さんじ6さい


 さんじ5さい。
ぐらんどらいんようちえんにかよう、げんきいっぱいなおとこのこです。
 さてさんじはこのひのあさ、こころにきめたことがありました。

(おれ、もうおおきくなったんだからな。がきくせえまねはしねえぜ)

きょうは、さんじの6さいのたんじょうびなのです。
 だからでしょうか、いつものさんじとはちょっぴりちがいます。
おむかえばすのなかでも、うるさくさわいだりしないし、ばすのまどからみちゆくやんきーにがんたれたりしません。
 なぜなら、きょうからさんじはすこうしおにいちゃんになったから。

「さんじくん、おたんじょうびおめでとう!」
「さんじ、おめでとう!」

ようちえんにつくなりおともだちから、たくさんおいわいのことばをもらって、さんじはうれしいやら、はずかしいやら。
 おもわずにこにこしていたら、うしろから、

「へえ。おまえ、6さいになったのか」

たかいながらもびみょうにはくりょくのあるこえがきこえました。
 そのこえにさんじははちみついろのあたまをぐるんとふってむきなおり、

「だったらどうした、このくそまりも!」

といかりもあらわにかえしました。
 ふりかえったさきにたっていたのは、きれいなわかくさいろのかみのけをしたおとこのこがひとり。
さんじとおなじようちえんにかよう、ろろのあ・ぞろくんです。

「おれよりさきにおにいちゃんになったからって、いばるんじゃねえ!」

べつにぞろくんはいばっていたわけではありませんでいたが、さんじはようちえんににゅうがくしたひからずっとこのぞろくんにはけんかをうるまいにちでしたので、あさのちかいもどこへやら、このひももちろんはんめでにらみながらけんかをうっておきました。

「けんかならしないぞ」

そうぞろくんがいいかえすのも、いつものこと。
 さんじはむうっとそのしろいほっぺをふくらませました。

(きょうも、ぞろはおれをあいてにしねえ)

 ぞろくんは、おかあさんとけんかをしないやくそくをしてしまったので、さんじがいくらむかつくことをしたりいったりしても、てんであいてにしてくれないのです。
 でもさんじは、とっくみあいのけんかがさんどのめしと、せかいじゅうのおんなのこと、くそじじいのつぎくらいにすき、というかなりやんちゃなおこさまでしたので、そんなぞろくんのたいどはけっこうむかつくのでした。

(ぞろは、おれがきらいなのかな)

きょうしつでたいそうふくにおきがえをしながら、さんじはちょっぴりかなしくなりました。

(あいつ、つよいくせに。おれとはぜったい、けんかしてくれねえ)

さんじはいちどだけ、ぞろくんがちゃんばらごっこをしているのをみたことがあります。
 しんぶんしをまるめてつくったへなへなのけんをりょうてにもって、ついでにくちにもういっぽんくわえたそのかっこうは、かなりきてれつでびっくりしましたが、おともだちじゅうにんがかりでかかっても、ぞろくんにけんをあてることはできません。
 ぞろくんはみんなのこうげきをかわしながら、

「たあいもねえ」

と、ぽんぽんとかるくしんぶんしのけんをみんなのあたまにひっとさせて、あっというまにやっつけてしまいました。

 だれにもいいませんでしたが、そのときさんじは、

(すげえかっこいい)

とけっこうどきどきしたりしたのです。
 どきどきしたあと、あれ?とおもいました。

(ぞろはこんなにつよいのに、おれとはどうしてたたかわないんだろう)

たたかわないばかりか、さんじがおもいっきりけりをいれてもびくともしません。
 いちどはじゃんぐるじむのうえからとびげりをくらわせてみましたが、あっさりかわされて、ぎゃくにさんじはひざこぞうをすりむいてしまいました。
 そのきずをみたぞろくんは、

「おまえあほじゃねえのか。ちったあおちつけ」

なんていって、さんじのおひざをぺろっとなめてくれましたが。
 ぞろくんにやさしくされると、さんじはよけいにくやしくなってしまうのです。




(おれはけんかのあいてにもならないのかな)

すでにぐらんどようちえんで、さんじにかなうおとこのこはいません。
 さんじはみためたいへんあいらしいおとこのこでしたので、なめられてはいけないと、にゅうえんそうそうかたっぱしからおともだちにけんかをうりまくり、じまんのあしわざでそのすべてにしょうりしてきたのです。
 のこるはぞろくん、ただひとり。

