リクエスト 4 |
4 「―――ロ。ゾーロ」 「…あ?」 何度も何度も名前を呼ばれ、放心状態だったゾロはようやく意識を取り戻した。 自分を呼ぶのはトモダチになったばかりのコックだ。息がかかる距離で怪訝そうにゾロを見つめている。 「なんだ?」 「なんだじゃねェよ。終わったんですケド」 「お」 すまん、と何故か詫びながら、ゾロは握ったままだったサンジのそれをぴんぴんと軽く上下に振ってやった。 出し切れなかった雫がちょんちょん便器に落ちる。 サンジはもう一度ふーと息を吐き、ゾロも同様に熱い息を漏らした。 「…ありがとよ。もういいぜ」 サンジがどこか不貞腐れたように喋るのは機嫌を損ねたからではなく、後始末までさせてしまった照れ隠しのせいなのだろう。 目元まですっかりピンクに染まった顔で下唇を尖らせている。 「!!!!」 (なんだなんだなんだこのツラは!) どうしようもなく、なんというか、 …カワイイ。 めちゃめちゃにしたくなるくらい、カワイイ。 まるで呪縛されたようにゾロはサンジの顔から視線が外せなくなった。 体を流れる血液が一部分にガンガン流れ込んでいく。 「ゾロ?」 (ヤベエ) ロロノア・ゾロはかつてイーストブルーで魔獣と恐れられた男である。 麦わら海賊団に入ってからも当然その性質は変わらず、むしろ海賊に身を貶した分、いろいろと開き直った部分があったかも知れない。 とまあぶっちゃけた話、彼の本質はドーブツだった。 ドーブツとはすべからく本能のまま行動するものである。難しいことなど考えない。 ゾロの脳はさかんに目の前の獲物を喰らい尽くせと命令を出している。 (つーかヤベエだろそりゃ) 思わず心の中で自分にツッコミを入れてしまった。 全くもってヤバイ。相手はやっと手に入れた、唯一のトモダチなのだ。 幾らそーいう気になってしまったからとはいえ流石にトモダチを喰らっていいわけがないと、ゾロは数少ない理性を総動員させて、身のうちに沸き上がった劣情を抑える。 そんなゾロの状態には全く気がついていないサンジは軽く首を傾げ、ゼンマイが切れた人形のようにいきなり動きを止めてしまった男の様子を伺っていた。 常に表情の伺えぬ男がまるで凍りついたように自分を見つめている。 そのくせ抱き締める体温はやたらと高く、サンジは自分にまでその熱が移りそうだ、と酒でぼんやりした頭で思った。 なんだか、なんだかどきどきする。 やがて沈黙に耐え切れなくなった青年は、生まれてこの方メンチ切り対決では負け知らずだったこれまでの19年の人生の中、初めて自分から先に目を逸らした。 上体を倒して便座を降ろし、水タンクに手を伸ばす。 ざばあっと中栓が開いて、勢いよく便器に水が流れ込む音。 さてこのとき。 サンジは膝まで自分の下着が下げられていることも、男の弱点というべき大事な部分にゾロの手が掛かったままだったことも、すっかり失念していた。 自ら前屈みになり、形の良い白い双丘を無防備にも背後の男に突き出したあられもない格好。 無論そんな自分の態度が余計に男を煽っていることになど気付くわけもなく―――。 背後の男が息を呑むのにも気付かなかった。 ぷちん、とゾロの脳内で何かがキレる。 「うっし。…甲板で飲みなおしと行くか」 「―――おい」 「ん?」 「さっき。気持ちよかったか」 そのままの格好で首だけゾロにまわしたサンジの耳に、地獄の底から響いたか、というような凄みのある声が入ってくる。 しかしまあ元々温厚とはお世辞にも言いがたいロロノア・ゾロだ。 普段とは少々違うその調子も別段気にせずにサンジはあっさりと返事をする。 「ア?