ロロノア・ゾロ7さい


 グランドライン小がっこうにかようゾロには、大きなやぼうがあります。

せかいさいきょうの男になることです。

 ゾロはまだ1ねん生ですが、みずからのやぼうをはたすため、まい日がっこうがおわるとけんどうのどうじょうにいっています。
 ほうかご、クラスメイトがもちこみきんしのゲームボーイアドバンスであそんでいるのをよこ目に、ゾロはしないをにぎりランドセルをせおってげたばこに一ちょくせん。
 いそいでどうじょうにとうちゃくしないと、ばんごはんまでにたんれんがおわらないし、きょうはとくべつな日なので、いつもより早めにかえるとお母さんと『やくそく』していたのでした。
 ちなみにどうじょうは小がっこうとおうちのちょうどまん中くらいにある、とほ5分のばしょにありましたが、ゾロはいつも一じかんくらいじかんがかかってしまいます。
 こころざしもたかい大へんおりこうなお子さまであるゾロなのですが、そこはそれまだ1ねん生ですので、どうじょうまでのみちすじをはっきりおぼえることができないでいるのでした。

(どうじょうがもうちょっとちかかったらなあ)

ダッシュでこうていをよこぎりながらゾロはちょっとためいきをついてしまいます。
 きょりてきにはめちゃめちゃちかいのですが、じぶんがまいごになっていることにもきづかないゾロですので、とうぜんそのことにもきづいていませんでした。








 さてどうじょうまで1じかんをかけてかようゾロ。
じつはとうちゃくまでにそれだけながいじかんがかかってしまうのには、まいごいがいにもう一つりゆうがありました。
 まい日どうじょうにいくまえ、ゾロはまずおともだちとのやくそくをはたしにいきます。
『男のしょうぶ』という大じなたたかいがかれをまっているのです。








「おせえ!てめぇまたまいごになっただろ!」

やくそくのばしょは小がっこうからすこしはなれたばしょにあるあきちです。
 ふきょうのあおりでうりにだされたもののかい手のつかないさらちには、もうしわけていどのロープがはりめぐらされていて、ゾロがそこをくぐるとどうじに、あきちからかんだかいこえがかかりました。
 ゾロがかおをあげたさきには、はちみついろのかみのけの、がりがりにやせたお子さまがひとり。

「まいごになんかなってねえ」

ほんとうはカーブを一つまちがえたのですが、ゾロはやっぱりまちがえたことにもきづいていないのでどうしようもありません。

「どうだか。おまえみたいなのを、ほうこうおんちっていうんだぜ」

1ねん生なのにだらしねえ、とおぼえたてのことばでゾロをなじるこのお子さまのなまえはサンジ。
 となりのくみの、ゾロとおないどしの男の子です。

「うるせえ。きょうはじかんがねえ、さっさとすまさせてもらうぜ」

うわぎごとランドセルをじめんにばっとなげすてて、ゾロはしないをかまえました。
 たいするサンジくんも、こちらはランドセルをおろした上にきちんとぬいだうわぎをたたんでから、りょう手をはんズボンのポケットにつっこみました。
 しょうらいはせかい一のコックになるのがもくひょうの、サンジくんならではのファイティング・ポーズです。

「おれあいてにさっさとすまそうなんて、じゅうねんはやいんだよ!」

いうなりサンジくんはゾロにかけより、左あしをたかだかとふりあげてのハイキックをくりだしました。
 かんいっぱつみをそらしてそれをかわしたゾロは、しないをもった右手をのばしてサンジくんのからだをなぎはらいます。
 しかしサンジくんはゾロのこうげきをよんでいましたので、しないのうごきにあわせてよこざまにたおれ、そのままゾロに足ばらいをかけました。
 このこうげきにずでん、ところがったゾロを「へへ」とじめんにみをふせたままのサンジくんがとくいげにわらいます。
 よゆうのたいどに「すきあり!」とそくざに立ち上がったゾロがしないをふりおろし、これはさすがによけることができなかったサンジくんのわきばらをしないのさきっちょがかすりました。
 とかまあ字づらではけっこうはげしそうなせんとうふうけいでしたが、ふたりともまだ1ねん生。
あきちではそれからしばらく、たいへんスローモーなかわいらしい子どものけんががくりひろげました。
 おたがいけっていだをだせないままにときはすぎ、ハァハァとかたでいきをつきながらあい手のまあいをはかるふたりのみみに、小がっこうのほうから6じかん目のおわりをつげるチャイムがきこえてきました。
 そのおとにゾロはハッとかおを上げ、

「やべえ!くいながきちまう!」

と一こえさけびました。
 いつもムカつくくらいちんちゃくれいせいなゾロがこんなにあわてているのをみるのはめずらしいことです。
 そこでサンジくんは(あ!)とあることにきがつきました。

「くいなって、もしかして4ねん生のくいなおねえさまか?」

ききおぼえのあるなまえにびっくりしたサンジくんは、大きなあおい目をみひらいてゾロにつめよります。
 くいなちゃんはゾロやサンジくんとおなじ小がっこうの上きゅう生なのです。

「おう」
「なんでおまえ、くいなおねえさまをしってるんだ」

サンジくんはしょうしょうませたお子さまで、にゅうがくするなり1ねん生から6ねん生までの女の子をすべてチェックしまくっていました。
 くいなちゃんはそんなサンジくんの『かわいい子リスト』のなかでもトップクラスにいちする、ちょっとクールなかんじがたまらないびしょう女なのです。
 そのあこがれのびしょう女を、どうしてけんどうおたくのゾロがしってるんだろう、とサンジくんはくびをかしげます。
 ゾロはそんなサンジくんのすがたにおもわずほそいまゆげをぴくんとうごかしました。
大の女の子ずきで、かわいい女の子をみると目をハートマークにしてでれでれするという、はなもちならないくせをもっているサンジくん。
ゾロはそれがどうにもいやでしかたがないのです。
 ゾロはしょうしょうきぶんをがいしながらも、