(こんなんじゃだめだ。あいつにしょうりしてこそおとこだぜ)

すこしまえのばれんたいんで、さんじはひごろのりっぷさーびすがきいて、じゅうよんこもちょこれーとをもらいました。
 ちなみにぞろくんがもらったのはななこ。さんじのいっぽんがちです。
 しかしりさーちのけっか、ぞろくんがもらったそのぜんぶは、どうやら"ほんめいちょこ"らしいことがわかると、さんじはめちゃくちゃはらをたてました。

(おれのはぎりっぽかった)

いわゆるさかうらみというやつですが、ようちえんじのおつむなんてこんなもんです。

(やっぱり、どっちがうえかはっきりさせねえと)

もう3がつ。4がつになったらさんじもぞろくんもいちねんせいになります。
 さいきんはもんぶかがくしょうもきびしくしどうしていますので、そうなったら、いままでのようにきがるにけりをいれることもできなくなるかもしれません。

(おとなになるまえにあいつをたおさなきゃはなしにならねえ。なんとしてもきょうじゅうにかたをつけて、すっきりしてやる)

さんじはうっしゃあときあいをいれると、いそいでおきがえをすませ、おはなのみずやりおとうばんにいきました。



 おかえりのじかんがやってきました。
さんじはちょっぴりどきどきしながら、さっさとかえろうとするみどりのあたまのおとこのこをよびとめました。

「おいくそまりも!ちょっとつきあえ!」
「なんだ?けんかならしねえぞ」
「うるせえ、おれだってもう6さいだ。けんかなんてしねえよ」
「じゃあなんだ。おれは、これからどうじょうにいかなきゃなんねえんだが」
「これはけんかじゃねえ。おとことおとこの、しょうぶだ!」
「しょうぶだあ?」

いきなりぞろくんのめつきがかわりました。
 けんかはしねえ、といいはるぞろくんにたいして、さんじがいっしょうけんめいかんがえたことばが"しょうぶ"でした。
 あんのじょうぞろくんはのりのり。さくせんせいこうです。

「おう。おまえ、せかいさいきょうになるんだろ?」

『しょうらいのゆめ』というさくぶんで、ぞろくんがそうかいていたのを、さんじはちゃんとおぼえていました。

「おまえはこっくだったな」

ぞろくんも、さんじのさくぶんをおぼえていたようです。さんじはちょっとうれしくなって、おもわずにっこりしそうになりましたが、そこはぐっとがまん。

「こっくだけど、せかいさいきょうのこっくだ!おれをたおさないと、おまえはせかいさいきょうじゃねえんだぞ!」

そういうと、さんじはしんぶんしでつくったさんぼんのけんを、ぞろくんにさしだしました。ぞろくんがそれをうけとると、

「おれはほんきだ。おまえもほんきでたたかえ!」

とせんせいきっく。

「…えんりょはいらねえみたいだな」

おなかにきょうれつなけりをくらったぞろくんは、さんぼんのけん(しんぶんし)を、あのときのようにかまえました。

(あっ!)

いつかのちゃんばらごっこのときとおなじです。
 それにきをとられていたら、いきなりしんぶんしがさんじのあたまをたたきました。

(いてっ)

ぞろくんにてかげんされたくなかったので、しんぶんしはぎゅうぎゅうにかたくまいてつくっています。
 ほんのちょっとぽかりとあたっただけですが、かなりいたくてさんじはひやりとしました。

(やっぱこいつ、つええ)

きをぬけばやられるのはこちらだと、さんじはだいじなうでをけがしないようにせいふくのぽけっとにつっこんで、ぞろくんにむかっていきました。


 

 ふたりがおおたちまわりをえんじていたら、おともだちがしらせたのか、せんせいがとんできました。
 そのころにはふたりともどろだらけでとっくみあいになっていましたので、せんせいにむりやりひきはなされたあと、おへやにつれていかれ、こってりとしぼられることになりました。
 ながいおせっきょうがおわるころには、おともだちはみんなおうちにかえってしまって、ようちえんにはさんじとぞろくんふたりきり。  おうちまでのばすはもうしゅっぱつしてしまったので、おうちのひとにおむかえにきてもらうことになりました。
 しょうがなくおにわのぶらんこにすわって、おむかえをまつさんじとぞろくん。
せいふくのぼたんはどこかにとんでいっているし、ずぼんのすそはほつれているし、さんじのはちみついろのきれいなかみのけはぼさぼさ、ぞろくんははなぢをだらだらながしているしで、ふとりとも、それはもうものすごいありさまです。

