおそるクツを脱いで向かったダイニングの、大きなテーブルの上にはたくさんのごちそうと、二人で丁度いいくらいの大きさの、バースデーケーキがひとつ。
 それから所在なさげにちょこんとイスにこしかけた、

「ゾロ」
「…おかえり」

困り顔のおさななじみ。







 午後の授業をスルーしたゾロ君は、たん任の先生にこってりしぼられた後、下校のチャイムが鳴るまでずっと漢字の書き取りを命じられていたそうです。
 こんな時間ではいつもの空き地に行ってもサンジはとっくに帰っているだろうと、めずらしく気を利かせて直接自たくへとおしかけたゾロ君は、そこでサンジの代わりに太っちょのコックさんに会いました。
 太っちょのコックさんはげん関先にいたゾロ君をとっつかまえると、話も聞かずに家の中へ招きいれ、がははとわらいながら

「あのクソガキにダチが出来たなんて奇跡だぜ」

と無理やりテーブルにつかされたというのです。

「…なんか、かんちがいされたみてぇでよ」

ゾロ君が言いにくそうに、申しわけなさそうに語る言葉に、サンジの白いほっぺたがかーっと赤くなりました。
だってかんちがいなんかじゃないのです。サンジがお招きするつもりだった、たった一人の友だちはまさにこの、目の前にいるゾロ君なのですから。
けれど、

「悪いな、用事が終わったらすぐ帰っから」
「え」
「客がくるんだろ?」

そうたずねられて(イヤ客はてめェだよ)と答えられるほどサンジはす直な子ではありませんでしたので、むっとぐるまゆをしかめて、

「…まーな。何の用だかしらねェけど、とっととすませてさっさと帰りやがれ」

なんて言ってしまいました。

(おれのバカ)

しまった、と思いましたが、今さら前言をてっ回することも出来ません。
おじいちゃんのお店のコックさん―――パティさんのナイスアシストもこれでパーっちゅうもんです。
 しかしサンジのかわいくない発言なんかにはすっかりなれっこな上、常にマイペースなゾロ君は、サンジの悪たいにもとん着せずに「うし、じゃあ急ごう」とやおらイスから立ち上がりました。
 それからサンジの細いうでをひっぱって、

「フロはどこだ?」
「―――は?」
「部屋でもいいけど後がめんどうだからな」

ひどく真面目な顔でそんなことを言うので。
 落ち込んでいた上どうもいきおいに飲まれやすいサンジが、ついうっかり言われたとおりにバスルームに案内してしまったのも、仕方なかったかも知れません。


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 (2005.04.23)

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