うん、まあ…」 イヤー我慢に我慢を重ねただけあってそりゃもー絶妙な爽快感だったぜとかなんとか、照れが交じったか饒舌になった青年に、 「もっと気持ちよくしてやる」 ニヤリと凶悪に哂う魔獣が囁き、それと同時に股間に触れたままだった指先が怪しく蠢いた。 そしてサンジは今、便座の蓋に跨ってその白い足を大きく開いている。 股の間に覗くのは緑色の強毛。 「っや、ア、ああッ…!」 狭いユニットバスにぴちゃぴちゃと絶え間なく反響しているのは、閉め忘れたシャワーから零れる水滴ではなくてゾロがサンジのそれに舌を絡めて上げた音だ。 先端から零した蜜と男の唾液が混じりあい、サンジの陰茎は既にぐっしょりと濡れそぼっている。 サンジは次から次へと襲い来るありえない感触とそこから生み出される感覚に翻弄されながら、ゾロの短い頭髪を指で引っ張りつつようやく掠れた声を絞り出した。 「ゾロ、ゾロ!…ァ、な、んで…ッ」 「…トモダチ、だから」 もっと気持ちよくしてやりたくなったと、くびれた部分をかじかじと甘噛みしながらゾロが答える。 そこから走る僅かな痛みと、その何倍もの快感に、ひっとサンジが仰け反った。 握りこまれたままだった部分を突然上下に擦り上げられた青年は、既に立ったままの状態で一度ゾロの手の平にその精を放っている。 力のまるで入らない体と思考もままならぬ頭では男に制止の言葉をかけることすら思いつかず、ましてや抵抗など出来るはずもなく。 自分のやりかたとは全く違う乱暴なその手の動き。 熱のこもった容赦のないスピーディな愛撫に追い立てられ、脳がハジけるかと思うほどの快感と共に欲望を吐き出した。 己の身に何が起こっているのかも理解出来ずただ朦朧と吐精の余韻に浸っていたサンジは、促されるままゾロが降ろした便器の蓋の上に腰を降ろし、呼吸も整わぬうちに更なる快楽へと誘われる。 ナカヨクしてみたいと思いつつもお互いどうしても素直になれずに、憎まれ口ばかり叩き合ってきた男。 下らぬ諍いで殴り合い、後味の悪い想いばかりを繰り返し、そしてようやく。 ようやく心を通い合わせたばかりの今―――その彼が躊躇いもなくサンジのペニスに舌を這わせたのだ。 酔いも一気に冷めてしまうほどの驚愕がサンジを襲う。 けれどそれは、ゾロがサンジに施した行為に対してだけではなく。 ゾロから受ける口淫にちっとも嫌悪感を抱かない自分へのものが大きかった。 (何で俺ァ) どうして自分は、こんなことをされても平気でいるのか。 かつて副料理長として働いていたバラティエにおいて、サンジはたまに客からセクハラまがいの嫌がらせを受けることがあった。 それが本当に相手の嫌がらせだったのか、はたまた物好きの色狂いが相手だったのかサンジには解らない。 覚えているのは「気持ち悪い真似すんな」と激怒して、片足一本で沈めてやったことだけだ。 けれど今、それ以上のことをゾロにされていても湧き上がる想いは羞恥の類いだけで、気持ち悪いとかおぞましいとか、マイナスな気分にはちっともならなかった。 (―――もしかして) 「トモダチ…だから?」 「おう。お前の気持ちイイ顔、もっと見せろ」 さらりと言ってのけたゾロに、サンジの脳内の何かも吹っ飛んだ。それが彼の理性の箍だったのかオツムのネジだったのかは不明である。 サンジの骨ばった白い指先が、ゾロの頬にそっと当てられた。 舌先を使って浮き出た裏筋を嬲っていたゾロはん?と動きを止めてサンジを見上げる。 「立てよ。―――俺も、テメェを、ヨクしてやる」 |
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