 おたがいのかっこうをみて、ふたりはげらげらわらいました。
そうやってわらっていたら、なんだかしょうぶのことなどどうでもよくなったさんじは、にっこりしてぞろくんにいいました。

「てめえ、やっぱつよいや」
「おまえも、すげえ。…いいけりだったぜ」

ぞろくんがしみじみとそういうので、さんじはまっかになりました。

「こんなにたのしかったの、ひさしぶりだ」

ぞろくんもにっこりわらいました。
 やくそくをまもってながいあいだけんかしないでいたので、かれはかれなりにすとれすがたまっていたようです。

「おれも、おれもおまえとけんかして、たのしかった!」

ぞろくんのことばに、さんじもうきうきとそういいましたが、ぞろくんは、あれ?とくびをかしげました。

「けんかじゃねえだろ、しょうぶだろ?」
「あっ!そうそう、しょうぶだしょうぶ!」

さんじはしょうしょうあわてながら、

(こいつがあほでよかったぜ)

とむねをなでおろしました。そんなさんじにはきつかず、ぞろくんは、

「しょうぶ、ついてねえよな」

と、ぼそっといいました。とちゅうでせんせいにとめられたから、どっちも「まいった」していないのです。

「そうだなあ」
「どうする、つづきするか?」
「もうすぐじじいがきちまうから、きょうはだめだ」
「そうか。おれだって、かあちゃんがくるんだもんな」

さすがのふたりも、ほごしゃのめのまえでおおあばれするわけにはいきません。ぞろくんはあからさまにざんねんそうなかおになりました。
 さんじはおおいそぎで、

「でも!でも、あしたならだいじょうぶだから!」
「あしたか」
「うん、あしたなら、だいじょうぶだ」
「じゃああした、な。やくそくだ」

ぞろくんがうれしそうにそういって、こゆびをさんじにさしだしたので、さんじもこゆびをだして、ゆびきりしました。




はやくあしたにならねえかな。
あしたになったらぞろとけんかして、あさってもけんかしよう。
あさってのつぎも、そのつぎも。
そのつぎもそのつぎも、そのつぎのひも。
まいにちまいにち、ぞろとけんかしよう。




「なあぞろ、おれ、おまえといっしょうけんかしてえ」
「おれもだ。でもけんかじゃないぞ、しょうぶだろ」

ほんとにおまえはあほだなあ、とぞろくんはあきれていいましたが、さんじはぜんぜんきになりませんでした。

「ぞろくん、おむかえよ?」

せんせいがよびにきたので、ぞろはさっとぶらんこからとびおりました。
 そして、さんじをふりかえると、

「たんじょうび、おめでとう」

とおとこらしくびしっといいました。

「えっ」
「はやく、おとなになろうな」
「お、おう!」

ぞろくんは、「あとじゅうねん、いやじゅうにねんか?」とかいみふめいなことばをつぶやきながら、たかたかおかあさんのところにはしっていきます。

「へんなやつ」

さんじはくすくすわらいながらおもいました。
 さんじのおうちはれすとらん。おひるどきはみんないそがしくはたらいているので、おむかえはまだまだです。
ひとりでぶらんこをこぎながら、さんじはぞろくんのことをかんがえました。

(たくさんいってもらった「おめでとう」のなかで、いちばんうれしいことばが、ぞろのだなんて、なんだかへんだなあ)

きょうがたんじょうびで、よかった、とさんじはおもいました。




 じゅうねんご、さんじはみをもってぞろくんの「おとなになる」ということばのいみをしることになりました。
 ですがそのころはさんじもぞろくんのことがもっともっとすきになっていましたので、けんかするよりずっといたいことをされまくりましたけど、がまんしました。
 いたいことはそのうちきもちいいことになったので、けっかおーらいです。




 おとなになったぞろくんとさんじは、あいかわらずたくさんけんかをしていますが、ふうふげんかはいぬもくわないといいますし、とってもなかよくしあわせなまいにちをおくっているそうです。




めでたしめでたし。

ゾロ5さい← →NEXT

 (2004.03.02)

Template by ネットマニア