「あいつはおれのししょうの子どもなんだ」

とかえしました。

「ししょうって、けんどうのか」
「おう。くいなはおれのけんのライバルだ」

このことばに、サンジくんはむうっとくちびるをつきだしました。

「ライバルだと!?てめえ、レディあいてにケンカするってなあどういうリョウケンだ!」
「ケンカじゃねぇぞ?れっきとしたしょうぶだ」

さらりとそういうゾロに、サンジくんはぐっとつまります。
 サンジくんにとってはけんかもしょうぶもおなじことなのですが、ゾロにとってはそうではないのです。

「くいなはすごくうでがたつぞ。おれはまだ一どもあいつにかったことねえから、はやくあいつにおいつきてえ。だからあいつよりさきにどうじょうにいかなくちゃ」
「…ふうん」

がぜんはりきりだしたゾロとはたいしょうてきに、ぼそっとつまらなそうにサンジくんがあいづちをうちました。
 なぜかそのままうつむいてしまったきんいろのつむじをみて、こんどはゾロがおや、とくびをかしげます。

「どうかしたのか」
「・・・」

いつでもひつよういじょうにおしゃべりでげんきいっぱいのサンジくんがだまりこむなんて、てんちがひっくりかえるくらいめずらしいことです。
 ちょっとしんぱいになってこえをかけると、サンジくんが小さいこえでこんなことをいいました。

「おれ、ゾロのライバルは、おれだけだとおもってた」
「サンジ?」
「くいなおねえさま、か。―――しょうがねえよな、あいては4ねん生だもん」

おれなんかがかなうわけねえ。
 そういってちょこっとわらってみせたサンジくんのかおは、ゾロがそれまでみたことのないさみしそうなひょうじょうで。

「さっさといけよ。…レディをおまたせするもんじゃねえ」

ゾロはなんだか、これはヤバイとあわてました。

「おいごかいすんな。くいなはそんなんじゃねえ」
「え」

いきなりゾロにぎゅうっとだきつかれたサンジくんは、あれ?と目をぱちくりさせてかたまってしまいました。

「おれは、あいつとおまえをくらべたりなんかしてねえぞ」

おれのよめさんになるのはおまえだけだ、とか小さなみみもとでズバッと男らしくせんげんされて、サンジくんはがくぜんとしながら(かんちがいしてるのはてめえだ!)とあわてます。

 ゾロにかつことだけをもくひょうに日び足わざにみがきをかけるじぶんにとって、ゾロがライバルとみとめるあいてがほかにいたのが、なんだかくやしかっただけなのに。

 しかもゾロもサンジくんも男の子。
よめさんどころのさわぎではありません。このアホはいつまでねごとをほざいてやがるんだ、とサンジくんはじぶんをだきしめたままのゾロのおなかにひざげりをくれてやろうとこしをひきましたが、

「おれ、きょうで7さいになるんだ。もうちょいおとなになったら、ちゃんとおまえをむかえにいくから」

なんてさわやかにニパッとわらわれて、がぼーんとアゴをはずしそうになりました。
 ゾロはそんなサンジくんのかおもやっぱりアホでかわいいぜ、なんてしょうもないことをかんがえながら、ぼんやりしたままのサンジくんにちゅっとキスをしてやりました。
 サンジくんにまけずおとらず、これまたおませな1ねん生です。

「じゃあおれいくから。ゆうごはんはおまえのうちでおしょくじなんだと」

さっさとうわぎとランドセルをひろうと、またあとでな!とゾロはふりかえりもせずかけだしました。
 サンジくんはぼうぜんとそのうしろすがたをみおくりながら、

(そーいえばジジイがおれのともだちのうちがよやくいれてるとかいってたっけ。あれはゾロのたんじょう日いわいのことだったのか。ていうかなんでおれはいつもあいつのペースにのせられちまうんだ)

もしこのままなしくずしによめさんにされちまったらどうしよう、とサンジくんはじぶんのしょうらいにばくぜんとしたふあんをかかえながら、

(…まあ、きょうはたんじょう日だから、とくべつにみのがしてやるか)

なんてちょっとほっぺたをあかくしたそうです。








 十ねんご、ゾロはそのときのことばどおりサンジくんのおうちにおしかけて、

「そーいうわけだからこいつはおれがもらう」

と、サンジくんのおじいちゃんがけいえいするレストランのどまんなかで男らしくプロポーズしました。
 サンジくんは「てめぇ人まえでなんてコッぱずかしこといいやがる!」とゾロにかかとおとしをくれましたが、サンジくんのおじいちゃんはサンジくんのおじいちゃんらしくちょっとかわったところのある人でしたので、ガハハハハとごうかいにわらって、

「今どきめずらしくおとこぎのあるやつじゃねえか」

とゾロを大そうきにいったようでした。
 またしてもけっかオーライです。



 そしておとなになってゾロがくいなちゃんをみごとまかしたあとも、やっぱりゾロのライバルはサンジくんだし、サンジくんのライバルはゾロだったので、ふたりはいまもまい日なかよく、ドカバキケンカしながらいちゃいちゃしているごようすです。





めでたしめでたし。

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 (2003.11.11)

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